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魂を落とす

18から21のころまで、石垣島で暮らしていた。それはそれは濃密な3年間だったと思う。
島では、言葉が違う。文化も違う。食いもんは美味い。酒も美味い。アルコール度数は高い。頻繁に二日酔い。

島で暮らした時期はもう20年ほど前になってしまった。当時、島の人間の行動や考え方に驚いたり、印象に残ったことが沢山あった。それを思い出しながら。思い出した順に書き残しておこうと思う。

魂(マブイ)を落とす

島では魂のことを「マブイ」あるいは「マーブャー」(そう聞こえた)と言っていた。そして事故に遭ったり、酷く驚いたりすると魂(マブイ)が落ちて、近くにあるモノにそれが宿ると考えられていた。そして自分の魂(マブイ)がモノに宿ったままにしておくと、だんだんと自我が崩壊して狂ってしまうらしい。

例えば車を運転していて事故に遭ったとする。すると自分のマブイが落ちて近く落ちている石に宿る。その石を拾っておき、島の霊媒師(ユタ)に会って、魂を戻してもらうなどすると解決する。

詳細は間違っている個所はあるかもしれないが、だいたいはあっていると思う。自分が石垣島で暮らしていた当時、ガソリンスタンドで働いていた。ある日、同僚が原付を運転していて事故に遭った。

幸い軽い事故だったので、大けがには至らなかった。ところが数日経って、その同僚が変なことを言いだした。

「俺、マブイ落としたかもしれん」と言うのだ。それはどういうことなのかと訊くと、上記のような説明を受けた。マブイを落とし、それが近くのモノに宿る。拾わずに対処せねば、狂人なってしまうと。

では事故現場に行って付近の石なりなんなり拾ってくればどうかと言ったが、なぜかそいつは何もせず、仕事が終わっては酒を呑み行くというのを繰り返していた。

その後そいつがどうなったかは知らない。しばらく経ってガソリンスタンドの仕事を辞めてどこかへ行ってしまったからだ。

しかし、なんとも不思議で。どこか理不尽な言い伝えだと思う。事故に遭ったり驚いたりすると魂(マブイ)を落としてしまう。そしてそれが付近のモノに宿る。拾ってマブイを自分の中に戻さねば狂ってしまう。

事故にあってすぐにマブイを拾おうとしても、どれに宿っているのか分からない。適当に近くの石とかでいいのか。あるいは、木の枝や葉っぱなのか。どうすれば正解なのか。

ここまで書いていて思い出した。そういえば島で暮らしていたころ。自分は二度ほど事故に遭っている。どちらもバイクに乗っていて、車と接触した事故。

幸いケガは軽いもので済んだ。しかし二度ともマブイを拾っていない。

あれからおよそ20年になる。俺の魂(マブイ)は、今も石垣島のどこかにあるのだろうか。

俺はもう、狂っているのだろうか。

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