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パリ五輪の前日譚 日本-イタリアの男子ネーションズリーグを振り返る

 前回はパリ五輪男子、日本対イタリアのMatch Reportとして、サーブミスとサーブから始まるラリーの得点に注目してデータを見てきました。

 簡単に結果をまとめると、以下のような内容になります。
  ・日本のサーブミスはそこまで多いわけではない。
 ・イタリアはレセプションから始まるラリーでの得点率(サイドアウト率)は高い。
 ・日本はイタリア戦のサーブから始まるラリーで、サービスエース以外の得点が少ない。
 
 この試合の終了直後には、“サーブミス”がSNSでトレンド入りするなど、ミスがクローズアップされましたが、データを見るとイタリアの地力というか、サーブで崩せない強さが見えてきました。
 
 さて、今回はこのパリ五輪の前日譚として、ネーションズリーグ(VNL)での日本対イタリア戦のデータを確認してみたいと思います。2021年以降、ネーションズリーグ(VNL)では以下の表1に示すように5回の対戦があります。

 5回の対戦中3勝はしていますが、どれもフルセットでの勝利で、対戦すれば簡単にはいかない組み合わせであることがわかります。特に、2024年はパリ五輪の直前の成績であり、ここでの対戦のイメージは五輪にもいくらかは持ち越されていたと思います。
 
 今回は、このネーションズリーグ(VNL)での対戦について、前回と同じ観点から分析をしてみたいと思います。

日本のサーブミス

 最初に確認するのは日本のサーブミスです。そもそも日本チームがサーブミスの多いチームだったのかということを確認しておきたいと思います。
 
 以下の図1には、試合ごとの各チームのサービスエース率(Point%)とミス率(Error%)のデータを示します。

 縦の軸がサービスエース率(Point%)、横の軸がミス率(Error%)になります。
 
 薄い青の●が2021年から2024年までのネーションズリーグ(VNL)のデータを表します。青い●がパリ五輪のデータを表します。パリ五輪の●がネーションズリーグ(VNL)の●に包含されているので、2つの大会間に大きな違いはないといえます。
 
 赤の◆がパリ五輪の日本対イタリアのデータで、他の◆が表1に示したネーションズリーグ(VNL)のデータになります。勝った試合の◆には赤い丸をつけています。
 
 勝った試合は2021年を除きサービスエース率(Point%)が高いことがわかります。

イタリアのサイドアウト率

 次は、イタリア側のサイドアウト率を確認してみたいと思います。サイドアウト率とは、レセプションから始まるラリーでの得点率になります。パリ五輪のイタリア戦で感じた日本のサーブ時の攻め手の無さが、イタリアのサイドアウト率の高さに現れているのではないかと考え検証したのですが、今回はネーションズリーグ(VNL)のイタリアのサイドアウト率の分布を確認してみたいと思います。
 
 サイドアウト率(Sideout%)の性質上、勝ったセットでは高く、負けたセットでは低くなりがちです。そこで、勝ったセットと負けたセットで別々にサイドアウト率(Sideout%)の分布を集計しました。以下の図2-1(敗)と図2-2(勝)にデータを示します。

 図中のグレーの破線が2021年から2024年までのネーションズリーグ(VNL)全体のアウト率(Sideout%)の分布になります。
 
 図2-1の負けたセットの分布です。2024年の分布は破線の右側に分布があることがわかります。これはイタリアが負けたセットでもサイドアウト率(Sideout%)が高いことを意味しています。図2-2の勝ったセットでも2024年のイタリアでは同様の傾向を確認できます。つまり、2024年のイタリアは、レセプションから始まるラリーでの得点率が高い、日本から見ればサーブから始まるラリーでの得点が難しいチームであるといえます。

日本のサーブから始まるラリーでの得点

 最後に、日本の日本のサーブから始まるラリーでの得点を確認してみたいと思います。表1に示した日本対イタリア戦のうち、2023年のMatch No.87の試合には、データ元にサーブから始まるラリーでの得点データが無かったので、残りの4試合を対象に、サービスエースによる得点(Break:SERVE_Point)、その他の得点(Break:Other)、サーブミスによる失点(VS_Sideout: SERVE_Errors)、その他の失点(VS_Sideout: Other)の4種に分けて集計しました。データを以下の図3に示します。

 セットごとに集計をしています。黒い枠線のあるセットは日本がセットを落としたケースになります。

 黒枠の無いセットに注目すると、オレンジの部分が長いことが分かります。これはサーブから始まるラリーで、サービスエース以外の方法で得点したケースになります。

まとめ

 結果をまとめると、まず、ネーションズリーグ(VNL)で日本がイタリアに勝った試合では、サービスエース率(Point%)が高いことがわかりました。これは成功体験として日本側に蓄積され、パリ五輪でもサービスエースが欲しいという気持ちが出てくるということは十分に想像できます。サービスエースが欲しくない人はいないとは思いますが、サービスエースを狙うことにはリスクも伴い、それが悪い方向に転ぶ可能性もあるということです。
 
 次に、イタリア、特に2024年のイタリアはレセプションから始まるラリーに強いことがわかりました。日本からしてみればサーブで崩すのが難しい相手ということになります。また、図3を見ると、セット単位で勝ったケースを見ると、サーブから始まるラリーで、サービスエース以外の方法で得点したケースが多いこともわかりました。
 
 こうした傾向から、日本対イタリア戦をどう戦うかを考えるに、サーブで崩すのが難しいのだから、強いサーブでサービスエースを狙うというのも1つの作戦だと思います。ただし、当然リスクは伴います。

 一方で、図3の勝ったセットで見たような、サービスエース以外の方法で得点を狙うというのも1つの作戦かと思います。
 
 こちらは確実なようでいて、一朝一夕にできるようなことではないのでしょう。そもそも、サービスエース以外の得点方法とは何かも現時点では明確ではありません。しかし、これを日本の課題として共有して成長を目指す目標とすることは、「ミスをしないように気をつけようね」というよりずっと建設的ではないかと思います。

 パリ五輪の前日譚となるデータでしたが、これを見ることでパリ五輪の試合に深みが産まれれば幸いです。

タイトル画像:いらすとや


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