『開拓王 The King of Frontier』制作ノート デザイン編
※この記事は以前ブログに書かせていただいた記事をnoteへ移動および加筆修正したものになります。
今回は、ゲームマーケット2013秋に発表した 『開拓王 The King of Frontier』がどのようにしてできたのか、その過程を制作ノートという形で紹介させていただきたいと思います。
→『開拓王 The King of Frontier』の概要
私自身、『開拓王 The King of Frontier』を制作するうえで、他の同人ボードゲームデザイナーの方の制作ノートやボードゲームに対する考察記事が大変参考になりました。特に、I was game さんのVorpals の制作ノートや遊星ゲームズさんのゲーム・論考の記事は何度も読み返さえていただきました。
それらの記事には到底およびませんが、今後、ボードゲームを作られる方のなんらかの参考になればと思い、自分が受けた恩を返すつもりで制作ノートを公開させていただくことにいたしました。
ボードゲーム制作に関して初心者の記事ですので、間違っていることや、突っ込みどころもいっぱいあるかもしれませんが、こういう考え方で作っている人もいるんだ、という一例として受け取っていただければと思います。
制作ノートはデザイン編とディベロップメント編の2回に分けて紹介させていただきたいと思います。
この記事は一つ目のデザイン編として、『開拓王 The King of Frontier』の着想からゲームの形になるまでについてを紹介します。
中量級ゲームを作ることにしたわけ
同人ボードゲームを作り始めた際、まずはラブレターのような十数枚のカードでできるミニマルなゲームの制作を考えていました。
当時、ちょうどラブレターなど500円ゲームズが話題になっており、その波に乗っかろうと思ったのが大きな要因です。
また、コンポーネントが少なくなるため、原価的にも制作のハードルが低かったからというのもあります。
具体的には、カード十数枚程度でできるワーカープレイスメントのようなゲームやじゃんけん風のカードゲーム、ピックアップ&デリバリー系ゲームなどいろいろ考えましたが、どれもこれも全く面白くありませんでした。
転機になったのは、テストプレイに付き合ってくれた奥さんの「要素が少ないと考えることが単調すぎて面白くない」というコメントでした。
非ボードゲーマーでもプレイできるようなシンプルなゲームを作ろうとした結果、非ボードゲーマーの人に単純すぎると言われてしまったわけです!
そこを機に、「コンポーネントの少ないシンプルなゲーム」を作ろうとすることはやめました。
そもそも、自分自身がミニマルなゲームがそんなに好きでもないのに、それを目指すのはまったくもっておかしな話だったのです。
自分の好きな系統のゲームを作ろう――そう方針を改めました。
私のゲームの好みは以下の通りです。
・リソースマネジメント大好き
・長いゲームはしんどい(60分以内に終わりたい)
・戦術より戦略
・テーマがないとゲームに入り込めない
・(家族とできるよう)ルールはシンプルがいい
・特殊能力大好き(MTGプレイヤーですし)
これらから、『中量級のリソースマネジメントゲームで特殊能力ありでルールはシンプル』が目指すゲームの方針になりました。
『開拓王 The King of Frontier』の着想
さて、中量級ゲームをつくるとなると、問題となってくるのは「価格」です。
シンプルな軽量級ゲームは原価も安くなるため、購入のハードルも低くなります。
しかし、中量級ゲームではコンポーネントが増えるため、原価も高くなり、購入のハードルが上がってしまい、在庫リスクも大きくなります。
そのため、いったいどういうコンポーネント構成がいいのか、印刷を頼もうと思っていた萬印堂さんの小ロット印刷の価格表とにらめっこしました。
そこで思ったのが、「タイル、割と安いな」でした。
これにより、タイル配置ゲームという選択肢が増え、その方向で面白そうなゲームが作れないか考えることにしました。
『開拓王 The King of Frontier』の直接的な着想を得たのは部屋とボードゲームと私と酒と泪と男と女というサイトの『ウォルナットグローブ開拓史』に関する記事からです。
(ウォルナットグローブ開拓史はこんな感じ 部屋とボードゲームと私と酒と泪と男と女より)
