『きけんなさいくつ』制作ノート
こんにちは。
Studio GGのShun(@nannann2002)です。
今回はゲームマーケット2021秋で発売した『きけんなさいくつ』の制作ノートを公開したいと思います。
『きけんなさいくつ』の概要については以下からご覧ください。
ゲームの着想
『きけんなさいくつ』は『羊と花畑』同様、元々は別の企画向けに開発していたゲームです。その企画では、A4の紙2〜4枚くらいのコンポーネントでゲームを作る必要がありました。
そこで、それまでに作っていたミニマルゲームである『きょうあくなまもの』と同系統の、「少ない特殊効果カードを利用したゲーム」を作ろうと考えました。
『きょうあくなまもの』は現在は『はらぺこバハムート』としてJelly Jelly Gamesさんからもリメイクされており、Studio GGのゲームの中でも非常に人気の高いゲームです。
『きょうあくなまもの』は優秀な小箱ゲームではありますが、2人専用、つまり、2人でしか遊べません。
そこで、より幅広い人数(4人くらいまで)遊べる小箱ゲームを作りたいと考えました。
しかし、2人用ゲームと3人以上のゲームでは根本構造が大きく異なってしまうため、そのまま、2~4人用にプレイ人数を拡張するというのは容易ではありません。
そこで、たまたま同時期に考えていた「一人用の宝石発掘ゲーム」を『きょうあくなまもの』と魔合体させることで、多人数プレイに拡張することを検討しました。
このゲームはTCGのドローカードを組み合わせることにより、よりたくさんの宝石を獲得することを目指すゲームでした。
発想のベースとなったのは『Magic: the Gathering』にある以下のようなドローコンボです。
左のカードは「弱いカードを複数獲得するカード」で、右のカードは「手札のカードを入れ替えるカード」です。
この2つのカードを組み合わせることにより、「集めても無駄と思われるカードが有効なカードに変わる」シナジーが形成されます。
この組み合わせは『きけんなさいくつ』の「じしゃく」と「せんべつ」というカードに継承されています。
このように複数のカードを組み合わせてハンドアドバンテージを稼いでいくというカードゲームの面白さに着目したのが『きけんなさいくつ』です。
※その後、もともとの1人用ゲームに原点帰りして、『きけんなさいくつ』のソロプレイヴァリアントを考案したので、持っている方は良かったらプレイしてみてください。
多人数プレイゲームへの拡張
もともとは1人用ゲームや2人用ゲームだったものを多人数プレイに拡張する上でいくつかの問題がありました。
各プレイヤーが手札を5枚持つと4人で20枚にもなり、必要なカード枚数が増えてしまう
カウンター(打ち消し)は、多人数プレイに向かない
カウンターがなく手番に2アクションあると、手番差が付き過ぎてしまう
そこで、考えたのが、
手札を一部(5枚中4枚)をプレイヤー間で共有する(場に並べる)
マイクロターン化、手番にプレイするカードは1枚にする
シナジーを意識させる(次のアクションを計画させる)ため、かつ、手札の非対称性のため、1枚手札を持たせる
という構成です。
特に、手札を場に並べて共有化することで、4人の手札と場を合わせて8枚のカードしかないにもかかわらず、各プレイヤーは常に5枚の選択肢の中からカードをプレイできるようなっています。
これにより、少コンポーネントながら、選択肢が豊富なゲームにすることができました。
また、他のプレイヤーの次の行動もある程度予測することができるため、戦術性があるゲームとなっています。
ゲームデザインの指針
今回の『きけんなさいくつ』では、「TCG的な特殊効果カードの面白さ」、特に「ドローカードを使って宝石(得点)を集める」というコンセプトから、以下のような要素が必要だと考えました。
デザイン領域を駆使した多様な効果
状況によるカードの強弱の変動
プレイヤー間の強いインタラクション
逆転性
乱数を楽しめるゲームデザイン
以下で個別に説明していきます。
デザイン領域を駆使した多様な効果
まず、特殊効果を持ったカードゲームにおいて、「カード効果の多様性」は非常に重要です。
しかし、ミニマルゲームにおいては、ゲームルール内のリソースを可能な限り使い尽くさないと、ルールやカードテキストが煩雑になったり、カード効果が単調になったりしてしまいます。
私は「リソースグラフ」と呼ぶ、以下のような図を描くことによって、カード効果がゲーム中の要素を満遍なく使えているかどうかを確認しています。
これにより、ゲームルールやカードテキストを過度に複雑にすることなく、カード効果の多様性を実現しています。
状況によるカードの強弱の変動
カードゲームに限らないのですが、手札のカードの強さが常に一定の場合、強いカードから使っていくだけのゲームになってしまいます。
これを避けるために、カード効果の強さを状況に依存して変化するようにしました。
