あなたとわたしの卓球観戦
思いがけない1日に。
その日なぜ卓球観戦の誘いを受けたかと問われると、「意外だったから」の一言に尽きると思う。
少し疲れていたし、他の予定もあったといえばあった。いつもなら断ってしまうような、突然のお誘い。
わたしの大切な友人Kさんは、11月某日夫婦で卓球Tリーグの試合を観に行く予定だったのだが、当日になり旦那さんが体調不良になってしまったらしい。チケットは既に手元に2枚。
このような状況で私にお鉢が回ってきた、という有難い次第である。
そうは言っても、Kさんが私を誘ってくれる、というのはとても意外なことだった。
私は「こんなことをしそうにない人が、なぜかそうする」という選択に、グッとくる。
世間で言うところの「ギャップ萌え」の気質バージョンといったところか。
「ギャップ萌え」は外見と中身のずれを指すことが多いが、私が好むのは気質のギャップだ。いつもならそんなことを好む質ではないのに、あえて今回はそれを選択する。その意外性や蛮勇に惹かれてしまう。
個人のフェティシズムはさておき、卓球観戦。
さくさく準備、会場へ。
Kさんは待ち合わせの場所や時間、駐車場の場所をわかりやすく示してくれた。快適である。彼女らしい律儀な連絡が頼もしい。
スポーツ観戦はもう何年も行ったことがないけれど、ライブには年に数回行くので勝手が近しいだろうと服装や持ち物を決める。
日本ペイントマレッツ VS 日本生命レッドエルフ
マレッツのホームゲームなので、私たちは自然とマレッツの応援。
会場には約500人。受付で選手紹介と、折るとハリセンになる応援グッズがもらえる。(結構いい音がする。)
卓球メモリーが「窪塚洋介asペコ」でおなじみ『ピンポン』で止まっていた私は、最新の卓球台のかっこよさに先ず驚き、そして次に私たちの席が良席であることに驚く。ものすごく近くで観られるではないか。
いざ、試合開始。
我らがマレッツの皆さんは小柄でショートカット、いかにも「卓球少女」然としているのだが、対する日本生命は「レッドエルフ」の名をほしいままに(?)流行りのシースルー前髪に飾りピンでシニヨンという小慣れぶり。
チームカラーとはかくも色濃く出るものか。
失礼な話だが、陰キャとしては純朴なほうを応援したい。
がんばれ、マレッツ。負けるな、マレッツ。
さて卓球の知識のない私は、速すぎる試合展開に表で打っているのか裏で打っているのかもわからず、ひたすら「おおー」とか「うまー」とかあほみたいな感想を発するばかり。
「最終ゲームは6-6スタート」という基本的なルールも知らなかったので、ぼーっとしている間にいつの間にか6点になったのかと真剣に焦った。
しかし素人目にもベテラン・芝田沙季選手の活躍ぶりは明らか。
本人自身のプレーも、会場や後輩(残りの選手は中高生でデビュー戦)を盛り上げようとする姿勢も、ほんとうにかっこよくて痺れた。
オリンピックや世界選手権でテレビにうつる選手なんてほんの僅かで、国内リーグにも部活動にもスター選手は存在して、周囲を魅了するものなのだ、と改めてスポーツの力に胸が熱くなった。
きまじめな、わたしたち。
卓球観戦そのものも大変楽しめたのだが、私がこの日最も気に入っていたのは、私とKさん2人の観戦態度のほうだった。
Kさんは夫婦で観戦するよりも寛げなかっただろうし、周りの観客はほとんどが友人・家族どうしの気の置けない間柄に見えた。(業務の付き合い上参加している企業・行政の関係者を除いて。)
私たちは2人とも、あたたかくかつ場所をとらない動きやすい服装で、飲み物を持参し、合間には互いに飴やチョコレートを交換しあったりした。
配布された選手紹介を隅々まで読み、選手の生年月日や好きな有名人について感想を述べ合う。
集中して試合を見つめ、得点が入ればハリセンで称える。
なんというのか、とてもきまじめな観客だったと思う。
暗くなった外に出て、寒さに身を縮める帰り道。
冬へと向かう空を見上げて思う。
今朝起きたときは卓球観戦をするなんて、思ってもみなかった。
けれど、とても良い日になった、と。