【アルバムレビュー】ラブリーサマーちゃん『THE THIRD SUMMER OF LOVE』 -良い曲・良い音・良い演奏…音楽のピュアな魅力が極まる超名盤
🟧THE THIRD SUMMER OF LOVE
ラブリーサマーちゃんの現行最新アルバム “THE THIRD SUMMER OF LOVE” (通称 “3SOL”)の全曲について、一曲200〜300字程度の簡潔な感想に抑えることを目標とし、レビューを行う。
また、記事の最後には「好きな歌詞ランキングBEST10」を掲載している。素晴らしい歌詞の数々もこのアルバムの大きな魅力の一つなので、10個に絞るのは相当苦労した。そちらもぜひ併せて読んでもらいたい。
🟧全曲レビュー
1. AH!
完璧な一曲目。リズミカルなハイハットと絶妙なシャリ感のあるスネアが有無を言わさず踊らせてくる、最高にロックでダンサブルなナンバー。何かを予感させるようなベースから始まるイントロはワクワク感が満点で、ライブの一曲目としても最高に盛り上がる。楽しすぎるリフがリードするキュートなメロディと鮮烈なバウンドサウンドの融合により、胸キュン度はレベルMAX。個人的にはBメロの高いところで鳴っているギターのキラキラ感がお気に入り。また、歌詞についてはセルフライナーノーツが公開されており、背景を知るともっと好きになること請け合いなのでぜひ読んでみてほしい。
2. More Light
曲名は “Right” ではなく “Light”。それぞれが自分の正しさをぶつけて傷つけ合う ”More Right!” 的な現代社会に対する警鐘と、もっと思いやりやユーモアを持った方が世界が明るく保たれる(“More Light”) んじゃないのかという願いようなものが感じられる曲。
“AH!” に引き続きこちらも踊り出さずにはいられないような曲で、ワウの効きまくったギターサウンドが心も体も揺らしてくる、特にBメロの怒涛のグワングワン感は必聴。
こういったある種社会風刺的な内容の曲も、形だけのメッセージ性や押し付けがましさがなく、アーティスト本人の想いを歌っているんだなと伝わる血の通った歌詞であるところが、ラブリーサマーちゃんの魅力の一つだと思う。
3. 心ない人
こちらは軽やかな前2曲とは打って変わって、スロウでとにかく重厚なナンバー。肚の底まで響くような物凄い密度のギターはぜひ爆音で聴いてみてほしい。この轟音で、鳴らすメロディはあくまでポップなのが本作らしさ、ラブリーサマーちゃんらしさと言えるかもしれない。このバンドサウンドの嵐の中で、3本のテイクを重ねたというボーカルが、この暴風に負けないような力強さと独特の立体感を持って美しく響いている。
歌われている内容については、リアルな温度が感じられるのが特徴のラブリーサマーちゃんの詞の中でも際立って生っぽく、聴くタイミングによっては結構グサっと刺さってしまうかもしれないが、自分も他人も大切にしようと思い直せるような示唆的な歌詞で気に入っている。
4. I Told You A Lie
本アルバムで唯一、全編英語詞の曲。ラブリーサマーちゃんが旅行先のイギリスで着想を得て制作された曲で、共感できる人も多そうな、親に対してつい強がっちゃったときの身に染みるようなちょっぴり辛い歌詞なのだが、歌詞カードやMVに記載の日本語訳「お母さんごめん 今嘘つきました」がなんだか可愛くていつも笑ってしまう。旅行記的な映像が非常に楽しく可愛らしいのでMVも是非視聴をおすすめしたい。
イントロからエフェクト全開のギターが、独特な不安感をコミカルに演出している。このサウンドが本当にユニークで、コミカルさと気だるげな雰囲気と不安感とカッコ良さが絶妙に混じり合っている。コミカルなのにクールで、音としてはハイファイなのにどこかローファイっぽい、このバランス感覚に驚かされる一曲。
5. 豆台風
