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なぜクリエイターの職能は細分化されたのか?そして私たちはどこに向かうのか?

デジタル技術の急速な発展、生活者の多様化により特定領域で専門知識を求められる様になったクリエイティブ業界。それは真に解決すべき課題の正体を曖昧にすることに繋がった。クライアントにとって最適なソリューションを提供できるのは誰なのか。そして効果的な解決策を生み出すためにはどの様なアプローチが必要なのか。スタジオディテイルズのブランドディレクターユニットを牽引する小林、藤田に話を聞きました。

小林 尚規
執行役員 / Brand Strategy Lead

藤田 隼輔
Brand Strategy Lead / Copywriter

爆発的な技術発展と、生活者の高度なパーソナライズ。

藤田:まずは話のとっかかりとして、今のクリエイティブ業界の職能細分化の背景は「誰が、どう作り出していったのか?」という問いについて、小林さんの考えを聞かせてほしいです。

小林:僕がこの業界に身を置いたのは2015年。当時、デジタル技術の進化が新たなニーズと機会を生み出していたのを鮮明に覚えています。スマートフォンの普及、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、AIなどの技術が急速に発展した。それに伴い、技術を活用する専門性が求められるようになり、ウェブデザイン、UX/UIデザイン、データ分析、デジタルマーケティングなど、特定の技術やサービスに特化したエージェンシーやプロダクションが増加しました。
生活者が多様化する中で、企業はよりカスタマイズされ、高度にパーソナライズされたサービスを提供する必要に迫られていたんだよね。だから、特定の市場ニーズに特化してサービスを提供する企業が増えたのだと思う。例えば、eコマース専門のデジタルマーケティング、ヘルスケア分野のデータ解析など、特定領域に深く踏み込んだ専門知識が求められるようになっていた。

藤田:スタートアップカルチャーの影響で、新しいビジネスモデルや革新的なサービスを追求する小規模ながらも専門性の高い企業が数多く誕生したのもその時期ですよね。この動きは、クリエイティブやIT市場でも顕著だった気がします。ニッチな分野で競争優位を築こうとする企業が増えた結果、業界全体が細分化されていったのかなぁと思いました。

小林:そうそう。なんならその流れは、今でも続いているよね。

生存戦略としての細分化。

小林:特にクリエイティブやマーケティング界隈のヒエラルキーとして、大手広告代理店やデジタルエージェンシーがクライアントから仕事を受注し、下請け的に複数の専門性の高いベンダーをアサインする構造があるよね。彼らからのオーダーに応え続けるために、中小規模のプロダクションは形を変えていった。それがクリエイティブ業界の職能細分化のカラクリだと考えている。

藤田:この業界には元々、網羅的な範囲を活動領域としていたクリエイティブディレクターたちが多数存在したと思うんです。一方で、やれること・やらねばいけないことが増えすぎた故に、自身の価値の明確化を図り、他社との差別化を目的に「うちはこれがめちゃくちゃ尖ってます」と言い出した会社が現れたんですよね。特定の市場においては、網羅的な立ち回りよりも「特化した分野で優位性を持つ」という戦略が「ある種の生存戦略として」重要だったってことですよね。

小林:そうしなければ生き残れなかった、という意味合いが強いよね。スタジオディテイルズ(以下、SD)も同様で、創業からWeb領域に特化して実績を積み上げてきた。「徹底的に良いモノを作る」というアウトプット重視の戦略に舵を切ったからこそ、今日現在もSDが存在できているのだと感じている。

専門領域特化型は、本質を問えるか?

藤田:しかし、こうした領域特化が当たり前になり、全体像を俯瞰することが難しくなった感覚があります。クライアントからしても、クリエイターからとしても、「困りごとが何かさえわからない」という新たな課題が生まれ始めている気がするんですよね。だからこそ、そんな中、クライアントの困りごとを丸ごと解決するというアプローチが再評価されていると感じています。

小林:そうだね。職能が細分化したことにより各領域の専門性が深掘りされ、その領域で解決できる課題の処理能力が増えたことは良い側面としてある。でもこれって「専門家は自分の領域の課題しか特定しない」という状況も生み出しているとも考えられる。解決できそうなことだけを課題とみなす、ってことだね。
具体的な例を挙げると、インスタグラムのマーケティングに特化した会社は、クライアントのインスタグラムに関する課題を指摘する。でもそれってone of themであって課題の本質は見えていない可能性がある。その会社のトータルブランディングについては触れない、というか触れたくない、まであるよね。

藤田:そうですね、課題本質の深掘りの先に、自分たちの得意領域ではない別の真の課題に辿り着いてしまったら、もはや自分たちではそこは解決出来ないし、場合によってはそう分かってしまったとしても、極論見ないフリをして、当初見えていた目先の課題を解きに行くみたいなことまで発生してしまったりするのかなと。