例えば、「かきあつめ」というカードは、「捨て札の①の財宝を最大8枚まで拾う」という効果なので、捨て札の①の財宝が少ないときは弱く、多いときは強くなります。
このように、状況によってカードの強弱を変動させることで、今の場面で最も有効なカードは何か、今後の展開を有利に進めるには、何を持っているべきかを考えさせるようにしました。
プレイヤー間の強いインタラクション
二人用対戦カードゲームでは、プレイヤー間で強いインタラクションがあることが、一般的です。
特に『きょうあくなまもの』では、「きょうあくなまもの」というモンスターのプレッシャーとその着地や除去を巡る攻防がゲームを面白くしています。
これらを踏まえ『きけんなさいくつ』では、初期段階から「おとしあな」や「たつまき」といった強力な攻撃カードを導入しています。
強力な攻撃要素を多人数ゲームに導入すると、ゲームがインタラクションに支配されるという問題を生みますが、今回はこれを良しとしました。
一般的に近年のボードゲームのデザインでは、インタラクションを減らし、ソロゲーム化する方向に進んでいます。
何故なら、何度もリプレイされないゲームにおいて、強いインタラクションはゲームバランスを崩してしまうという悪影響があるためです。
しかし、短時間ゲームの場合は、インタラクションが強くても、パーティーゲームとして楽しむことが出来ますし、短時間でリプレイ出来るため、ゲームにすぐ慣れる事が出来ます。
慣れたプレイヤー同士でゲームをする場合は、インタラクションを含めた読み合いをすることが出来るため、ソロ寄りのゲームよりも深みのあるゲームとなり、非常に耐久性に優れたゲームとなります。
以上から、強いインタラクションは短時間の小箱ゲームにとってはメリットの方が大きいと考えました。
逆転性
『きけんなさいくつ』では、『きょうあくなまもの』同様、「ダイナミックな展開と逆転性」が大事だと考えました。
『きょうあくなまもの』では、妨害なしで先行2ターンキル、後攻1ターンキルという極めて高速なゲームを「カウンターチップによる打消し」を導入することで、減速しています。
これにより、序盤の駆け引きと、カウンターが尽きたあとの逆転性の両方を実現しています。
『きけんなさいくつ』では、「カウンター」を採用できないので、これらの代わりに、「ゲームの進行とともに自動的に拡大するカード効果」を導入しています。
『きけんなさいくつ』では、序盤は獲得した財宝も、捨て札の財宝も存在しないため、「だうじんぐ」や「じしゃく」といった財宝山札から財宝を探してくるカードが強くなっています。
しかし、ゲームが進み、プレイヤーの獲得した財宝が増えていくと、それを利用した効果のカード(「せんべつ」や「ぶんかつ」など)、もしくは相手の財宝を捨てさせるカード(「おとしあな」や「たつまき」など)が上述のカードより強くなります。
そして、さらにゲームが進むと、これらのカードにより捨てられた財宝が増えるため、捨て札から財宝を拾うカード(「はっくつ」や「かきあつめ」など)が強くなります。(下図参照)
さらに、「こうみゃくよち」や「しんきかいたく」は、財宝山札に関する情報が増えることにより、強くなります。
このように、「獲得した財宝」「財宝捨て札」「情報」というゲームが進むに従って増えるリソースを参照することで、カード効果がゲームの進行とともに強くなり、ゲーム全体がインフレしていきます。
一般的なTCGですと、ゲームが進む程高コストのカードが使えるようになったりしますが、そのようなゲーム展開の拡大要素をコストなどを使わずに実現しています。
これは、上述した「カード効果の強弱の変動」のデザイン指針とも言えます。
特に「しんきかいたく」は、確率は低いものの、大量得点出来る可能性があるため、これがあることにより、常に勝利を目指すことができ、最後まで諦めずにゲームをプレイ出来るようになっています。
乱数を楽しめるゲームデザイン
『きけんなさいくつ』の面白いポイントの一つとして、「財宝の引き運によるギャンブル感」があります。
『きけんなさいくつ』は、「財宝山札」に伏せられた財宝をカード効果で獲得していくゲームなので、財宝の引き運に大きく影響されるゲームのように感じます。
実際に、「こうみゃくよち」や「しんきかいたく」といったカードは確率に関する情報は手に入るとはいえ、大きく乱数に影響されます。
しかし一方で、「だうじんぐ」や「はっくつ」など、財宝山札から選んで獲得したり、捨て札から選んで獲得したり、確定的に財宝を獲得するカードも多く存在します。
このように、乱数に影響される選択肢と、そうでない選択肢が同時に存在することで、プレイヤーは「自分の意志」で「乱数を含んだ選択肢」を選ぶことになります。
強制的に与えられる乱数に対して、プレイヤーはその不運に対する不満をゲームに向けますが、
このような「自分の意志」で選択した結果の不運に対しては、プレイヤーは「自分の選択」を後悔することになります。
また、逆に幸運も「自分の意志」で選択した場合ほど、高い感動を得ることができます。
