JELLY JELLY GAMES版『トロッコタウン』のディベロップメント
こんにちは 。
Studio GG のShun(@nannann2002)& AYAです。
今回はJELLY JELLY GAMESでリメイクされる『トロッコタウン』について、Studio GG版の『マイトロッコタウン』からどのようにディベロップされたのかについて書いていきたいと思います。
『マイトロッコタウン』とは
『マイトロッコタウン』は、1~4人用、プレイ時間45分程度の、箱庭タイル配置ゲームです。
木や石を生産する森タイルと山タイルのみを持った状態からゲームがスタート。生産される木と石を使い、どんどん建物を建てていきます。
建築した建物からは、木や石に加えて麦、炭、羊などを得ることができます。それらの資源を移動し、勝利点に変換、ゲーム終了時にもっとも多くの勝利点を獲得したプレイヤーが勝者となります。
より詳細な『マイトロッコタウン』の内容については以下をご覧ください。
また、『マイトロッコタウン』の制作ノートについては以下をご覧ください。
リメイクの目的:ゲームの準備コストを下げる
JELLY JELLY GAMESでリメイクするにあたりJELLY JELLY GAMESのディベロップ担当である秋山さん(@yutrio_a)からの要望は
「ゲームの準備コストを下げたい」
というものでした。
『マイトロッコタウン』は、もとのボードを見ていただくとよくわかると思うのですが、見えているタイルだけでも基本建物が6枚、A、B建物が5枚、V建物2枚、A3ボード上に並べる必要があります。
また、ラウンドが次に進むタイミングで基本タイルを使われたものは裏返し、A、B建物も次の状態にしなくてはなりません。
これらは、準備コストになっていると思います。
そのため、秋山さんはこれらの準備コストを下げるため、タイルの種類を減らし、(シャッフルの手間を減らすため)袋引きにすることを検討したい、とのことでした。
そのうえで、秋山さんからルールの変更案をいただきました。
JELLY JELLY GAMESからの提案ルール
秋山さんから提案されたルールは以下のようなものです。
基本タイルを削除(A, B, V, 初期、輸送路の構成へ)
ラウンド1~2にB、ラウンド3~4にAを計8枚になるように補充
A、Bタイルが取られたら適宜補充
前ラウンドから残っているA、Bタイルは取り除く
Vは常に4枚表示(適宜補充)
このルールを聞いたとき、面白い提案だとおもいました。
『マイトロッコタウン』のディベロップにおいて、「特殊建物」を同じ山から引くことは検討済みだったのですが、「基本タイル」をなくすという見当は一度も行っていなかったのです。(『マイトロッコタウン』制作ノートディベロップ編参照)
実際、「基本建物」は慣れていないプレイヤーに分かりやすい指針を与える効果はあるものの、「特殊建物」の方がより強くデザインされているため、慣れているプレイヤーにとっては「特殊建物」がゲームプレイの中心になっていました。
この点から考えても「基本建物」をなくすというアイデアは、検討する価値が大いにありました。
一方で、ゲームそのものが「基本建物」を基準として調整されていたため、大きな調整変更が生じることが想定されました。
ルール変更に伴う各種問題の解決
秋山さんの提案したルールはディベロップの大きな方向性を示したものの、既存のタイル構成をそのまま引き継いだ形でのルール変更は様々な部分に問題点を抱えていました。
以下では、それらの問題点と解決方法について説明します。
A、B建物の適切な供給方法の検討
『マイトロッコタウン』では、B建物に序盤に有用な効果、A建物に終盤に有効な効果を持つ建物が多く含まれています。
例えば、B建物(前半に必要な建物)は、ラウンド開始時に資源が毎回生産されるタイル、またラウンド毎に点数が入るタイルが多めに入っています。
また、A建物(後半に必要な建物)は、タイルを自分の場に配置した時にすでに資源が載っている即時効果を持ったもの、また周囲の建物の参照によって点数が入る建物が多く入っています。
したがって、1ラウンドではB建物を建てる方が強く、4ラウンドではA建物を建てる方が強い構造になっています。
オリジナルの『マイトロッコタウン』では、1ラウンドではB4枚、A1枚、4ラウンドではB1枚、A4枚、といったようにラウンド毎に比率が変わるような仕組みを採用していました。(『マイトロッコタウン』制作ノートディベロップ編参照)
しかし、提案ルールでは、3ラウンド開始時点で場に出ているA建物はわずかであり、3ラウンド後半にならないと十分な量のA建物が補充されないという問題がありました。
