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台所の’気’をデザインする

土台レシピ9・とじ

目次
・家は自分の分身
  台所の’気’をととのえる
  掃除の得
・土台レシピ9・綴煮
  煮びたし+卵
  鍋のこと
  綴煮の作り方
  揚げ豆腐の綴煮・揚げ豆腐の作り方

家は自分の分身

料理は重労働です。けれど見方を変えれば、創造的で芸術的で、こんな面白い仕事はないのではないかと思います。そして、それを面白くするのは「台所」の存在が大きいのです。
おいしい料理はまず台所から、であります。

台所はその家の軸のようなもの。家族みんなが出入りする場所だし、そこで日々仕事するわけです。「聖域」と言ってもいいでしょう。
住む人を温かくし、喜ばせ、幸せにするのが台所の役目ですから、良い’気’にしていくのは大事なことです。

私は仕事柄、人の家の台所を時々使わせてもらうことがあるのですが、その家の台所に立つと、住む人の横顔みたいなものが見えてくるんですね。
15年ぐらい前になりますが、仕事で個人宅の台所をお借りしたことがあります。
一見するとモダンできれいでなキッチン。デザイン性のある電化製品がカウンターにあります。が、引き出しを開けると薄っぺらなアルミ鍋や、ボロボロのテフロン加工のフライパンが重ねてあって…。
とにかく台所に’気’がないんです。温かさとか、楽しさとか、おいしい’気’がない。そこに立つと料理の意欲が失せてしまう。

反対に気持ちがいい台所というのは、道具が奏でている気さえするほど、台所全体にリズム感があって、温かさに包まれている。凛とした空気感もあります。丁寧に仕事をしているという痕跡があるんですね。そういう台所は使いやすいです。気が合うというか、自分の家の台所のように動き回れます。

台所の大小でもなく、新しいとか古いとかでもなく、台所そのものが持つ’気’。それは間違いなく台所に立つ人が作り上げたものです。

じゃぁ、どうやって’良い気’にしていくのか....。

湯気を出し、香りを出して、台所を走り回って仕事をすれば、おのずとそうなっていきます。
料理は手仕事だから、とにかく手を使うことです。すると道具が生き生きしてきますし、台所全体が明るくてきちんとした’気’になっていきます。
料理していくうちに、いつも使う道具は手元に置くことを考えるだろうし、使わない道具は処分していくだろうし…。捨てることに対しては悩まないこと。そうやって少しずつ台所を育てていって、はじめて良い’気’になるのだと思います。台所はモノづくりの現場です。それを忘れちゃいけない。見た目とかカッコつけるんじゃなくて、リアルにモノづくり(料理)をするためのところです。そこをととのえていく。

良き道具の存在も大きいです。「用の美」は台所道具のためにあるような言葉ですね。たったひとつの道具が台所全体を変えることだってあるのですから、道具選びは大切です。

下の画像は我が家の台所。小道具がところ狭しと吊られていて、少し賑やかですが、スムーズに料理をしたいから、道具たちを引き出しにしまうことはしません。欲しいときにすぐ動ける。それも’気’の流れを良くします。
台所に立つと、オーケストラの指揮者のような気分になります。楽器(道具)に「今日も良い音をお願いします」と手を右左に動かす。香り、音、湯気を出して道具たちが合奏し、今日のひと皿ができあがる…。
結局、台所の’気’をデザインすることは、「おいしい」につながることなのです。

例えば、
禅の修行では、掃除は心の塵を払うこととされ、どんな修行よりもまず掃除から、と教わるそうです。
知り合いの心理療法士さん曰く、家の中の状態は住む人の心の状態です。家の中がすっきりしていれば、住む人の心もすっきりしているということだし、逆に家の中がごちゃごちゃしていれば、心の中もごちゃごちゃだということです、と。

暮らしをととのえれば、自分もととのっていく。

と考えれば合点がいきます。

’気’は見えないし、掴みどころがないものだけれど、それを見ようとする。そして頭やからだを動かしていくことで、モノの本質とか、自分の内面が見えてくるのだと思います。


土台レシピ9・とじ

さて、今回の料理は「綴煮」。
綴煮とは、卵で綴じた煮物のことで、いわゆる「卵とじ」です。
江戸時代にすでに綴煮は日本料理としてありましたが、それが家庭に広まり「卵とじ」というざっくばらんな呼び方になったと推測します。

