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プロカメラマンの奥義
今回は私がプロカメラマンになった最初の頃に先輩カメラマンから教わったカメラマンとしての「所作」についてお話ししたいと思います。
私は鹿児島で写真館をしています。今年で28年目になります。
10年前、息子が18歳の時、写真家を志し私のスタジオに入社しました。
そこで私が息子に伝えたプロカメラマンとしての奥義を書きます。
奥義と言っても「一子相伝」のような大袈裟なものではなく、結局は先輩カメラマンからの受け売りなので隠すようなものでもありません。
ですので私が生きてる間にここに書き残したいと思います。
文字では伝わらないこともたくさんあって、ここに全部は書ききれないと思いますが、少しでもプロカメラマンを目指しているような人に伝われば良いなと思います。
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①「光を体に染み込ませる」
スタジオアシスタントを経てスポーツ新聞社に入社した私は長年の夢だったF-1カメラマンになりました。
スタジオアシスタントを極めていた私は初めてのサーキットでポケットから露出計を取り出して露出を測っていました。すると同行してくれていた先輩が丘の向こうから血相変えてすっ飛んできました。
『ごぅら〜おまえ〜〜!何しとんじゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!激怒』
面食らった私は
『は?露出測ってますけど何か?』
自信満々に鼻高々答えます
すると先輩の顔は見る見る鬼の形相になって、もう目も血走って今にも飛び掛かってくるくらいの勢いで
『あ===??じゃ〜なにか〜? その露出計とやらがぶっ壊れててめちゃくちゃな数字を出したとしてもお前はその数値で撮るっちゅうことやな?? なぁ?』
と迫ってきたのです。
当時はフィルムの時代
シャッターを切ってから画像を確認するまでには相当な時間差があって
フィルムの現像が仕上がる頃に失敗が分かっても「後の祭り」という時代でした。
つまり、露出計なんぞに頼らなくても今の光に必要なシャッタースピード、絞り値くらいは身体で覚えろ!
ということを伝えようとしてくれていたのでした。
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なんかたいそうな事のように書きましたが、実はこのことはフィルムの外箱に書いてあるんです
今、フィルムって売ってないからみなさんは知らないと思うんですけど、昔のフィルムの箱にはちゃんと書いてあったんですよ。
勿体ぶらずに結論を言いますが、
ISO400のフィルムに必要な数値は
明るい日中なら
シャッタースピード(SSと表記します)1/500
絞りf11
です。
曇り日なら
SS=1/500
絞りf8
暗めの曇り、軒下など
SS=1/500
絞りf5.6
です。
これで写ります。
ていうか、この条件で写るようにISO400のフィルムは作られます。
これを徹底的に身体に叩きこむのです。
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と、偉そうに書いたんですが、これ実は「EV」のことなんですよね。
EV(Exposure Value)
「EV 写真」とかでググってみてくださいね
親切な方がたくさん解説がしてくれてます。
WEB上の説明ではきっと意味が分からないことが多いと思うのですが、上記のことをちょっと小難しく書いているだけです。
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今、自分の周りにある光の量がどれくらいか
これを感じてみましょう。
方法は簡単です。
晴れた日の明るさを徹底的に覚えて(iso400 ss1/500 f11)
曇った時の暗さがどれくらい差があるかを感じるとか、軒下と晴れた外の明暗の差を(光の量)を感じてみる。とか
できればカメラをマニュアルに設定して感じた値で撮ってみて正解、不正解を練習するとか
日々、いや、瞬間瞬間、やってみてください。
3年もやれば光が体に染み込んできて、自分がフィルムにでもなった気持ちでEVが解るようになると思います。
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②「0リセット」
これはスタジオアシスタント時代のお師匠様から教わった考え方です
三脚、ライトスタンド、レンズ、カメラ、など
1日の仕事が終わる時に必ず元の場所に返すこと
ただそれだけです。
面倒くさがらずにやる。
ただそれだけです。
でも、これが意外と難しい。
ちなみに、場所は基本的に何処でもいいのです。
「必ず元に戻っていること」
が大事なのです。
ロケバッグの中もいつも居場所は決まっています。
カメラはここ、このレンズはここ、ストロボはここ、
ギアケースはここ
どうしてか、というと
これも身体に染み込ますのですが、
いわゆる「歩数」で動くようにしたいのです。
意味わかりますか?
自宅で夜中トイレに行く時に
暗闇でも意外と歩けたりしますよね?
アレです。
朝、スタジオの入り口入ります→15歩歩いてドア開けて→防湿庫の2段目にあるカメラと、3段目のレンズを2本取ります→スタジオに戻ってカメラワゴンの上に毎日同じ配置でカメラを置きます。
みたいなことを毎日やる
行動を身体に染み込ませる
すると撮影に集中できるんです。
「あれ、どこにやったっけ?」
「あ〜キャップないやん」
「パーマセルどこだっけ?」
みたいなことやってたら撮影に集中できないんですね
例え停電して真っ暗になっても
歩数でカメラワゴンまで歩いて行って、手探りでカメラとレンズを拾い上げる。
くらいのことが出来るようになって初めて撮影に集中できる
そんな感じです。
これをアシスタント時代4年間、スタジオの先生から徹底的に叩き込んでいただきました。(※叩き込んだと言っても体罰などのアレは一度もなかったですよ、素晴らしい先生でした)
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余談ですが、これ実はカメラ機材にも言えることでして
例えば星空なんかを撮りたいと思ったときに
暗闇の中でもスイッチや、絞りや、ピントや
そんなものが手探りで、いや、目を瞑っていてもできるようになるまで一台のカメラを身体に染み込ませるんですね
そうするとカメラが自分の意志に従ってくれるようになります。
だから、観光地なんかで「写真撮ってもらえますか〜?」なんて言われて普段使わないカメラを渡されたら大パニックになって全く使い方がわからないです(笑)
これも0リセットの一つの考え方です
つまり、
『余計なこと考えなくてもいいように、撮影以外は自然と無意識に動けるように身体に染み込ませろ』
ということだと思います
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傷もほとんど無く丁寧に使われているのがわかると思います
③「機材を大事にしろ」
カメラマンにとってカメラやレンズといった機材はとても大事なアイテムです
そんな事は言われなくても分かってますよね
でもこれ、意識してないと意外とできてないんですよね
もし他のカメラマンが集まるようなところがあれば周りを見てみてください。これから話すこと出来てないカメラマン、たくさんいます。
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1「ストラップは必ずカメラに巻け」
写真を見てください
このカメラを掴んでこのまま持ち上げたらどうなると思いますか?
