『きょうあくなまもの』制作ノート
※この記事は以前ブログに書かせていただいた記事をnoteへ移動および加筆修正したものになります。
今回は『きょうあくなまもの』の制作ノートを公開したいと思います。
着想∼制作の動機∼
『きょうあくなまもの』の元となったゲームは、Magic :the Gathering(通称MtG)というトレーディングカードゲームです。
私はMtGを長年やっていて、最近は専ら「レガシー」という、古いカードから新しいカードまで(禁止カード以外は)ほぼ全て使うこと出来るフォーマットでプレイしています。
このMtGというゲーム、非常に面白いゲームだと思うのですが、非常にハードルが高いゲームでもあるんですよね。
具体的なハードルは、
・ルールが難しい
・デッキがないと遊べない
・カードや流行りのデッキを知らないとまともに遊べない
といったものです。
特にMtGのレガシーというフォーマットで遊ぶにはデッキを組むのに約40万円程度かかり、新規参入が非常に難しくなっています。
なんとかして、
・簡単なルールで
・デッキを組むことなく
・MtGのような駆け引きを楽しめる
ゲームを作れないか、と考えたのが制作の発端です。
ミニマル化とその効用
制作の最初の段階で少枚数(ミニマル)なゲームとして構成することを考えました。
MtGにおいては情報戦(流行りのデッキなどについて知識を持っていること)が非常に重要であり、駆け引きを面白くする要因になっています。
デッキを組まないゲームでこの駆け引きを実現するために、
・総カード枚数を少なくし
・自分の手札の情報から相手の手札を推測可能
なようにしました。
これは良くできたミニマルなゲームは少枚数であることを利用し、ゲーム中に推理要素を導入していることを参考にしています。(ラブレター、クー、ワンナイト人狼などを想像してください)
当初はお互い手札6、山札が6枚の計18枚のカード構成とし、自分の手札にないカードが相手の手札にある確率を50%とするようにしました。
調整の結果、最終的には、手札が1枚ずつ減り、16枚のカード構成となりました。
アクションポイント制によるカードプレイ
さて、カードの枚数が少なくなることにより問題が生じる点があります。
TCGではカードプレイに「コスト」の支払いが必要となることが多く、MtGでは「土地」という専用のカードがそのコストを供給します。
しかし、少枚数のカードの中にコスト供給カードを入れてしまうとデザイン領域が圧迫されてしまいますし、そもそもこの「土地」システムは「土地事故(土地カードを引かない)」などの問題を起こしてしまうという欠点があります。
自分でデッキを組むゲームであれば、それが起きにくい構築も含めてテクニックと呼べますが、デッキ構築のないゲームではただの運になってしまいます。
そのため、『きょうあくなまもの』では、ボードゲームのメジャーなメカニクスである「アクションポイント制」を採用することにしました。
各手番では、決まったアクションの数(『きょうあくなまもの』では2)だけアクション(カードのプレイ)が出来るというルールです。
アクションポイント制では一般的なTCGのように徐々にコストが高い強いカードをプレイ出来るようになるという仕組みを実現できませんが、MtGのレガシーのデッキではほとんどのカードがコスト1だけで構成されていたりするため、必須の要素ではないと考えました。
カウンターチップの採用
『きょうあくなまもの』の特徴的なメカニクスと言えば、カウンターチップのメカニクスだと思います。
当初より相手のカードプレイを妨害するカウンターの要素を導入したいと思っていました。
最初は相手のカードプレイに対応して使えるカードとして導入しましたが、あまりにも強すぎました。
それもそのはず、一般的なカードがカード1枚とアクション1つを消費してプレイされるのに対し、このカウンターカードはアクションを消費することなく、カード1枚でこれを無効化できるため、アクション1つのアドバンテージを簡単に得ることが出来てしまうのです。
このため、カウンター側もアクションを消費するように変更することにしました。