この時点で、私は『ウォルナットグローブ開拓史』をプレイしたことはありませんでしたが、この『開拓』によってタイルを配置し、配置したタイルから資源が『生産』できるというシステムは非常に気に入りました。
ただ、『ウォルナットグローブ開拓史』では、タイルを配置する際、絵がつながるように置く必要がなく(つなげた方が利点はありますが)、最終的な見た目があまり美しくないな、という点で不満がありました。
そこで私は、『ウォルナットグローブ開拓史』の『開拓』『生産』システムで、『カルカソンヌ』のように綺麗な絵を作れないだろうか、と考えました。
これが、『開拓王 The King of Frontier』の原点です。
ゲームシステムの構築
さて、『ウォルナットグローブ開拓史』のような『開拓』『生産』を持ち、かつ『カルカソンヌ』のように絵がつながるようにタイルを配置する――とだけ決まっても、ゲームになっていません。
この着想をゲームにするため、以下の要素を追加しました。
・建物タイル
・消費アクション
・ヴァリアブルフェイズオーダー
・終了条件と得点計算
以下では各要素毎に何故そのシステムにしたのかについて説明していきたいと思います。
建物タイル
『生産』した資源の利用先として、導入されたのがこの『建物タイル』です。
上でも書いたように、私は特殊能力が大好きなので、特殊能力を与えてくれる要素として導入しました。
特殊能力はゲームに深みと多様性を付加してくれますし、コンボを考えるのも楽しいです。
また、これ以前にボードゲームの面白さについて研究していた際、『複数の特殊能力の選択肢の中から使用したいものを選ぶ』というのが、ゲームの重要な面白い要素ではないかと考察していたということもあります。
(例えば、プエルトリコやドミニオン、世界の七不思議(を筆頭とするドラフトゲー)など、人気のあるゲームにこの要素が含まれています。Magic: The Gathering のデッキ構築とかもこれに相当しますね)
『建物』は最初カードか何か別のコンポーネントで考えていましたが、『建物』をタイルにすることで開拓によって広げた領域に直接建物を建てることが出来ると思いつき、その案を採用しました。
『開拓王 The King of Frontier』では、『タイルで自分だけの箱庭(国)を作る満足感』を重視しています。
これは負けても楽しいボードゲームを作りたかったためです。
ボードゲームには、いろいろな楽しさを導入できます。勝負の楽しさもその一つなのですが、勝負だけがボードゲームの楽しさではありません。
私は、ボードゲームを作るうえで、勝負以外の楽しい体験をゲーム中に取り入れることを重要視し、『開拓王 The King of Frontier』ではそれを『タイルで自分だけの箱庭(国)を作る満足感』 と置いたのです。
『建物』をタイルとすることで、箱庭としての一体感が増し、満足感がより向上すると考え、『開拓タイル』と一緒に配置することにしたのです。
消費アクション
『生産』した資源のもう一つの利用先として導入したのがこの『消費』アクションです。
これを導入した理由は以下の通りです。
・建物タイルを導入したことにより自動的に加えられた『都市』というエリアの利用法を作る
・建物以外の資源の利用先を作ることで資源毎の特性を出す
・勝ち筋を増やす
資源を『特殊能力付きアイテム』と『勝利点』のそれぞれに変換できるというのは、ボードゲームではよくある要素であったため、『開拓王 The King of Frontier』でもそれを踏襲したという形になります。
ヴァリアブルフェイズオーダー
フェイズ進行の仕組みとして取り入れたのがこのヴァリアブルフェイズオーダーです。
これを取り入れた理由は、 『生産』のメカニズムを『完成したエリアを選び、その生産マス全てに資源を置く』としたことに起因します。
例えば、『開拓』『生産』『建築』『消費』が順々に廻って来るフェイズ進行にした場合、『開拓』で完成したエリアが出来なかった場合、それ以降のフェイズで何もできなくなってしまうわけです。
これは非常に問題であるため、『開拓』『生産』『建築』『消費』のアクションは任意の順番で廻って来るようなシステムにする必要がありました。