局地戦のオンパレード。


小林:世の中のニーズの多様化やクライアント内部の部門細分化によって、クライアント自身も課題のコアが分からなくなってきているのは間違いないと思う。細分化された課題に対して、細分化されたパートナーをあてがうことになるわけだから、それってもう局地戦のオンパレードのような状況が横行しているように思う。

藤田:そういった状況だからこそ、改めて今、横断的な役割が重要になってくると思うんです。課題AにソリューションA、課題BにソリューションBがあったとして、AとBの間には「行間」があって。その行間を埋める役割は誰なのか?そこにこそ課題があるのではないか?というのがポカッと⁨⁩抜けちゃっている。その現実に気づかない、または目を背けて、局所的な課題解決をするアプローチには違和感を感じているんです。

小林:「専門的な分野で課題を解決する人」と「全体の行間を埋めながらバランスが取れる人」がセットで存在する事がベストな組み合わせだと思ってる。

藤田:最初に、全体を見れる人間が統合的な目で全体のビジョンや、プロジェクトの目標を明確にし、チームが進むべき道を見出す。その上で必要な各所に専門家をアサインすることで、より効果的な結果が得られるという構造なので、適切な順序でプロセスを進めることが重要ですよね。一番あってほしくないこととして、専門家が個々の得意領域を前提とした焦点を当ててしまい、全体の課題や目標を見失うということがあるので。

小林:その通りだね。

ブランドディレクターとは、全体を俯瞰し、行間を埋める人。

藤田:SDにおけるブランドディレクターとしての視点では、山積みの課題を全体的に把握し、今回は何をすべきかを明確に定義することが一番コアな仕事だと思っています。

小林:大手広告代理店がコンサルティングファームになろうとしている動きに注目しているんだけど、これまでの広告やグラフィック、チャネルごとに施策を打っていたが「それを束ねる」って言ってるんだよね。これって、今までの強みを活かしたまま行間を読み、全体を統合するという事だからSDのブランドディレクターの役割と意味は同じだと思っている。

藤田:逆も然りで、大手コンサルティングファームはこれまでコンサルティングの分野に特化しデリバリーの部分は切り渡していましたが、クリエイティブエージェンシーを買収し、一気通貫で価値提供できる様に領域を拡張しています。広告代理店やコンサル、クリエイティブエージェンシーの両者が結果的に、真ん中で集おうとしている状態ですよね。

その課題が、本当に解決すべき課題なのか?

小林:SDのスタイルは、横割として行間を埋めるだけでなく、縦割も行うという広範なアプローチになる。これにより、SDは広い視野でビジネス全体の機能やプロセスにも関与しながら、局所的な問題にもデザインやテクノロジーを活用した解決策を提供することになるね。

藤田:横割りに対しては、クラシカルなクリエイティブディレクターのような動きが求められますね。営業から契約までのプロセスや戦略設計、提案書の作成、チームアップまで幅広い業務を担当する。それは確かに大変な作業ですが、同時に非常に価値のあるプロセスでもあります。この幅広い業務を担当することの意図は、根源的な課題を発見するために、クライアントとのインタラクションの中で行間を見つめるという文脈です。

小林:それは時に「言いにくいことをズバッと言う」ことから始まるよね。クライアントが解決して欲しいと思っている課題が明確であっても、それが解決すべき課題ではない場合もあるから、衝突する事も当然ある。衝突の最中に、本質的な課題のシグナルが隠れていたりすると思う。

ロジック、だけではない。そこに眠る潜在的なニーズを捉える。

藤田:引きで見たら、一見雑務に近い仕事にも、実はめちゃくちゃ価値があるんです。例えば、Aさんに膨大なリサーチと、その結果のまとめ作業を依頼して、僕がそのまとめを元に戦略を作る。みたいな事はおそらくできちゃうんですけど、実はAさんがリサーチで触れた、何の意味もなさそうな情報こそが、実は戦略の立案に、重要な要素になるかもしれないんです。リサーチを通じて、直感的に得られる感覚や洞察は、戦略を打ち立てる際に重要な要素であり、まさに、行間と解く鍵とも言えるものでもある。些細な事と思われがちな事が、ブランドや企業の特性や魅力を構築し、深化させる一助となるんですよね。

小林:行間を見ないと、クライアントからの指示通りにただ作業をこなすだけの現象が生じがち。クライアントのニーズや課題を俯瞰的に見てリフレームし、それを解決するための戦略やアプローチを提供するのが私たちのミッション。期待を超えていくためには、とにかく考え、考え抜いて答えを出す。これまでメンバーに100回以上は言っている言葉で「一番考えたやつが一番偉い」ってのがあると思うんだけど、これは冗談でも何でもない。その上で、ちょっとおせっかいじゃない?そこまでやるの?くらいの動きをする事に大きな価値があると思ってる。