とにかくギターがかっこいい(全曲そうだけど)。特に余韻の美しさがたまらなく、イントロや間奏終わりやサビの最後のフレーズ直前のギターの余韻が、直後のボーカルにオーバラップするところが美しい。また、1サビではオーバーラップしたところからほとんど途切れず次のギターフレーズが続くのだが、2サビでは「それは確かで」の「たし」くらいのところで一度ドラムによって切れてアウトロに入るところが、変化がついていてカッコいい。
個人的なお気に入りポイントはサビの1パート目の後半の右側ギターで、音階が次第に上がっていくのがエモーショナルかつ美しい。
歌詞については、アーティストとリスナーの関係性が刹那的であることへの諦観と、そんな中で ”それでいい” と見出した光と真摯さが感じられる内容になっている。本曲も次の曲もリスナーへの想いが歌われた曲だが、そのアプローチが対照的というか、物語性を感じるような曲順になっているのが面白い。
6. LSC2000
イントロのドラムから名曲の予感が全開。ライブのラストで演奏されることも多く、ラブリーサマーちゃんのアンセムの一つと言える名曲。バンドサウンドとストリングスの融合が美しく、特にラスサビの展開は鳥肌もの。また、サビ終わりの踊るようなベースが非常にかっこいい。
歌詞は「豆台風」の項にも記載したとおり、リスナーへの想いが歌われている点で共通しているが、こちらはライブ中に感じたピュアな愛情についての内容になっている。諦観の垣間見える「豆台風」と、打って変わって双方向性の愛情を歌った"LSC2000" が並ぶこの曲順は物語性があって面白い(とはいえ、豆台風は悲観的な曲というではなく、刹那的であっても交わることの素晴らしさと、その中で真摯に音楽と向き合う姿勢が見える曲なので、あくまでそういう視点もありますという話だが)。
7. ミレニアム
春らしく爽やかなミドルテンポのナンバー。ラブリーサマーちゃんはこの曲について「静かに徐々に汗をかいていくようなイメージ」だと語っているが、まさにその通りのアレンジになっている。たとえば、1Aでは物静かなアルペジオが繰り返されていたところが、2Aでは爽やかに遊ぶ春の風のようなオブリに変化しており、自然かつ鮮やかに曲のテンションが上がっていくのが美しい。
優しくて、大袈裟じゃないのに自然と泣けてくるようなメロディの美しさもさることながら、サウンド的には本作で一番落ち着いているにも関わらず、展開力で魅せてくるこのような曲が中盤にあるところも、アルバムを通して聴く際に憎らしいポイントになっている。
8. アトレーユ
筆者の最も好きな曲の一つ。ピュアで臆病な恋心が瑞々しい表現で綴られた歌詞の美しさと可愛らしさ、大人っぽいレイジーさの漂うかっこいい歌唱表現と、好きな要素をあげ出したらキリがないが、なんといってもアウトロのツインリードが素晴らしい。歌うようにハモるギターはかっこよく美しくエモーショナルで、ライブでも思わず聴き入ってしまうハイライトシーンになっている。「イントロ→A→B→サビ→ソロ→C→D→サビ→アウトロ」といった感じの展開で、ソロからのラスサビにかけて怒涛の盛り上がりを見せるが、その後にさらに最大級の見せ場が待ち構えているのが豪華すぎる。ちなみに、Dメロ(?)はベースの音色がとても目立っており、特に「いるんだろうか 来るんだろうか」のフレーズが泣ける。
9. サンタクロースにお願い
恋も家族も出てこないクリスマスソング。クリスマスソングというか、曲名通りサンタクロースの歌という感じで、おそらくこの曲でいうサンタクロースとは、自分の心からの願いや、それを叶えてくれる存在を隠喩している.それゆえに、クリスマス以外の時期に聴いても響く普遍的なメッセージがこの曲にはある。
とは言えサウンドには冬を思わせる重厚さや煌めきがあり、クリスマスの時期に聴くと最大限に魅力を感じられる。う〜んでもいつ聴いてもかっこいいんだよな・・・。ゴリゴリのロックバラードで、特にラスサビ前のギターソロは圧巻の迫力(このソロはドラムも最高にかっこいいので注目してほしい)。
10. どうしたいの?
