見出し画像

【パブリックアフェアーズ動向】ワシントンD.C&ブリュッセル二大拠点比較

Nick DeSarno, Public Affairs Council, Director, Digital and Policy Communications
Joao Sousa,
Managing Director, European Office, Public Affairs Council

#1minDebrief


米国のパブリックアフェアーズチームが欧州で「抱きがちな誤解」とは?

セッションでは、ワシントンD.C.とBrusselsの違いについて議論がありました。

そもそも、米国企業も政策トレンドセッターとしてのEUの重要性、いわゆる「ブリュッセル効果」を理解しているとのことでした。特にサステナビリティやエネルギー効率、気候変動などの分野で一歩先を行きたいのであれば、ブリュッセルに進出し、強い存在感を示す必要があるとの認識が米国企業にもあるようです。

例えば、データ保護規制のGDPRや反トラスト法では、EUは世界をリードしています。ですので、たとえEUに大きなプレゼンスを持っていなくても、長い目で見れば、世界中の会社や団体に大きな影響を与える規制がEUで動いていることになりうるのです。また、EUでは、気候変動や反トラスト法のような規模の課題で、政策の最終決定には何年もかかるものを動かしている印象です。

ブリュッセルとワシントンD.C.、この2つの都市は、世界的に見ても非常に大きなパブリックアフェアーズの中心地です。ただ、機能は大きく異なります。もちろん、制度的な地形も大きく異なるのは言うまでもありませんが、「ブリュッセルは非常に技術的な都市」という発言がありました。つまり、ブリュッセルでは、非常に活発に技術に関する規制や法律を提起・制定しているということです。

ただし、特に米国企業は、「影響力ある政治家へのアクセス」と「実質的な影響力」を混同していることがあるとの指摘も。EUの委員や政治家にアクセスすることは可能だが、そのアクセスが実際に政策決定プロセスに影響を与えるということではないという点を理解する必要があるそうです

以下から、ワシントンDCとEUの違いを簡単に発言者の要点をまとめてみました。

ワシントンDCは「政策パッケージ」と「草の根」を制する必要がある?

  • 例えば、バイデン政権では2021年の間に重要な法案がいくつか成立した。さらに言えば、トランプ政権で極論に走ったときでさえも、政策が通っていたことも指摘しておきたい。米国では、しばしば大きな政策パッケージで議論されていく。同時に、15から20のイシューに対処しなければならないことがよくある。

  • ある法案に組織として賛成しても、その法案が別の法案に追加され、その別の条項が気に入らないということはよくあること。あるいは、修正案として変更することもある。このプロセスが信じられないほど複雑であることを理解する必要がある。

  • 米国チームについて、欧州側が感心していることの1つは、広報の効果を測定する方法と、その効果をドルやセントの数字で把握する方法を深く理解していること。アメリカでは、どのようにインパクトを測定するか、どのように数値化するか、どのようにビジネス用語で広報のインパクトを伝えるか、どのようにビジネス用語で他の部署や意思決定者に伝えるかについて、非常によく理解されている。

  • 米国の特徴は、州、連邦政府、地方公共団体には、草の根から寄せられる電子メールや電話など、あらゆる種類のものを管理するためのプロセスがしっかり存在している。そのような問題を取り上げるケースマネジャーがいて、連絡をくれた人たちに返信している。署名を集めるためのプロセスとオンラインシステムがある。また、議員が有権者の支持があることを示すために、さまざまな手段やタッチポイントがある。米国の議員に、立場を決めかねているときに最も影響力があるのは誰ですか?と聞くと、最も影響力があるのは有権者からの声という。

欧州(EU)は「大きな船」

  • 欧州・ブリュッセルでは、政策の観点から専門知識と、その政策課題に関するリーダーとしての信頼性が重要。一方、米国では、政治家の事務所で働いた経験があるというだけで、採用に至ることがよくある。とはいえ、米国も変わりつつあり、より政策指向になってきていると思う。

  • 大きな船の進路に影響を与えようとする場合、プロセスの初期段階から参画する必要がある。船がすでに航海中であるときに影響を与えようとするならば、それははるかに困難。ブリュッセルはより技術的な都市であることを理解して、早い段階でゲームに参加する必要がある。