藤田:お節介って、それ僕じゃないですか(笑)でも、割と本気で、それが本当の意味で、クライアントに貢献するための「最短ルート」って気もするんですよね。

小林:そうだね。第三者的なポジションからプロジェクトに入る大きな意義だよね。

藤田:よく「お客さんのことを最も知っているのはお客さん」みたいなことを耳にするシーンがあるかなと思うんですけど、僕はクライアントが自分たちのビジネスに関する全てを知っているという前提は違うと思っていて。実はお客さんが知ってるお客さんの情報って、ひとつの側面から深く見たもので、多くの偏りを含んでいることの方が多いなと思うんです。
だからこそ、クライアントが持つ知識や情報を尊重しつつも、SDのメンバーが持つ専門知識や経験により、クライアントの視点とは異なるプロの視点から、より効果的なアドバイスやサービスを提供することに僕たちの価値があります。そのためには、お互いの専門性や経験を尊重し合いながら、協力してプロジェクトを進めていくことが重要ですね。

小林:SDのアプローチは、俯瞰的な視点から全体を見渡し、行間まで探りながらプロジェクトに関与していくからクライアントが実行する施策とは異なる考え方やアプローチで物事が動いていく。SDは過去に多くのプロジェクトを経験してきているから、クライアントからすると問いの立て方から、進め方まで、全く新しい体験になる。

藤田:クライアントは自身の事業や目標を持っていて、その背景には実行しなければならないタスクや目標があります。新たな課題や取り組みに対するクライアントの視点は、近視眼的であることが多いです。しかし、僕らブランドディレクターはこれまでの経験を活かし、俯瞰して行間を読める。だからこそ、クライアントが見逃している可能性のある問題や機会を発見し、提案する役割を果たせる存在になれると考えています。

合理と情理、どこまで本気で踏み込めるか?

小林:一方で、全てが戦略やロジックで片付く話でもない。一度の提案や会話だけで全てが解決することはごく稀で何度も対話を重ねる必要があるんだよね。これって、結局は人と人の関係構築が重要だということを意味していると思う。

藤田:それは本当にそうですよね。最近はプロジェクトの複雑さが増している中で、領域の拡大や判断基準の不明確さによってクライアントも「どこで判断をすれば良いの?」となるケースが増えているんです。僕たちは提案時、合理的な判断基準を提案に組み込み、目標の達成に向けた合理的なアプローチを示していきます。でもどこまでいっても確率100%のプランなんてものが存在しない以上、結局は「この人と仕事したい、この人を信じたい」と思ってもらえるかどうか最後は情理の世界だなと

小林:合理性はあくまでロジカルな思考や手順に基づくものだからある程度の正解らしいものがある。一方で道理はより深い理解や踏み込んだ洞察を必要とする。つまり道理を追求することは、相手の視点や状況を考慮し情緒を踏まえ提案をより適切なものにするための重要な要素になる。

藤田:自分たちの役割や使命を正しく認識して、踏み込んでいくってことですよね。時として「容赦なく配慮して、真っ向からNO」を伝える覚悟も必要だと思っています。

小林:例えばWebサイト制作の問い合わせがきても本質を問い、課題の解決のために必要なければ「必要ない」と伝える。時代の変化やテクノロジーの進歩によって、ビジネスモデルやプロジェクトのアプローチも変化しているから、新しいアイデアや手法が採用されていくことも当然なわけ。手前味噌ではあるけど、SDは従来の枠組みにとらわれず柔軟な発想で本質を捉える基本的所作ができる組織だと思っている。

人材こそが価値の源泉、と考えるブランドファーム

藤田:組織としても、瞬く間にメンバーが倍以上になって、個々の特性がいい意味でバラバラなんですよね。つまりそれは、異なるバックグラウンドや専門性を持つメンバーの強みを生かし、より創造的で効果的な解決策が生まれる可能性が高まっていることになる。ときどき動物園みたいだなって思ったりもするのですが、まさに価値の源泉でしかないなと。

小林:解決すべき課題のサイズや複雑さが増すほど、クライアントが見えていない行間が複雑になるほど、SDの提供する価値が高まる。もちろんリスクもあるけど、それでもチームで挑戦し続けていきたいね。

藤田:ブランドディレクターは当然専門性を持つことも重要ですが、それを軸に横に広げていくことで、本当の価値が発揮できると思っています。専門性を振りかざすだけではなく、柔軟性や幅広い視野を持つ思想がある人にとって、今のSDは最高のステージだなと僕個人としても感じています。


撮影 / 井出 裕太  編集 /  田代 麻依

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