コンセプトからはじめるゲームデザイン
この記事はBoard Game Design Advent Calendar 2022の16日目の記事として書かれました。
こんにちは。
Studio GGのShun(@nannann2002)です。
これまでに、「リトルタウンビルダーズ」や「はらぺこバハムート(きょうあくなまもの)」、「ブラウニーズ」、「迷宮推理」等のゲームを作成しました。ここで挙げたゲームは全て企業から出版されています。
※Studio GGが作ったボードゲームは以下のページよりご覧いただけます。
今年も引き続きBoard Game Design Advent Calendarに参加させていただきました。しばしの間お付き合いいただけると嬉しいです。
これまで、「ディベロップ」に注目した記事(「つまらないをなくすディベロップメント」「ボードゲームデザインチェックリスト」「ボードゲームのバランス調整」など)を多く執筆してきました。
しかし、より重要でかつ前段階のプロセスである「ゲームデザイン」の部分にはあまり触れてこなかったので、今回は「コンセプトからはじめるゲームデザイン」と題して、Studio GGのゲームデザインのプロセスについてご紹介したいと思います。
コンセプトの発案
まず、私はゲームデザインの最初のステップとして「コンセプト」を考えるようにしています。
「コンセプト」とはゲームデザインにおける指針であり、ここがしっかりしていることでゲーム制作が迷走することを防ぐことができます。
「コンセプト」とは、一言で言えばゲームの特徴を表すものです。
これを決定する作業は所謂「企画」になります。
特に同人のゲームの企画において、どのようなスタンスで臨むと良いかについての私の考えは以前の記事「自分にとって最高のゲームを作り続ける方法」という記事で紹介しました。
「企画」を商業的に考えると、本来、市場のニーズなどをちゃんと考えていかないといけないのでしょうけれど、「同人」という枠においては、「自分が欲しい(自分が遊びたい)」(※「作りたい」ではない)ゲームを作るというのがオススメです。
まずは「自分が欲しい」と思うゲームの特徴を挙げてみましょう。
最初はあまり多くない、一言で言えるような特徴がいいと思います。
それが「コンセプト」のたたき台となります。
特徴が挙げられたら、既存のゲームでその特徴を実現しているゲームが存在しないか調べてみましょう。
この部分を怠ると、「二番煎じ」となってしまいます。
もし、同様の特徴を実現しているゲームが見つかったら、喜んでそのゲームを遊びましょう。
満足できたでしょうか? 良かったですね。
その場合は、その「コンセプト」のゲームはもう手に入ったので、「自分が欲しい」ゲームではなくなったと思います。別の「コンセプト」を考えましょう。
もし、自分の理想と違ったのであれば、それを言語化して「コンセプト」に追加しましょう。このように「コンセプト」を明確化しておくのは非常に重要なプロセスです。
これを繰り返し、同様の特徴を実現しているゲームが見つからなくなったら、その「コンセプト」は「新規性」を持ったコンセプトと言えるはずです。
ただし、この結果「コンセプト」が非常に細かく、長い文章でしか表現できないものになってしまったのなら、あまり良い「コンセプト」とは言えないので、諦めて別の「コンセプト」を探した方が良いかもしれません。
この「コンセプト」はゲームのポテンシャルを決めるものです。
非常に重要な工程だと思って、良い「コンセプト」を探せるように頑張りましょう。
コンセプトを実現するアイデアを出す
さて、コンセプトが決まりました。
このコンセプトに従ってゲームを実装していきたいところですが、
コンセプトの内容によっては、やりたいことは分かっているのに、どうやってシステムに落とし込めばいいのかわからない場合があります。
その場合は、その要因を解析し、解決可能なアイデアを思いつく必要があります。
これは非常に大変な上、なかなか解決策が見つからず、先に進まないこともあります。
その場合は、一旦、そのコンセプトはお蔵入りになります。
ただ、解決策のアイデアは時間が経ってから何かのきっかけで思いつくこともあるので、これらのコンセプトは大事にしまっておいて、解決策を思いつき次第引っぱり出せるようにしておくと良いでしょう。
ゲームの実装案の作成
さて、コンセプトも決まり、アイデア出しもクリアしたら、いよいよゲームの実装になります。
多くの場合、コンセプトだけではゲームルールの一部しか決められないため、それ以外の部分をいい感じに埋めて全体のルールを設計する作業が必要になります。
また、ゲームの全体のイメージを明確にするのもこの段階になります。
Studio GGでは以下のような作業を行い、ゲームのルールを作っていきます。
リソースグラフによるゲーム構造の把握
ゲーム全体のプレイ風景の図示
ゲームフローの作成
詳細データの作成
以下で、各項目について説明していきます。
リソースグラフによるゲーム構造の把握
ゲームの内容にもよりますが、ゲームの詳細を詰めていく段階で、とりあえず「リソースグラフ」という図を描くことにしています。
「リソースグラフ」に関しては、以前「『きけんなさいくつ』制作ノート」でも少し紹介していました。
「リソースグラフ」とはゲーム中に出てくるリソースの変換関係をグラフで表したものです。
「『きけんなさいくつ』制作ノート」では、カード効果の網羅性の確認に利用していますが、リソースマネジメントゲームなど多種のリソースを扱うゲームの場合、ゲーム構造を整理するために、初期段階で「リソースグラフ」を描きます。
例えば、「リトルタウンビルダーズ」というゲームに関して「リソースグラフ」を描くと、概ね以下のような形になります。
「リトルタウンビルダーズ」の場合、コンセプト段階で「ワーカープレイスメント」であるということが決定していたため、「アクション」が中心となり、様々なリソースを得られるようになっています。
また、「木、石」を「建物」にすることで「アクション」が強化され、図中の赤点線の変換が追加されたり、「お金」「アクション」「建物」のループのような経済構造が見て取れます。
