カラフルなリボン。
いくつもの筒の中に並んだテニスボール。
彩どりのブロック。
おもちゃのような、ちょっと違うような、そんなカードや箱、ボールなどの数々。
インスタグラムに流れてくる写真や映像を見た時、これがなんだかさっぱり分からなかった私。oowaの加藤甫さんに教えてもらい、初めて「特別支援教材」というものの存在を知りました。
主に知的障がいがある子どもたちの教材ということはわかったけれど、これがなぜ「教材」になるのだろう。
この教材は、子どもたちにどんな影響をもたらすのだろう?
教材といえば、教科書やドリルなど、正しい答えを追い求めていくためのものというイメージしかなかった私にとっては、頭の中にはてなマークばかり。
でも、大人と呼ばれる歳になった自分でも、この教材を見るとなんだかワクワクして、「触ってみたい」「試してみたい」という気持ちがむくむくと湧いてくるのです。
こんな気持ちを抱かせる「特別支援教材」って一体何なんだろう?そんな思いを持ちながら、この教材をつくった北野ちゆきさんに、oowaの加藤甫さんと一緒にインタビューさせてもらいました。
教材はオーダーメイド
障がいがある子どもたちの多くは、特別支援学校や特別支援学級に通います。それぞれ障がいの程度や特性もバラバラのため、全員が共通して使用できる教材がなかなかないのだそうです。
ネットなどで探すと、市販のものも数多く売られています。ただ、その教材がフィットする子もいれば、しない子もいます。
そのため、先生たちは子どもたちに合わせ、教材もオリジナルで作っているそう。
そもそも「共通する教材がない」ということ自体、私には衝撃でした。
「学校って、決められた教科書を読んで、問題集をやるような場所じゃないの?」と。
どうやら、障がいがある子どもたちにとっての「学習」や「勉強」というもの自体、私の価値観におけるイメージがピッタリ当てはまるものではないようです。
子どもたちにフィットする教材がないのであれば、一人ひとりに合わせたオーダーメイドの教材を作ろう!
そうして子どもたちと向き合う日々の中で数々の教材を作り、「ひとり教材展」なるものまで開催してしまったのが、北野ちゆきさんでした。
北野さんは、普段は特別支援学校の先生として勤務されています。そのかたわら、ご自身で作った教材や遊び方、子どもたちとの接し方などをインスタグラムなどを使って発信されています。
私がインスタで見た数々の教材が並ぶ光景は、年に一回、長期休みに合わせて教材を机に全て並べ、お手入れしたり新しい教材へのインスピレーションを得たりする「ひとり教材展」と北野さんが呼んでいるもの。誰もいないガランとした教室に、たくさんの教材が広がるさまは圧巻です。
北野さんがつくる特別支援教材は多種多様という言葉がピッタリ。
無数の穴が開いている木の棒。そこには強力なマグネットが仕込まれていて、木の棒を差し込むとカチッと音が鳴る。
紙をパタパタと広げると、次から次へと写真が現れる。
自分が「気持ちいい」と感じたり、「次は何が出てくるんだろう」と思ったり、頭で考えるだけでなく、体の感覚にも訴えかけられることが印象的です。
障がいがある子と社会を繋ぐツール
では、この教材を用いて、どんなふうに「学習」や「学び」が行われていくのでしょうか。
教材をお供にスロープを登りながら、少しずつ自身を知り、できることを増やしていく。それは時間がかかる道のりではあるけれど、その子にしかつくることも歩むこともできない、とてもクリエイティブな道のりだと感じます。
その一方でふと、子どもたちがそのスロープを登っていった先に、何が待っているのだろうという思いにかられました。
それはすなわち、「障がいがある子どもたちにとっての「学習」のゴールとは?」とも言い換えられるでしょう。
その問いを、北野さんに投げかけてみました。
私たちは普段、何らかの方法で社会と接しています。社会というと大きいけれど、例えば仕事をした、家族とご飯を食べた、友達と話したということだって「社会と繋がる」と言えるでしょう。
社会と接続する、つまり他者と関わり、反応していく。
特別支援教材を通じて、そういうことができるようになるということなのでしょうか。
教材を通じて学習し、できることが増えれば、社会という自分以外の世界を知って、「どうしたいのか」という選択をし、その選択に基づいた行動を起こすことに繋がる。
それはすなわち、「生きる」ということそのものだと言えるのではないでしょうか。
あの楽しそうな教材を使い、学ぶ時間を積み重ねていくことによって、子どもたちは、「その子オーダーメイドの、社会とともに生きる術」を身につけることができるのです。
社会がその子と繋がることができる
oowaとしてだけでなく、障がいがある子どもの親としての立場でも、この教材に接してきた加藤さん。「この教材は、子どもたちだけにとってのツールではないと思う」と話します。
その上で、「特別支援教材を介して子どもたちと理解し合うために、周りが心にとめておくべきこともある」と北野さんは話します。
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「なんだか楽しそう」からスタートした特別支援教材への興味。
「これは一体何なんだろう?」という私の素朴な疑問から始まって、特別支援教材が、子どもたちと外の世界、社会を繋げるツールなのだということが見えてきました。
北野さんとoowaでは今、この特別支援教材をつくる会も一緒に行っています。後編では、つくる会にお邪魔して、おふたりがこれから実現したいと考えている未来や思いについても伺っていきます。
(文章:原田恵、写真:川島彩水、加藤甫)