ストラップが机の角に引っかかって、カメラはあなたの手からスルリと抜けて床にガシャンと落ちてしまいます。
もしかしたら一度や二度経験している人もいるかもしれません。
家で撮ってて壊れたら予備のカメラがある。という状況ならまだマシですが
これが出張先で予備のカメラもなかったらどうでしょう?
その日の仕事は全部パー
仕事をくれたクライアント、準備に奔走してくれたスタッフの苦労、集まってくれたモデルさんや関係者
全てがあなたの安直な行動で全部パーです
そんなことにならないために
カメラを置く時には必ずストラップはカメラに巻きつける習慣を身につけてください
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2「レンズは手でバンパーを」
カメラマンは肩にカメラをぶら下げて歩きます
それで階段や部屋の曲がり角など、狭いところを通過する時『コツン』とレンズが当たります
大したことないです。正直いって
「コツン」「コツン」「コツン」「コツン」
毎日、毎回、やったらどうなると思いますか?
カメラとレンズの接合部分、マウントに小さな衝撃が加わっていつの日か狂いが生じます。
レンズの先端がコツン、コツン当たって鏡胴部分に狂いが生じます。
そんな大袈裟な!そんな細かいことでトラブルなんてあるわけないやろ!
と思いますよね?
でもそんな大袈裟なことが、ある日突然やってくるんですよ、マジで
しかも、そういう時に限って一世一代の大チャンス!
だったりします。
そうならないためにも、移動するときは手でレンズとカメラを保護して手をバンパーの役目として使ってください
手でしたら流石にそれくらいの衝撃ではビクともしませんw
3「ゴトンと置かない」
カメラを机に置くときに「ゴトン」と音を立ててる人が結構多いです
カメラとレンズの接合部分、弱いです。
精度が狂うとピントがズレます
そういう時の撮影に限って一世一代の大チャンス!
だったりします。
たくさんのご縁と、たくさんのスタッフの苦労が
あなたの安直な行動で全部パーです
ちなみに私の機材は何年酷使してもとても綺麗です。
それは日頃から愛情を持って丁寧に扱っているからです
大事な人たちを裏切らないためにも日頃から
機材を大事に扱ってください
それが結局はあなたへの信頼につながっていきます
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④「カメラは首にかけるな」
これは新聞社時代に他社のレジェンド先輩から教えてもらったことです
カメラを首にかけてる人、結構います。
特に望遠、ワイドと2台3台使う時に起こります。
さっと撮れて便利ですもんね。
でも、カメラマンって意外と長い年月やるんですよね。
私だとプロで35年やってます。
アマチュア時代を入れたら45年くらいやってます。
そのスパンで考えると頚椎にかかる負担は無い方が良いに決まってるんですよ
でも、若いみなさんってそこまで想像できてないでしょ?
若いし、体力あるからなんとかなっちゃうんですよ
首にカメラぶら下げてても
だけど、この歳になって初めて分かりましたけど
身体のあちこちガタが出るんですね、
でも若い頃にこの事を教えていただいたおかげで
56歳の今でも首の方はなんともありません。
これ絶対、「首カメラ禁止」が功を奏してると思います
頚椎大事ですからね、お願いしますね。
頚椎をやっちまわないように、最初の段階から身体に染み込ませてくださいね
「カメラは首にかけるな!」
約束ですよ。
カメラは基本的は肩ですかね?
最近だと身体に巻き付けるハーネスみたいなのも開発されてますね。
とにかく若い時からご自分の身体を大切にしてやってください。
カメラマンは体が資本です
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とまあ、私から息子に伝えたことはこんな程度のもんですw
ね?
一子相伝とかそんな大袈裟なもんじゃないでしょう?
気づいた方もいるかと思いますけど
全編に渡って「身体に○×・・・」みたいな事しか言ってませんよね?
目で見て、頭で考えて、判断して、指に指令を送って
シャッターを切る。
身体の中から写真が発信されていることが分かると思います。
つまり、写真を撮るときに一番中心にあるのが
カメラマンの身体なんですね
カメラマンの身体を中心にして
その外側にカメラやレンズ、三脚があったりするんですね
だから、その一番中心の身体に着目して
できるだけ長く選手生活ができるように
若い頃から積み重ねていってほしいと思います
どうやって稼ぐか?とか
楽して儲かる。みたいな話ができれば良かったんですが
残念ながら私はそういうタイプのカメラマンではありません。
コツコツと積み上げてきた日々はあなたの地肉となって
将来確実にあなたを根底から支えてくれる自信の源となると思いますので
楽しみながら身体に写真を染み込ませてみてください
きっと20年後、30年後に私の言っていたことが理解できると思います。