このように、「自分の意志」で「乱数を含んだ選択肢」をプレイヤーに選択させることによって、より深く乱数を楽しめるゲームにしています。
ディベロップメント
『きけんなさいくつ』は、『きょうあくなまもの』同様、「特殊効果を持ったカード」を、「共通の山札から獲得する」ゲームなので、カード効果のバランスなどのディベロップメントは非常に重要です。
以下では、ディベロップメントで行ったことをポイントごとに解説していきます。
バランスの調整
ドローやサーチによる解答へのアクセス
強靭なガードレール
「きんこ」のデザイン
バランスの調整
『きけんなさいくつ』には多種多様な効果を持つカード群、そして、財宝カードの価値や枚数といった多くのパラメータが存在します。
これらのパラメータは各カードを数学的にモデル化し、その期待値や分散、最大値などといった情報を計算することで、カードの強さが狙い通りの値になるように調整しています。
※ボードゲームのバランス調整についてはこちらで記事を書きましたので、合わせてご覧ください。
その中で、特に、重要だったのが、(上記の記事にも書きましたが)期待値だけでバランス調整すると、ゲームにおいて選択される確率と乖離してしまうということでした。
上振れが期待できるカードは、そうでない同じ期待値のカードに比べて選択される確率が高かったのです。
この結果を踏まえて、『きけんなさいくつ』では、確定的な効果ほど、標準時の期待値の高く、ギャンブル要素の強いカードほど期待値が低くなるようになっています。
そのため、勝負を必要としない場面では、安定した選択肢を選ぶことができ、一か八か逆転を狙いたい場面では、ギャンブル要素の強いカードを選ぶようになります。
これにより、理不尽に運要素の高い選択肢を選ぶ必要がなく、ギャンブル要素を選択するときは「自分の意志」で選ぶことが多くなるため、上記の「乱数を楽しめるゲームデザイン」をうまく実現するようになっています。
ドローやサーチによる解答へのアクセス
最初は「けいかく」や「ちょっかん」といった山札のアクションカードへアクセスするカードはありませんでした。
しかし、手札を入れ替える手段として、「けいかく」のカードを採用したところ、ゲームの面白さがぐっと上昇した、と感じました。
これは、「けいかく」「ちょっかん」「りさいくる」「こぴー」といった別の領域にあるカードにアクセスするカードが、瞬間的に選択肢を増加させるためだと考えられます。
特に、非公開領域のカードにアクセスするカードはギャンブル要素を含むため、リスクなくアクセス出来るカードを選ぶのか、それともリスクを承知で見えていないカードを探すのか、というジレンマが生まれることも、ゲームの面白さに繋がっています。
強靭なガードレール
『きけんなさいくつ』は『きょうあくなまもの』よりもさらにカジュアルなプレイヤーを対象にデザインしています。
『きょうあくなまもの』において問題であった点の一つが、よくわからないまま、ドローカードのような盤面に影響を及ぼさないカードをプレイし、ゲームを全く理解しないまま負けてしまう、ということです。
これを避けるため、『きけんなさいくつ』では、ドローやサーチといったカードは、手番を消費することなく、かならず利得のあるカードをプレイできるようなデザインにしています。
そのため、全く何もできず、「ゲームに参加できない」というプレイヤーがいなくなり、分からないなりに選択することで必ず勝利に近づくようになりました。
これにより、『きけんなさいくつ』はより広いプレイヤー層に遊べるゲームになったと思っています。
「きんこ」のデザイン
『きけんなさいくつ』でもっとも調整に苦労したカード「きんこ」です。
最終的には「きんこ」は「手札に持っている時に自動発動するカウンター」としてデザインされました。
強力な攻撃カードの多い『きけんなさいくつ』において、攻撃カードの理不尽さを緩和するために、防御カードをデザインする必要がありました。
そこで、財宝を守る効果や、攻撃カードをカウンターするカードなどがデザインされましたが、永久に守る効果は、逆転性を損なうし、カウンターも同様でした。
そこで、自動発動にすることで、自分にとって得な効果(「おすそわけ」)も打ち消してしまうことで、
「強すぎないカウンター」をデザインしました。
「おすそわけ」という損せずカウンターを落とせる効果のカードが存在することによって、「きんこ」は手札に常にキープされるということもなく、
しかし、適切なタイミングで持っておくと非常に強い、という良い塩梅のカードとなりました。
おわりに
このような思考を経て、『きけんなさいくつ』は完成しました。
いかがでしたでしょうか。
楽しんで読んでいただけたなら幸いです。
『きけんなさいくつ』は、
「特殊効果カードゲーム」を気軽に楽しめる
2〜4人、どのプレイ人数で遊んでも面白い
小箱に入り、いつでも持ち歩ける
そんなゲームですので、未プレイの方は良かったらプレイしてみてくださいね!