『リトルタウンビルダーズ』制作ノート ディベロップ編
※この記事は以前ブログに書かせていただいた記事をnoteへ移動および加筆修正したものになります
こんにちは。
Studio GGのShunです。
今回は『リトルタウンビルダーズ』の制作ノートのディベロップ編を公開します。
前回の記事はこちら
このような過程を経て、根幹のゲームルールが定まった『リトルタウンビルダーズ』ですが、まだまだ問題は山積みでした。
Studio GGでは、このあたりからディベロップ担当のAYAが本格的に製作に加わり、二人で問題点を指摘しながら、1つずつ対応していきます。
マップの調整
最初はランダムな2×3のボードを組み合わせることでマップを作っていたのですが、どうもゲーム展開の面白さに結構ばらつきがあることがわかりました。
その要因が以下の2つです。
・ランダムにすることで、スタートプレイヤーが非常に強いマップができてしまうことがある
・地形により各プレイヤーの建物の建てる位置が分断され、ソロプレイ化する
ここから、固定マップにしてゲーム展開をコントロールした方が良さそうだという感触を得ました。
また、マップを固定にすることで資源の供給量をコントロールしやすくなり、建物のバランスが取りやすいという副次効果もあります。
マップをデザインする上で特に大事だったのが、
・初期地形はなるべくボード外周に配置する
ということです。
これにより、建物は自ずと中央に向けて建てられるようになり、それぞれのプレイヤーの建物が中央付近で隣接しやすくなります。
これにより、他プレイヤーの建物を利用する機会が増え、結果としてインタラクションが増え、ソロプレイ感が解消されます。
また、
・各プレイヤーが初手番で同数の資源を獲得することができる
ようにすることで、手番の選択が固定化することを防ぎました。
スタートプレイヤーも似たような価値のマスが複数あることで、ゲーム毎の戦略に応じておくべき場所を考える必要が産まれます。
2~3人プレイへの対応
最初に出来たゲームでは、4人プレイは面白いものの、2~3人プレイはあまり面白くありませんでした。
これはいずれのプレイ人数でも同じワーカー数でゲームを行っていたため、盤面が余り気味で、ソロプレイ感が強く感じられたことが主な理由です。
また、プレイ人数が少ないと建てられる建物が少なく、盤面が発展しないという問題もありました。
ワーカープレイスメントはアクションのドラフトが主なインタラクションになるため、プレイヤー数に応じて選べる選択肢の数を変化させることが一般的な対処法になります。
しかし、『リトルタウンビルダーズ』では調整された固定のマップボードを用いるため、その方法でバランスを調整するためにはプレイ人数毎にボードを用意する必要が出てきてしまいます。
そのため『リトルタウンビルダーズ』では、逆にワーカーの数を増やすことによって選択肢の数と選択回数のバランスを取ることにしました。
このため、少ない人数では、インタラクション自体は少なくなるもの、計画性が必要になり、別の形での面白さを提供することが出来るようになりました。
リソースのデザイン
『リトルタウンビルダーズ』はワーカープレイスメントですので、アクションのデザインはゲームデザインの大事な一面です。
アクションの基礎となるリソースは全てが非対称な特性を持つようにデザインすることが重要だと考えています。
『リトルタウンビルダーズ』では以下のようになっています。
・木:建築用(食料系)
・石:建築用(勝利点系)
・魚:主に食料
・麦:食料、勝利点やお金へ変換
・お金:賃料、資源や勝利点の変換
「木」「石」「麦」に関しては、『開拓王』のデザインの際に考えた、必要最小限な資源だと考えており、「魚」は食料資源に初期地形のみから取れる「魚」と基本建物である「畑」から生産できる「麦」を別の資源にすることで、建物のデザイン領域を広げることが目的です。
また、初期地形に湖(青色)を導入することで、ボードの見た目が鮮やかになるという効果もあります。
最も重要なリソースが「お金」です。
「お金」は主に「賃料」に使用するための特殊な資源として導入しました。
これにより、プレイヤー間で発生する経済的活動をシミュレートすることで、お店を利用してもらうというごっこ遊び的な楽しさを導入するとともに、一方的な関係を阻止するようにしています。
また、建物の効果の連鎖のためにも重要な資源となるようバランス調整を行なっており、この「お金」のデザインが『リトルタウンビルダーズ』のアクションのデザインの重要なポイントになっています。
建物効果のデザイン
建物の効果は上記リソースのデザインで示した特性に合わせて作っていったのですが、
建物効果のデザインには様々の制約がありました。
まず、40mm 四角タイルに載せられる情報が限られていたことです。
賃料に関しては、建物毎に違う値にすると、それをタイルに明記する必要があり、タイルが情報過多になってしまうため、1金で固定することにしました。