あらかじめ自分ターンでカウンターチップを獲得し、それを使用してカウンターを行う、というものです。(これが「じゅうてん」の原型になります)
その後、ゲームの速度やバランスなどから、最初から2枚のカウンターチップを持つという形になりました。
なお、カウンター返しに関しても当初から検討はしていたのですが、カウンターチップ1枚で出来てしまうと、キーカードに関して、ただのカウンターチップの枚数勝負が行われるだけになってしまうことや、同数だと仕掛ける側が有利になり過ぎるなどの理由から、現在の形に落ち着きました。
カード効果のデザイン
さて、TCG風のテキスト主導型のゲームにおいて最も大事なのが、個々のカード効果のデザインです。
特に『きょうあくなまもの』では、カードが16枚しかないため、その効果のデザインは非常に重要になります。
『きょうあくなまもの』は当初から再現したいゲーム性というものがありました。
それはゲーム最初から敗北のプレッシャーを与えられるクライマックス感と、その絶対絶命の状態から大逆転が出来る逆転可能性の実現です。
そもそもこの『きょうあくなまもの』というゲームを考えたのはMtGにおけるリアニメイト(捨て札を経由するコンボで強いモンスターを出すデッキ)とANT(呪文を繫ぐコンボで一撃必殺するデッキ)で対戦していたときでした。
相手のリアニメイトが高速召喚したモンスターのプレッシャーの中で、モンスターに対処しながら、勝ちをもぎ取った時の興奮が素晴らしかったのです。
しかし、実際のMtGのゲームではあまり逆転が発生することは稀で、ワンサイドゲームなることが多いのが気になりました。
そこで『きょうあくなまもの』では、このプレッシャーや逆転が発生しやすいカード構成にするべくデザインを試みました。
デザインの目安となった指標は、妨害がない状態で、
・先手2ターンキル
・後手1ターンキル
というバランスです。
例えば、先手第1ターン目に「しょうかん」→「きょうあくなまもの」と出せば2ターンキルになります。
後手は、妨害しないと負けてしまいますが、できなくとも、
「かそく」→「ひのたま」→「はっくつ」→「ひのたま」
で1ターンキルが可能です。
先手1ターンキルが不可能であるため、どのゲームにおいても必ず両プレイヤーが行動することができます。
おそらく、ゲームが壊れない範囲での最速の調整でしょう。
また、ゲームの複雑性を上げるために、カードの効果の中に選択肢を含むカードを多く導入しました。
「ちょうさ」というカードがあります。
効果は「カードを3枚引き、2枚捨てる」というものです。
これが例えば、「カードを2枚引く」ですと、選択肢が全くないですが、3枚引き、2枚捨てるという効果にすることで、どのカードを捨てるのか、という選択肢が生まれます。
このようにカード内に選択肢を多く導入することで、ゲームが運のみではなく、プレイングが大きく影響するものとなります。
また、ハンドマネジメントするカードが多く、攻撃するカードが少ないことで、それらのカードがどこにあるのか、どれを手に入れるべきか、という形で焦点が定まり易くなり、駆け引きがより白熱しました。
ゆるいイラスト
ゲームデザインとは直接関係ないのですが、この『きょうあくなまもの』(日本版)はMtGという元のゲームとはかけ離れたゆるいイラストを採用しています(海外版「Terrible Monster」は方向性が全く違います)。
これはこれまでTCGをプレイしてきた層だけでなく、プレイしてこなかった層にもプレイしてもらいたいと考えたためです。
ゲーマーにも楽しめる戦略性、シンプルなルール、ゆるいアートワークは今後も「Studio GG」のゲーム作りの指針になると思われます。
終わりに
以上が『きょうあくなまもの』の制作ノートになります。
いかがでしたでしょうか?
楽しんで読んでいただけたなら幸いです。
『きょうあくなまもの』は
・昔TCGをプレイしていたが、新セットを追いかけるのに疲れて辞めてしまった方
・全くの初心者とTCG風のゲームを気軽にプレイしたい方
・お金がかかりそうなのが気になってTCGに手が出ない方
などには特にオススメのゲームだと思いますので、ぜひ一度プレイしてみて下さい。