  • 「ネットワーキング・ロビイスト」と「ナレッジ・ロビイスト」という名称がある。ブリュッセルでは、この2つのロビイストが重要な役割を担っている。実際、ブリュッセルの多くの企業では、複数のコンサルティング会社がさまざまな方法で支援している。技術的な専門知識を持っていることは、間違いなく必要。プロセスの基本を理解した上で、協力者(コンサルティング会社など)を見つけることが第一ステップ。

  • EUでは、個々の企業が法律や政策に大きな影響を与えることは非常に困難。したがって、さらに、アソシエーション(注:アドボカシー団体や業界横断した連合など)への関与も重要。これらの組織は、実に強力。技術系であれ製薬系であれ、あるいは化学系であれ、どんな分野であれ、所属し、活動できる団体が1つ以上ある可能性が高い。可能な限り、連合やパートナーシップの観点で考える必要がある。最も成功している企業は、そうしている。

なお、以下にまとめましたが、北米との違いで、欧州では草の根アプローチが難しいという指摘が興味深かったです。

  • EUでは、米国と比較にならないほど多くの草の根運動が行われていない。その理由のひとつは、そもそも市民が自分たちの欧州議会議員が誰なのかを知らないことです。文字通り、ほとんどの人が、自分の議員が誰なのか知らないので、連絡を取る機会は稀。さらにいえば、欧州議会は市民からの声に対応するためのインフラを持っていない。

  • EUは非常に多様で、このシステムを作るにも長い道のりを歩んできた。欧州連合が実際に存在することを望まない懐疑的な人たちもまだいる。米国に存在するような草の根運動を実現するためには、制度的な障壁が依然として存在する。

  • 例えば、欧州市民イニシアチブと呼ばれるものがあるが、欧州委員会に請願書を提出することができるシステムである。欧州委員会は提出された請願書を検討し、考慮し、必ずしも行動する必要はないが、検討することが義務付けられている。しかし、いくつか条件があり、100万人以上の署名が必要、また、少なくともEUの7つの国から言語も文化も異なる署名必要。多くの人々にとって、自国の政府がいまだに政治への最初で唯一の入口。

  • 市民の視点では、EUは官僚的なプロセスでもある。その過程で、自分の声が届いていないと感じる人たちも多い(実際ブリュッセルでそのようなデモもあった)。そのため、EUは多くの分野で、EU自体の重要性を含むさまざまなトピックのコミュニケーション・キャンペーンに、大きな投資を行ってきた。

企業の政策関与度、アプローチの違い

  • EUは政治的な圧力や企業からの影響から、多くの場合「隔離されている」。これは良いことでもあり、悪いことでもある。間違った政策や好ましくない政策が、EUでは米国よりも明らかに長く膿み続けることにもなる。

  • ただ、企業の支援なしには、持続可能性や気候変動のような途方もない問題に取り組むことはできないことも事実。したがって、民間企業が政策への関与に真剣に乗り気でないといけない。

  • グローバルな公共政策チームを持っている企業は最も実行力があると思う。ある国では特定のことのためにロビー活動をし、別の国では少し違うことのためにロビー活動をする、というようなやり方よりも、グローバルな方法で統率をとって行われた方が、インパクトがあると思う。

  • 欧州は米国ほど急成長しておらず、米国で成功した大企業が必ずしも欧州の企業ではないことを認識することも重要。米国には多くのハイテク企業があるが、Fortune 500に名を連ねるようなハイテク企業がEUにはそれほど多くなく、アメリカ中心のアプローチに移行しているともいえる。アメリカの大企業で、ヨーロッパに拠点を置いているのであれば、EUにどのような影響を与えているのか、EUの雇用の拡大にどのように貢献しているのか、そういったことを伝えることが重要。というのも、米国に拠点を置く企業は、ほとんど「敵」のように欧州が捉えることもあるので注意。

  • EUはソート・リーダーシップ・イベントが大好きで、政治家と報道機関の記者がステージに上がり、大勢の人々の前で特定の問題について話をする、そんなパネルがたくさんある。加えて、より小規模で親密なラウンドテーブルを行うという形態が多い。

  • シンクタンクは、米国よりもEUのブリュッセルでより強い発言力を持っている。米国でもシンクタンクのことは少しは考えられていますが、EUほど強くはない。白書などをみても、欧州はより技術的で、もう少し専門的であることは間違いない。


###END


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?