建物の効果に関しても、周囲8マスの効果が得られる『リトルタウンビルダーズ』では、あまり複雑な効果を設定すると、認知負荷が高くなり過ぎる問題があったため、非常にシンプルな効果の建物で構成するようにしています。
また、『リトルタウンビルダーズ』の建物効果のバランス調整にも大きな制約がありました。
なぜなら、賃料が1金固定であるため、建物効果を強くするほど、借りるプレイヤーの利得だけが上昇していくためです。
そのため、低コストの建物の効果と高コストの建物の効果の間に大きな利得の差をつけることが出来なかったのです。
しかし、コストの高い建物を建てても大きな利得が得られないのであれば、コストの高い建物を建てるメリットがなくなってしまいます。
そこで、『リトルタウンビルダーズ』はいわゆる資源から勝利点に変換する「コーナリング」の部分に着目することで、この問題を解消しています。
『リトルタウンビルダーズ』の特徴として、ワーカーを置いた周囲8マスの効果を得られるため、得られる実際に必要な量以上の資源を獲得してしまうことが頻繁に起こります。
ゲーム終了時までにこれらの資源を上手いこと、勝利点に変換していく必要があります。
この勝利点に変換できる資源の量に差をつけることで、
低コストの建物と高コストの建物の効果に差をつけました。
コストが低い建物は建築時に少しの資源しか勝利点に変換することが出来ず、かつ効果でも少しの資源しか勝利点に変換することが出来ませんが、
コストが高い建物は建築時に多くの資源を勝利点に変換することが出来、かつ、効果でも一度に多くの資源を勝利点に変換することが出来るようにしたのです。
これにより、特に終盤で、高コストの建物の価値が上がるようになっています。
最終調整~目標タイルの追加~
マップの調整やプレイ人数への対応、建物の効果が全て決まり、ゲームも安定して面白い展開になるようになり、ほぼ完成とは感じていたのですが、AYAはまだいくつか問題があることを指摘していました。
特に、あまりゲーム慣れしていないプレイヤーにとって方針が立てづらいことが大きな問題と考えられていました。
そこでAYAから提案されたのが「目標タイル」です。
最初はわざわざコンポーネントを増やしてまで導入すべきか悩んだのですが、「目標タイル」を導入することで3つの問題を解決する効果があることに気付き導入を決定しました。
その3つとは、
・各プレイヤーの戦略をばらつかせる
・リプレイアビリティの増加
・初心者の為のガイド
です。
「目標タイル」を導入する前には各プレイヤーは全て同じ状態からスタートするため、1番手のプレイヤーが建物タイルの構成から最もいい戦略を選んで実行することができてしまいます。
『リトルタウンビルダーズ』はワーカープレイスメントとしては比較的インタラクションが強いゲームなので、その影響で勝敗は変化しますが、2番手以降のプレイヤーが1番手プレイヤーに対する対応を強いられるのはあまり良いとは言えません。
また、秘匿情報がないことにより他のプレイヤーの手が読めすぎるのも問題です。
「目標タイル」による各プレイヤーの最適戦略のゆらぎが他プレイヤーの手をいい感じに乱数化してくれるのです。
リプレイアビリティは建物タイルをランダムで選択することで確保されてはいるですが、十分とは言えませんでした。
強いタイルの組み合わせがあれば、どうしても戦略がパターン化しがちです。
そこに「目標タイル」を導入し、あえてドラフト等をさせて選ばせたりしないことで、乱数に対処させることで、プレイ毎に変化を与えるようにしています。
これに合わせて、「目標タイル」自体の得点は大きくしないことで、目標タイルと建物タイルの組み合わせから、どのタイルを達成し、どのタイルを捨てるかの選択をさせるようにしています。
最後に初心者へのガイドとしての役目ですが、ボードゲームに慣れていないプレイヤーがゲーム終了時の勝利点のみを目標としてゲームを進めるには『リトルタウンビルダーズ』はいささか難し過ぎます。
そのようなプレイヤーに対して、小目標を与え、かつそれがゲームプレイにおいて勝利に向かうプレイに繋がるように目標を設定することで、初心者へのガイドとして機能させています。
いわば、「目標タイル」がチュートリアルの役目を担っているのです。
これにより、ゲーム開始時に何をしていいのかわからず途方に暮れるような状況を防いでいます。
この「目標タイル」を導入したことにより、『リトルタウンビルダーズ』はめでたく完成となりました。
終わり
以上が『リトルタウンビルダーズ』の制作ノートになります。
楽しんで読んでいただけたなら幸いです。
『リトルタウンビルダーズ』は制作に2年以上の期間をかけており、書ききれていないこともいっぱいあるので、もし「どうしてこうしたの?」と、気になることがあればTwitter (@nannann2002) 等で気軽に聞いてください。