綴煮の一例をあげると、
小竹葉おざさ豆腐」は焼き豆腐を卵とじにした料理。
ご存知「柳川鍋」はドジョウの卵とじ。どちらも江戸料理です。
明治にはいると「カツ丼」や「親子丼」が広まりましたが、これも綴煮の別バージョンですね。

綴煮(卵とじ)の具材や味付けは、各家庭で違うと思いますが、それを分かりやすい方式にしてみました。

煮びたし+卵=綴煮(卵とじ)

まず「煮びたし」を作り、そこに溶き卵をかけると綴煮の出来上がりです。

いろいろな具材で作りましたし、味付けも変えてみましたが、煮びたしの味つけが一番しっくりいって、卵をかけたときに味のバランスが良かったのです。

煮びたしの味付けはだし汁:醤油:みりん=8:1:1
(または、だし汁:八方地=4:1)


*八方地については、noteの「味を見る・味を探す」土台料理・八方地をご覧ください。八方地は日本料理の基本です。覚えておくと料理するときに迷うことがなくて便利です。

綴煮を作るときには、私は耐熱性の平鍋を使います。熱々の土鍋を食卓に置くと、いつもの卵とじがスペインのタパス料理みたいになって、粋な一品になるところが気に入っています。
スペインのテラコッタ(カスエラなど)、平土鍋、鉄製スキレットなど、安価で買えるものもあるようです。
鍋のサイズはどのくらい作るかによって変わりますが、我が家は2人なので、直径15.5cm、高さ3cmの土鍋を使っています。

食材はその日によっていつも違います。
基本は旬の野菜+油揚げ。野菜室の隅っこにある半端野菜もよく使います。
私は肉、魚を使いませんが、そのへんはお好きなように。


綴煮の作り方

材料(2人分)
食材 2〜3種類
油揚げ 1枚
だし汁 120ml
醤油 大さじ1
みりん 大さじ1
(だし汁:醤油:みりん=8:1:1)
卵 2個

今回の綴煮の具材
春の春菊
椎茸
油揚げ
  1. 土鍋(耐熱皿)に具材を入れる。*具材の量は鍋のサイズによるが、水分量(上のレシピであれば150ml)のだいたい2倍ぐらいのかさの具材を入れる。

  2. だし汁(カツオと昆布のだし)、醤油、みりんを入れて火にかける。

  3. 沸騰したら弱火にして食材に火が通るまで煮る(↓下の画像は沸騰して弱火にしたところ。かさが減ってくるので、必要に応じて具材を足しても)。

  4. 卵を溶く。このとき白身が残るぐらい軽く溶く。こうすると卵がふんわりやわらかく仕上がる。

  5. 卵の半量を回しかける。

  6. 卵が固まってきたら残りの半量を入れ、半熟ぐらいになるまで火を通す。

平鍋でクツクツ具材を煮て、
卵をかければできあがり。

葉物全般、キノコ、玉ねぎなど、具材をそのまま土鍋に入れ、数分煮ればOK。具材によっては事前に焼く、蒸すなどしてやわらかくすることもありますが、まずは数分で火が通る具材を選んでみてください。

ではもうひとつ、綴煮をご紹介します。

揚げ豆腐の綴煮
厚揚げを使いますが、おいしい厚揚げが手に入らないときは、自分で揚げています。
こんな手間はあまりやらないかもしれませんね…。けれど家で揚げた豆腐ほどおいしいものはなく、生姜醤油とか、大根おろしで食べると最高です。それを綴煮にするとなると、それこそ「ごちそう」になります。
通常、豆腐屋さんで厚揚げを作る場合は2度揚げしますが、家庭では1回素揚げするだけで十分おいしいのです。

揚げ豆腐の作り方を記しておきます。

揚げ豆腐の作り方
1. 木綿豆腐1丁を半分または十字に4等分にし、ふきんに包んで1時間ほど置く。*ふんわり仕上げたいので、重しはしない。
2. 200度の油で素揚げする。こんがり色になったら取り出す。

綴煮の作り方は同じ。揚げた豆腐をカットし、平土鍋に入れ、八方だしで数分煮たら卵でとじます。

綴煮は食卓が華やぐ小料理です。


私が提唱している「素描料理」というのは、つまりはシンプルに考え、シンプルに料理するということです。誰でも作れ、そして自分だけの料理になるのがこの料理法です。まず「土台レシピ」を覚え、そこから創作しながら広げていきます。スタートは無難な食材を使い、そこから自由に料理を広げていってください。

温かい湯気を食卓へ


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