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夢を追うあの人の

一緒にとった昼休憩で、お弁当を食べながらその人は言った。


結婚して子どもができて、そういうフェーズに入ってる友達の話とか、ひとつの職場に何十年もいられることとか、そういうことが自分には全然面白いと思えなくて。


30歳でこんなこと言ってるのほんとにやばいと思う、って彼女は言った。



舞台の世界を目指してカナダに渡ったこと、
コロナで養成所もオーディションも閉まってしまったこと、
派遣で働いてる今も、歌って踊ることが頭を離れないこと。

思い通りにならなかったいろんな経緯をへて、彼女はたしかに悩んでいる。



けれど、そんなことを言いながらその眉はまっすぐで、口角だって上がっていて、

考えてもしょうがないことを笑って放棄しちゃう奔放さが、何よりもまぶしかった。






あきらめられない夢をどうしようもなく追いかけている人の言葉は、理屈が通ってなくてもするする入ってくる。


向かいに座っていた私は、わりとひとつの職場でずっとやっていけそうなタイプで、
結婚には関心があって、明確な夢はないから、
彼女とは正反対だったけれど、

眉輝きレディの話をきくのはほんとうに楽しかった。


英語もそこそこにカナダまで行った跳躍力、

日本にもどって現実的な生き方との板ばさみに葛藤する人間らしさ、

それでも結局、世間の基準を取りこみきれないまま自分が惹かれるものを抱えている彼女の、


他人を攻撃する気のない、まったく素直な気持ちを聞いていたあの時間はすごくよかったなと思う。



彼女といた1時間、私は異空間に飛んでいた気分で、

私が海外に憧れてたのは、こんな思想と素直さと、くったくのなさに触れたかったからだったなと、わかくてあおい自分の気持ちを思い出してしまった。




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