はじめまして、Studio D403です。
はじめに
Studio D403は、子ども向けカバンのお店です。おもに、入園や入学に際して求められる、手提げカバンや上履き入れなどを作って販売しています。今はもう高校生になった息子が小学校に上がった年に、家で出来る仕事をしたいなぁという気持ちと、私が好きな色味やデザインのカバンを、自分も好きだと言ってくれる誰かがいるんじゃないかなぁという希望的観測を信じてはじめた、ネットの片隅の小さなお店です。それから10年余り、多くのお客さんとの出会いや関わりの中で、私は様々なことを知り、考え、時には迷いながら進んできました。ここでは、そうすることではじめて形づくられた、D403の理念のようなものについて、少しだけ書いてみたいと思います。
母になって、出会った短歌
突然ですが、俵万智さんの子育て短歌を読んだことがありますか?俵さんが子育ての日々の中で詠んだ歌で編まれた「プーさんの鼻」という歌集に、息子が乳児だったころの私はずいぶんと救われました。育児ってこんなに大変で孤独なものだったの?と、かわいいはずの我が子をかわいいと感じる余裕もなかったその頃の私を、我に帰らせてくれたのが俵さんの短歌です。俵さんは、俵さんだって大変に違いない育児生活の中で、それでもちゃんと自分を生きているように見えました。私にとって自分を生きるということは、自分の心を自由にしておくということです。人の親になったからといって、私は私を見失わないようにしよう、私が私として感じることは大切にしよう、俵さんの詠まれた短歌によって、そういう当たり前の姿勢を取り戻すことができました。
名前を書くときの気持ち
これは、歌集「たんぽぽの日々」の中の一首です。私はいつからかこの歌を、D403のテーマソングならぬ”テーマ短歌”のように思って大切にしています。我が子のクレヨンの一本一本一本に、名前を書く時のような気持ちで、カバンを作る。D403という場所を作っていく。
私の息子は今はもう高校生なのですが、私は今までにいったい何度、彼の持ち物に名前を書いてきたでしょうか。入園のときコップに、入学のとき算数セットのおはじきに、少年野球部に入るときグローブに。そのときどきで、いろんな違った気持ちを抱きながら書いてきましたが、そのどの時も、根っこのところにある気持ちはいつも同じで、それは、願うような、祈るような気持ちだったように思います。私が一緒にいない場所で、この子が安全に、楽しくいられますように、できるだけ、悲しくなったり寂しくなったり切なくなったりしませんように。悲しいこと寂しいこと切ないことがあるのはもちろん承知の上、それでも、できるだけ、笑っていられますように、と。俵さんのこの歌を読むと、私はいつもその気持ちを思い出します。
そして私はこの、願うような気持ち、祈るような気持ちで、D403を運営していきたいなぁと考えています。それが、D403の唯一の理念のようなものです。
お客さんは子どもたち
D403のお客さんは、私と同じ、子どもを持つ親御さんたちがほとんどで、私はそのお客さんたちと一緒に今のD403を作ってきたようなところがあります。親が子を思う気持ち、そこからくる、いろんな悩みや要望を共有して、一緒に解決策を探ってきました。それによって生まれた工夫、商品は数知れずです。だから、私の中では、お客さんはお客さんであってお客さんでないような、言わば、一緒にD403を作ってもらっている仲間のように考えている側面があったりします。そういう意味では、D403にとって本当のお客さんは、D403のカバンを使ってくれる子どもたちなんですよね。これがカッコいい、この色が好き、と言ってD403のカバンを選んでくれて、届いたら目を輝かせて喜んでくれて、長い長い園生活や学校生活の間、そのカバンと共に暮らしてくれる。D403にとって本当のお客さんは子どもたち。だから、カバンが届いた先の子ども達の日々が、できるだけよいものでありますようにと、クレヨンの一本一本一本に名前を書く時のような気持ちで、D403の店主をやってきたし、これからもそういう気持ちで、D403という場所を作っていきたいなぁと思っています。
おわりに
お店をはじめた時に開設したブログがあるのですが、いろんなことにかまけて、全く更新しなくなって早5年、どうしたものかと思っていたのですが、お店が10年の区切りを迎えた今、来し方を振り返りながら、商品にまつわること、大切にしている生地選びや色合わせのこと、お客さんとのやりとりの思い出などを、少しずつ綴って残しておきたいなぁと考えるようになって、こうしてnoteのアカウントを作ったところです。もしよかったら、時々のぞいて、お付き合いいただけたら嬉しいです。
あらためまして、はじめまして、Studio D403です。