月光
月光が木々の葉のをくぐって照らしていた。
巣の中では、今、充ち足りた時間だけ。
世界はどんなに冷たくても、どんなに怖ろしいことが起きていようとも、
その小さな巣の中には、あたたかく柔らかく、穏やかな時が流れている。
親鳥はおもう。
この世界の広さ、すべてをこの子に見せてあげたい。
この広い空。すべてはこの子のもの。
美しい花畑も、神々の住まう雄大な山々の峰も。
そしてまた、こう思う。
この子に降りかかる、どんな熱い火の粉も、冷たい雨も、私が振り払ってやろう。
この子が自分の力で羽ばたくその日まで。
子はすやすやと眠る。
母鳥の温かい羽毛の中で。
そのぬくもりに陽の光を夢見ながら。
その巣の中には充ち足りた時間だけ
おだやかな月光の夜のことだった。
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