また、オリジナルの『マイトロッコタウン』では、A建物の一部がB建物とコンボするような効果(「放牧地」+「紡績店」、「貯蔵庫」+「博物館」など)があり、その面白さを損なってしまっているという問題もありました。
これを解決するために、行ったのが以下の変更です。
2→3ラウンド間でB建物を全て流し、A建物を補充する(つまり、1,2ラウンドではB建物だけが、3,4ラウンドではA建物だけが場にあるということです。)
旧A建物にあった即時系の建物を一部、B建物にふさわしい形に修正してB建物に導入する。
これにより、A建物が必要なタイミングで十分出るようになったうえ、既存のコンボに近い新しいコンボが実現可能になりました。
また副次効果として、2→3ラウンド間で建物が全て流れることになったため、古い建物を優先して流すような仕組みが必要なくなり、タイルは単純に場に6~8枚出すだけでよくなりました。
資源間の特徴の違いの見える化
「基本建物」の重要な役割として、「麦」「炭」「羊」それぞれの資源の特徴を表すような効果を与えることで、資源毎のプレイ感の違いを生むようにしていました。(『マイトロッコタウン』制作ノートディベロップ編参照)
「畑」:「麦」は生産で獲得しやすい。
「木炭窯」:「炭」は「木」から加工で獲得できる。
「草原」:「羊」は即時に獲得しやすい。
しかし、「基本建物」がなくなってしまったことによって、「基本建物」がその役割を担うことができなくなってしまいました。
また、オリジナル版の『マイトロッコタウン』の「特殊建物」は「基本建物」にできないことができるようになるようにすることを中心にデザインされていました。
つまり、「マイトロッコタウン」では、「特殊建物」でだけは資源の特徴を壊すことをできることで特別感を出していたのです。
しかし、変更後のルールでは、「基本建物」という資源の特徴を見せるものがなくなったために、そのまま導入すると、資源の特徴がなくなってしまうという状態になっていたのです。
そのため、「特殊タイル」に含まれていた資源の特徴に反するような効果を持つタイルの効果を修正し、全体の傾向として資源の特徴が感じられるように調整し直しました。
タイルの構成を全体的に見直すという大きな作業になりましたが、結果として、資源の特徴も十分に感じられる良い構成になったと思います。
V建物の難易度バランスの改善
オリジナル版では得点建物として「パン屋」と「牧場」の2種が常に利用可能であったため、最悪この2つのどちらかを目指せばいいことになっています。
これが慣れていないプレイヤーに対するガードレールになっていました。
一方で、V建物にはさらに高い目標(もしくは別の目標)を示す役割があったため、全体的に達成が難しいような得点建物が多い構成になっていました。
変更後のルールでは、V建物をランダムに4枚公開するルールにしたことにより、3種類以上の資源を組み合わせて変換するような得点建物ばかりが並ぶことが増えました。
これは、慣れていないプレイヤーにとって、望ましくない状況だと思いました。
これを解決するため、以下のような変更を行いました。
従来は存在しなかった2種の組み合わせの得点建物の追加
慣れていないプレイヤー向けのV建物セットの導入
全体のバランスとして2種の組み合わせで得点化できる建物が増えたため、場に出る得点建物の難易度が下がる形になりました。
また、慣れていないプレイヤーには3種以上の資源を組み合わせるようなタイルを抜いた初心者向けセットで遊んでもらえるようなルールを追加することで、慣れていないプレイヤーが難しすぎる得点建物に苦しまないように配慮しました。
回転を上げるためのA、B建物のバランスの調整
オリジナルの『マイトロッコタウン』では、「基本建物」があったため、「特殊建物」に欲しいタイルがなかったとしても、「基本建物」を建てれば良いゲームになっており、「特殊建物」が流れなくても問題にならない構造でした。
しかし、変更後のルールでは「特殊建物」しか存在しないため、「特殊建物」の流れが悪いことはゲームに致命的な問題を生んでしまいます。
そのため、リメイク版の『トロッコタウン』では、オリジナル版よりも細心の注意を払って、「特殊建物」がスムーズに流れる構成を意識したバランス調整を行いました。
旧基本建物の「畑」「木炭窯」「草原」はそれぞれ3枚A、B建物に含める
旧基本建物である「畑」「木炭窯」「草原」はそれぞれ取り回しの良いタイルになっており、ゲームにおける有用度も高いですが、一方で4枚以上あると同じタイルが出過ぎるため、取られにくい状況が発生していました。
