吉原はこんな所でございました 廓の女たちの昭和史 (ちくま文庫) 福田 利子
この本は、吉原の地にあった料亭「松葉屋」の女将 福田利子さんが、吉原という地がどういったところであったのかを、実体験や文献を頼りに描き上げてくださる一冊です。
吉原とて、貸座敷のみにあらず
一番おもしろかったのは、P76-78 二章 私が松葉屋に来たころ 吉原の仕組み
三業組織と申しますのは、貸座敷、引手茶屋、芸者屋の三つの業種のことで、この三つの業種に分かれていることによって、また別の見方をすれば、この三つの業種が一つになっていることで、吉原遊廓の中に格式が生まれていたともいえるように思います。
貸座敷は、いわゆる遊女屋のことで、六、七人から三十人ぐらいの花魁をかかえ、お客を迎えていましたが、この中には、大見世、中見世、小見世の等級がありました。
芸者、幇間の仕事場は引手茶屋でございました。ここでお客に得意の芸を見せ、"修羅場"といわれるお客との言葉のやりとりもし、大見世に行く前のお客を楽しませました。
引手茶屋、貸座敷、芸者は、このように仕事の内容がまるっきりちがっていましたけれど、その一つが欠けても"吉原"ではなくなるということで、それぞれの区分を守りながらもそのつながりをもっていました。
花魁たちの居る、貸座敷ばかりが目立つけれども、吉原はそれのみで成り立っていたわけじゃない。引手茶屋、芸者屋まであってこその吉原遊廓であったという。
吉原の町全体は、ひし形になっていました。その周囲は「お歯黒どぶ」と呼ばれる、幅3メートルぐらいの堀に囲まれていて、基本は大門から入るのみ。
当時の吉原大門、絵葉書でこんな感じらしいです。
全体の地図は、こちらがわかりやすい
大門を通って、左右お歯黒どぶに沿った道、東側は通称「羅生門河岸」西側は「浮念河岸(じょうねなんがし)」。ここは、大見世、中見世、小見世よりもさらにランクの低い、河岸見世と呼ばれる貸座敷があったそうな。
いわゆる貸座敷(大見世、中見世、小見世)へ行くには、引手茶屋を通さなければ入れない。引手茶屋で、飲み食いしながら好みとかを伝えると、貸座敷と遊女とを手配してくれたそうです。2回目からは、もうわかっているから、飲み食いしているだけでもいい。
それに、貸座敷まで行かずに、引手茶屋だけで満足して帰っていく。なんてこともあったそうです。
引手茶屋は、要するに吉原で「飲食店兼 紹介所」として機能していたということでしょうか。
もちろん、大門を通ってそのまますぐに貸座敷へ行くということも、できないわけでは無かったのですが、どうやら引手茶屋へ行ってから、貸座敷へ行くというのが多かったようです。
芸者は、現代のじぶんらが思い描くような、芸事を行う人達です。つまり、唄や三味線、踊りや話芸などといった”芸”で生計を立てている人たちです。花魁たちと区別が難しく感じることのあるかもしれませんが、基本、芸者たちは「芸は売っても身は売らぬ」というプライドを持っていたそうです。
このあたり、中途半端に時代劇とかを見ると、何がなんだかわからなくなるから難しく感じてしまいますね。
ちなみに "芸者"というと、女性とばかり思い浮かんでしまいがちですが、「幇間(ほうかん)」という男性のやる芸者仕事もあったそうです。お座敷でひょっとこ踊りとかを、やっているような方たちのことですね。ざっくり言うと。
こんな風に吉原をゆっくり見ていくと、「貸座敷」「花魁」といった目立つ職業だけではなく、その花魁を引き立てるようにして、別の業種業態が同じ吉原の町で成り立っていたことがわかります。
この物の見方、応用してみるとおもしろい。
引き立て処を見極めれば、前後にビジネスの兆し在り
繰り返しますが、吉原の場合はやはり「貸座敷」「花魁」が、目立ちます。でも、それ以外にも、引手茶屋、芸者屋といった業者が存在し、その三業組織があってこその吉原でした。
このようにして、本目的を見定めて、その前後を仕立ててあげる、見繕ってあげるという考え方は、様々に応用ができると思います。
現在の吉原にせよ、全く違う飲食業態にせよ、コンビニだろうと、家電量販店だろうと、スポーツジムだろうと、ECサイトだろうと、アートビジネスだろうと、美術館だろうと、床屋だろうと、雑誌だろうと、テレビだろうと、なんだって応用が効くと思います。
今の吉原にだって、たとえば、予約代行やら店探しを手伝ってくれる、かつての引手茶屋のような仕事だってできるでしょうし(法的にどうかは知らないですが)、予約時間を待っている間のカフェだったり、Starbacks Reserveが取り入れているような、LINEで待ち時間を知らせてくれるシステムを売り込むことだってできるでしょうし、
あるいは、芸者や幇間が盛り上げてくれていたようなことになぞらえて、ブルーノートや、DJがいるクラブのような空間があってもよいかもしれないし、もちろんコント・漫才・落語等々の話芸であってもよいかもしれない。
だから、何も飲食店をやるからといって、飲食業にだけ従事するのではなく「吉原に来た客の一日を饗す」場所としての飲食業というポジショニングもできれば、「プロポーズをするための店」みたいなことにしてもよいかもしれないし何だっていい。
主人公ばかりが、役者じゃない。
終わりに
「本を読んだり、新しいこと知るのは興味あるけど、そんな時間無い!」という方、ぜひこの #週一文庫 のマガジンをフォローしてください! 代わりに毎週じぶんが何かしら本を読んで2,000文字程度で紹介します!
ビジネススキルのような、明日すぐに使えるものでは無いけれど、雑学として知っておくと日常がちょっと面白くなる。そんな書籍を紹介し続けていきたいと思っています。
今週の一冊はコチラ▼