アクションポイントなどを利用するという方法もあったのですが、現状のゲームシステムが非常にインタラクションが低いこともあり、ヴァリアブルフェイズオーダーを取り入れることにしました。
ただし、プエルトリコやレースフォーザギャラクシーのヴァリアブルフェイズオーダーをそのまま取り入れることはしませんでした。
その理由は、それらのゲームが煩雑だと考えたからです。
また、コンポーネントが増えるという問題点もありました。
そのため、役割タイルやスタートプレイヤーなどが必要のない、新しいヴァリアブルフェイズオーダーシステムとして考えられたのが『開拓王 The King of Frontier』のシステムです。
もともと、プエルトリコやサンファンのヴァリアブルフェイズオーダーは役割を選択したプレイヤー以外もアクションを行える『フリーライド』の仕組みとワーカープレイスメントのような手番ボーナスの『早い者勝ち』システムが混ざったシステムになっています。
また、レースフォーザギャラクシーは『フリーライド』ではあるのですが、同時選択し、かぶったアクションは1回しか実行しないことでフェイズの偏りを防いでいます。
これに対し、『開拓王 The King of Frontier』では『フリーライド』の仕組みのみを導入し、あえてアクションによりフェイズの偏りを作ることが出来るようにすることで展開に多様性を持たせています。
また、手番ボーナスを可能な限り削ることによって、『フリーライド』の重要性を上げ、インタラクション性を上げています。
この変更により、『開拓王 The King of Frontier』では、既存のヴァリアブルフェイズシステムとは少し違うプレイ感となりました。
※追記(2019/10/16):『開拓王 The King of Frontier』のQueen Gamesによるリメイクである『Skylands』では同じアクションを連続して選ぶことが出来ないというルールが追加されており,フェイズの偏りを防いでいます。このようなディベロップ意図の違いをみることも面白いです。
終了条件と得点計算
ゲームの勝敗を決めるのに必要なのが、終了条件と得点計算です。
『開拓王 The King of Frontier』では 、3つの終了条件を設定しています。
これはそれぞれ、『開拓』や『消費』のアクションが意味をなくしてしまうときにはゲームを終了するということを意味しています。
当初、『建物タイル』が切れた場合という終了条件も考えましたが、『建物』は建築後、『開拓』でエリアを完成させる必要があるため、『建物タイル』が切れた時点でのゲーム終了はなくしました。
次に得点計算に関してですが、『開拓王 The King of Frontier』では、『プエルトリコ』などで得点換算される『建物』と『勝利点チップ』以外に、『完成したエリアの生産・消費マス』と『空きマス』に関する得点を追加しています。
これは、『開拓王 The King of Frontier』には『プエルトリコ』にはない3つめの勝ち筋を導入したかったためです。
私はバランスの良いゲームを作るためには戦略は3つ以上ある方が望ましいと考えています。
これは長年 Magic: the Gathering をやってきた経験によるものです。
Magic: the Gathering では、安定した環境では必ず戦略の三すくみ構造が生きています。
私がメインでやっているレガシーフォーマットでは、大抵『コンボ<クロックパーミッション<ビートダウン』の三すくみの環境になっています。
この三すくみ構造は、『相手より若干遅い戦略が強い』という構造になっており、拡大再生産を含むシステムでバランスを取る際には非常に有効な手段です。
『開拓王 The King of Frontier』ではこれを、『開拓戦略<建築戦略<消費戦略』とおいて、戦略の三すくみ構造を導入することにしました。
これを実現するため、『完成したエリアの生産・消費マス』に点数をつけるようにしたのです。
テストプレイへ
これで、ゲームとしてプレイすることが出来るようになりました!
この後、実際にタイルを試作し、テストプレイを行いました(ここまでは全て脳内のみで構築しています)。
テストプレイを通して『開拓王 The King of Frontier』がどのように変わっていったかについては、次回のディベロップメント編にて紹介していきたいと思います!