小説版『アヤカシバナシ』ラジカセの向こうから
中学時代は一番私が絵を描く事にのめり込んでいた頃である。
若いせいか夜中になるとペンが進んだ、そんな夜の友が『ラジオ』だった。聴くのはAMラジオ。
FMは話が殆どなく、曲ばかりで良いのだが、好きな曲ばかりとは限らないわけで、絵を描いていると聞こえてくる、話しかけられているような会話メインのAMラジオのほうが心地よかったのだ。
中学生から直ぐに洋楽を聴いていた私は日本人の流行りの曲が分からず、会話に付いて行けないのも問題だと思い、AMラジオで情報収集するのも日課だったので一石二鳥。
でも裕福ではなかったのでお下がりの古いラジカセだから、微妙に針を合わせて電波を合わせるので、毎日ノイズとの戦いだった。
そんな中、毎週楽しみに聴くようになったラジオ番組があった。
【ラジオ・オブ・ザ・デッド(仮名)】だ。
パーソナリティーのトークも楽しく、コーナーもクスっと笑ってしまうモノが多かったのでついつい時間になるとかけていた。
そんなある日、同じクラスの塚田さん(仮名)の横で鼻歌でラジオのジングルを何気なく歌ったところ『あ!それラジオ・オブ・ザ・デッドじゃない?』と食い付いてきました。『あれ、え?知ってる?』
『いつも聴いてるもん!面白いよね』一気に会話が盛り上がり、教室でも休み時間毎にラジオの話をするようになり、すっかり仲良しに。
休みの日に今まで遊んだことが無いのにいつしか出かけるようになり、悩み事も聞くようになったりしていた。
公園でたこやきを食べながら塚田さんが言った。
『私、兄がいるんだけどめちゃくちゃ頭がよくってさ、私ホラ、頭悪くてダメダメじゃん、いつも親に出来損ないとか言われてさ』
『そんなことないじゃん、私の知らない事いっぱい知ってるし、頭悪いとかはわかんないけどダメダメなんかじゃないよ』
『ありがとう、でもさぁ、両親2人とも大学出ててさ、兄も大学決まったし、私は前の面談でこのままだと入れる高校無いって言われたしさ・・はぁ~・・』
『元気出して、私だって定時いく頭しかないんだから、なんなら一緒に定時行く?勤労学生やっちゃう?』
『はははは、いいかも!あ、そうだ、先週のラジオ・オブ・ザ・デッド、聴き逃したんだよね?録音しておいたから、はいテープ』
『わお!ありがとう!』
翌日、塚田さんは学校に来なかった。
次の日も次の日も・・・
心配で電話をするが塚田さんの祖母が出て『具合悪くて寝ている』と言う。
何度電話してもそればかりだった。
家に行っても門前払いで、会わせてもらえないどころか、玄関にすら入れてもらえずインターホンでお断りだった。
それから数ヵ月が経過した。
朝の会で担任が神妙な面持ちでこう言った・・・
『塚田が昨日、亡くなったそうだ。。。部屋でその・・・首を吊って・・・自殺だったそうだ・・・葬儀その他は執り行うが、親族だけでやるので申し訳ないが、誰も来てほしくないとの事だからその・・・気持ちはわかるが行かない様に・・・親御さんのお願いだからわかってくれ、以上』
私は悲しいと言うよりも驚きの方が強くて涙は出ませんでした。
気持ちは重く悲しいけど、やりきれないと言うか・・・
中学生の私の心では理解できないくらいの衝撃だった・・・
と言う事なのかもしれません・・・。
整理がつかないって感じだったのを覚えています。
家に帰り、夜、絵を描きながらラジオ・オブ・ザ・デッドを聴く。
馬鹿だったせいか、悲しくて何も手につかないとか、そういう感情が湧く事もなく、言ってしまえば『塚田さんが死んだ』それくらいしか感じていなかった、前に言ったように気持ちの整理が付かないせいで、なんだかフワフワしていたんだと思います。
決して私が人でなしとか悪魔とかそういうんじゃなくってね。
そこで借りていたテープの存在を思い出した。
ラジオの録音ってなかなか聴こう!って気持ちが起こりにくいので、ついつい数ヵ月ほったらかしだったのだ。
私はテープを聴きながらベッドに入った・・
疲れていたのか直ぐに寝てしまったようだったが、何かが聴こえたような気がして『ハ!』っと目が覚めた。
と同時にテープの再生ボタンがバン!と上がった。
確かめたくて番組終了まで巻き戻してみる・・・
番組が終わった後に塚田さんはちゃんと録音を切ってくれていた。
ブツ・・・と言う音が入ったのでそれが分かったのだが、直ぐにカッチャ・・・と音が鳴り、ラジカセの向こうに人が居る感覚って分かりますかね・・・スーッと無音なのだが気配がある感じ。
何か言おうとしているのか勝手に録音されてしまったのか・・・
数秒・・・いあ数十秒経過しただろうか、眠気が襲って来た・・・
消そうと思って手を伸ばした瞬間スピーカーから
『ありがとう』と塚田さんの囁くように消えそうな声が聞こえた。
色んな気持ちの籠ったありがとうなんじゃないか、あの日私に会う前に入れたもの・・・だとすればその時からもう死を決意していたのだろうか。
借りたその日に聴いてこれに気づいていたら救えたんじゃないか、なんにも出来なかった自分が悔しくて、その時滝のように涙が流れた。