この段階で、以下のようなことを確認することができます。
「勝利点」に至る道筋(戦略)が複数あるか
拡大再生産要素(グラフのループ)はあるか
必要なアクションはそろっているか
使えそうなのに使っていない経路はないか
グラフを描きながら、必要なリソースを追加したり、接続関係を再考することで、ゲームのリソース構造のイメージを固めていきましょう。
ゲームのプレイ風景の可視化
ゲームのリソース構造がイメージ出来たら、ゲーム全体のプレイ風景のイメージを作っていきます。
ここでは、盤面のイメージイラストを描きます。
プレイ風景のイメージを描くことで、自分の頭の中にゲームのイメージを作りやすくなります。
また、ちょっと雰囲気が出てくることで自分が楽しくなってモチベーションがアップするという効果もあります。
また、この段階で、コンポーネントのイメージやUI周りのイメージを作っておくと、ゲームができた後で困ることが少なくなります。
ゲームのどのリソースをどのようなコンポーネントで表現するのか、どのような配置にすればプレイアビリティが担保できるのかを考慮しながら、必要に応じてゲーム構造に振り返って、詳細を固めていきましょう。
ゲームフローの作成
全体のイメージができたら、ゲームフローを作成します。
ゲーム全体がどのような区切りで進行するのがをフローチャートや、箇条書き形式で書いていきます。
大まかなルールを作っていく感じですが、説明書のような形式ではなく、サマリーなどのような一覧性の高い形で書いておくと、全体像が把握しやすくなります。
どうせ最初のうちはデザイナーが直接インストしてプレイすることになりますので、細かい部分のルールを言語化する必要はないです。
ざくっと全体の流れを書いてしまいましょう。
詳細データの作成
さて、ここまで来たら、テストプレイキットを作成するために、詳細のデータを詰めていくことになります。
多くの場合は、マップの地形だとか、カードの構成など、様々なデータがボードゲームには含まれており、この部分を決定しないとテストプレイキットは作れません。
初期テストの段階では細かい部分は重要ではないので、特にこだわりのない部分は、他のゲームから流用してくる形で作ってしまうのが良いかと思います。
数字とか、組み合わせみたいなものは全パターン1つずつ用意するみたいな雑な作り方で問題ないでしょう。
ただし、カードやアクションなどの特殊効果に依存しているゲームは、それらもゲーム構造の一部だと思ってそれなりにきっちり設計する必要があります。
この部分にも「リソースグラフ」が大いに活用することができます。
詳細データができたら「テストプレイキット」を作って、テストプレイに向かいましょう。
テストプレイ
お疲れ様です。
ようやく最初のテストプレイキットが出来上がりました。
早速プレイしてみましょう。
ここでのテストで重要な観点は、作ったゲームが「コンセプトをちゃんと実現できているかどうか」です。
また、そのコンセプト自身が面白さに直結するものになっているか、も合わせて確認すると良いでしょう。
もし、「コンセプト」に反したゲームになってしまっているようでしたら、実装が良くなかったのでしょう、より「コンセプト」を実現することができるような実装を再検討してみてください。
「コンセプト」は実現できているけど、面白さにつながっていないのでしたら、残念ながら「コンセプト」そのものを再検討する必要があるかもしれません。
このような壁を乗り越え、「コンセプト」を実現し、かつ面白さを生むことができているゲームになっていたのであれば、ようやく「ゲームデザイン」プロセスの終了です。
次は「ディベロップ」へ進みます。
ディベロップ
Studio GGでは「ゲームデザイン」と「ディベロップ」のプロセスは明確に分かれています。
「ゲームデザイン」のプロセスでは、ゲームの微調整などは行われず、ダメならゼロから作り直しますが、「ディベロップ」に入ったゲームは、根幹のルールは変えることなく、細部の調整を行っていくことになります。
今までの作業が「面白い」を作る作業だとしたら、ディベロップは「つまらない」をなくす作業です。
出来上がったばかりのゲームは、複数回のプレイに耐えられなかったり、ゲーム中の面白い瞬間が少ししかなかったり、とにかくストレスが多かったり、プレイしにくかったりします。
これらの「つまらない」ポイントをテストプレイを通じて発見し、要因を分析して、解決していきましょう。
「ディベロップ」は、ひたすらテストと修正を繰り返していく作業になります。割と地味な作業ですが、結構楽しい部分ですし、しっかり行うことで確実に完成度が増していきます。
「ディベロップ」に関しての詳細は以下の記事をご覧いただければと思います。
「ゲームデザイン」はより高いポテンシャルのゲームを作るプロセス、
「ディベロップ」は実際にゲームの完成度を高めるプロセスであると思っています。
「ゲームデザイン」だけ優れていても粗削りなゲームになってしまいますし、「ディベロップ」をいくら頑張っても、そもそものポテンシャルが低ければ、良いゲームにはなりません。
上手く両方を高いレベルで実現できると良いですね。
まとめ
以下に今回の話の要点をまとめておきます。
今回は「コンセプトからはじめるゲームデザイン」として、Studio GGがゲームデザインの初期段階で行っているプロセスについて紹介しました。
ここで、紹介したのはあくまでもStudio GGで行っている方法ですが、参考になれば幸いです。
おそらく他のデザイナーさんは違う形でゲームデザインを行っていると思います。自分はこうやっているよ、みたいなお話がありましたら、ぜひ聞かせてください。
ここまで、お付き合いいただきありがとうございます。
何かコメント等ありましたら、Twitter(@nannann2002)等にいただけると嬉しいです。
また、他にもゲームデザインに関する記事や、これまで作ったゲームの制作ノート等を公開していますので、合わせてお読みいただけると嬉しいです。