そこで、これらのタイルは各3枚となるようにA、B建物に含めるようにしました。
特殊建物のオールユニーク(各種類1枚ずつ)をやめ、「泉」「貯蔵庫」のような利用機会の多いタイルの枚数を2枚に増やす
もともと、「特殊建物」は「基本建物」との対比のために、オールユニーク(各種類1枚ずつ)であることにこだわった構成になっていました。
しかし、今回のルール変更を経て、「基本建物」であった「畑」「木炭窯」「草原」といったタイルは、A、B建物に含まれることとなり、オールユニークにこだわる必要がなくなりました。
そこで、より利用機会の多いタイルの枚数を増やすことで全体のタイルにおける有用なタイルの割合を増やしています。
利用機会の多い新しいタイルを導入する
旧基本建物の枚数を減らしたことや、各種ルールの変更に伴い、特殊建物を増やす必要があったため、完全な新要素となるタイルも新たな考案しました。
例えば、「任意の同一資源を5つ即時獲得できる建物」等はこれまでになかった新しいタイルですが、その使用範囲は広く、ゲーム中における利用機会の多いタイルになっています。
これらの改良により、場の建物に欲しいものがないということが起こりにくくなり、タイルの流れがスムーズになりました。
輸送タイミングの緩和
また、ディベロップの中で、「輸送」を「建設」フェイズ中にできたら良いのではないか、というアイデアをJELLY JELLY GAMESにより行ったテストプレイでの意見としていただきました。
全く考えていなかったのですが、実際に「建設」フェイズ中に「輸送」ができると、「輸送」および「加工」を想定した資源の確保などを頭の中で計算する必要がなくなるため、ゲームのプレイしやすさが向上します。
しかし、「収集所」という1枚のタイルがこれを妨げていました。
このタイルは「輸送」フェイズ開始時に、任意のタイルから好きな数の資源をこのタイルの上に移動することができるという効果を持っています。
このタイルが「輸送フェイズの開始時」を参照しているため、「建設」フェイズ中の「輸送」を許してしまうとルール上の破綻が発生してしまうため、「建設」フェイズ中の「輸送」が出来なくなっていたのです。
これに対し、「収集所」の効果を、「輸送フェイズ中に1ラウンドで1回」という形に変更することによってこの問題を解決しました。
オリジナル版の「収集所」は最終ラウンドに「輸送」と「加工」が無限に繰り返せる際に何度も起動することが可能なのですが、これが直感に反するのか、質問が多く寄せられるタイルでもありました。
上記の変更により、最終ラウンドでの起動も1回に限定されてしまうため、大きな弱体化ではあるのですが、それまでのラウンドに関してはむしろ強化になっており、タイルのピーキーさを下げる意味でも良い変更ではあったと思います。
結果として、「建設」フェイズ中に「輸送」を行うことができるようになり、資源数の計算が従来よりもやりやすくなり、ストレスが減ったと思います。
ソロルールの進化
リメイクに際して、ソロルールも変更したいという要望がありました。
これまではソロルールは「基本建物」をプレイヤーが7枚選んだり、特殊建物をラウンド毎に流すなどのルールになっていましたが、変更後のルールにそのまま適用することはできません。
そこで、古いタイルから順に並べてもらい、タイルを取るたびに古いタイルを流すようなルールを導入しました。
これにより、タイルの回転が速くなり、多人数プレイと遜色なく楽しめるようになるとともに、流れるタイルを計算して計画を立てることもできるので戦略性も高いルールとなりました。
また、初期に並ぶ8枚の旧B建物の影響が全体のゲームに与える影響が大きいことから、この8枚のセットをシナリオとしていくつか用意し、それぞれに対してスコアアタックができるようなゲームを用意しました。
シナリオが複数あることにより、それぞれのシナリオで違うプレイ感でソロゲームを楽しめるので、飽きにくくなり、達成目標も多くなるため、マスを埋める楽しさが生まれていると思います。
良かったらソロルールもプレイしてみてくださいね。
おわりに
このようにして『マイトロッコタウン』は『トロッコタウン』へと生まれ変わりました。
いかがでしたでしょうか。
楽しんで読んでいただけたなら幸いです。
この記事に記した通り、『トロッコタウン』は『マイトロッコタウン』と同じ面白さを持ちながらも、ルール面、タイル構成などで大きな変更が加えられていますので、『マイトロッコタウン』をプレイしたことあるよ、という方にも改めて楽しめるゲームになっているかと思います。
よかったらプレイしてみてくださいね!