「cabin fever」が呼び覚ました過去【今日の余録】
「cabin fever」の話から、忘れられない記憶がよみがえる。
実は、いまだに向き合いきれない記憶。
社会人1年目の秋のこと。同期の一人がうつ病で休職した。担当プロジェクトが別なうえ、彼は客先常駐だったので、人づてに聞くまでまったく気づかなかった。
僕の知っている彼は、明るく爽やかな人だった。真面目で好青年。仕事できそうだし、順調に出世していくんだろうな、なんて勝手に思っていた。それだけに、うつ病という言葉がどうしても結びつかなかった。
なにかできないかと思い、連絡して見舞いに行った。だがそこで見た彼は、伏し目がちで表情が暗く、まるで別人。本当に目を疑った。
とりあえず話を聞けば少しは楽になるかもと、1時間、いやもっとかな、彼が悩んでいることや今後のことを二人で話した。
なんとなく明るい兆しが見えたような気がして、帰り際に励ましの言葉を送った。それはたぶん失敗だったと思う。自信なさげに「おう」と返事をしていたのが忘れられない。当時うつ病に関してなんの知識もなかった僕は、励ましが良くないことを知らなかった。
その後、彼は職場に戻ることなく退職してしまった。
社会人になってから知り合った友人にも、うつ病を患った人がいる。
犬が大好きな彼女は、実家の犬の話をするときが一番幸せそうだった。発症してからはメールよりも、電話のほうが多くなった。眠れない夜、ただ話を聞いてほしかっただけなのだと思う。僕は完全に聞き役タイプなので、ちょうどいい相手だったのかもしれない。
でも、たった一度だけ、その電話に出られなかったことがある。
その数日後、仕事からちょうど帰宅したくらいに電話がかかってきた。
声の主は彼女ではない。彼女の母親だ。
まさか、あれが最後になるとは思いもしなかった。なにかのきっかけで思い出すたび、「あの電話に出れていれば」と考える。
明治安田厚生事業団の川上諒子研究員らの研究によると、スポーツ観戦が心身に良い影響を与えるという。スタジアムの熱気や、画面越しの感動をだれかと分かち合う時間が、人の心を温めるのか。もっと早く知っていれば、違う結果に導けたのだろうか。