ヴィンテージライクなざらついた音像が魅力的な、サウンドメイキングへの強いこだわりが感じられる一曲。ドラムの響き方・歪み方が独特で、それがこの曲のサウンドのローファイっぽさを演出する重要な要素に感じる。イントロのギターが入る直前のシンバルなど、本当にガレージで録っているのかと思ってしまうほど。
イントロのギターリフがめちゃくちゃかっこよくミドルテンポ〜バラードが続いてしっとりしたところに、暴力的なかっこよさでぶん殴られるような曲が来るのが最高だ。また、個人的にはBメロのボーカルとギターのユニゾンがフェイバリットで、昔のテレビやラジオ音声のようなエフェクトの効いた歌声とギターの重なりが、ざらついているのに美しい。
歌詞については、ウジウジと思い悩んだり尻込みしている自分を引っ叩いてくれるような内容で、サウンド以外も最高にロックな曲になっている。
11. ヒーローズをうたって
アルバムのラスト(シークレットトラックを除く)を飾るのは、この上なく爽やかで優しい泣きのメロディが魅力的な「ヒーローズをうたって」。この軽やかさが余白によって作られるものではなく、音の密度はとても高い中でこれだけ爽やかな曲になっているのが凄い。サビのオブリが涙腺を刺激し、爽やかさというのは極まると涙を誘うものなんだなと教えてくれる。
ラブリーサマーちゃん本人の、共に生きてきた音楽への感動と愛が感じられる曲で、
という歌詞で歌われているのは、ラブサマちゃんにとってはデヴィッド・ボウイの “Heroes” だったり、他にもブリグリだったり今までの人生で愛好してきたさまざまな作品だったりするのだろうが、我々にとってはこの「ヒーローズをうたって」こそが特別な存在として人生を支えてくれる曲だと思えるような、音楽の素晴らしさを改めて実感できる名曲だ。
12. 分別 OR DIE
曲名がものすごい。シークレットトラックという文化…懐かしくてこれまた涙が出そうになる。「ヒーローズをうたって」が終わったあと、17分ほど沈黙が続いたのちに始まる隠しトラックで、アルバムの余韻に浸りながらぼーっとしているといきなりイントロが流れ出してめちゃくちゃビックリする(何回もやってるのに毎回のように声を出して驚いてしまう)。
内容については、シークレットトラックらしくここでは具体的には触れないでおきたい。が、本編とは全く毛色の異なる曲で、まさしくおまけと言った感じ…なのに曲としてのクオリティが高くて、多様なジャンルの曲を作るメロディセンスと妥協のなさに笑いながら感動するような曲になっている。
昔のゲームの攻略本のようなことを言うが、この曲についてはアルバムを通しで聴いて自らの耳で確かめてもらいたい。
🟧まとめ
以上、ラブリーサマーちゃんの3rd フルアルバム、”THE THIRD SUMMER OF LOVE” について、全曲レビューをおこなった。
別途「好きな歌詞ランキングBest10」を本記事のおまけとして執筆したため、具体的な歌詞についてレビューではあまり触れていないが、どの曲もラブリーサマーちゃん、もとい今泉愛夏という人間の目に世界がどういうふうに映っているかが垣間見える、一人の人間が息づいた素晴らしい歌詞だと思う。
ラブリーサマーちゃんの作品群の中での立ち位置で言えば、1st 「ラブリーミュージック」や 2nd “LSC” は、一枚の中にさまざまなジャンルの曲が収録されたバリエーション豊かなアルバムという印象だったのに対し、本作はロック、それもとりわけUKのエッセンスが感じられる曲で構成されたアルバムになっており、パッと見では前2作と比べてグッと焦点を絞った作品に感じられる。しかし、通しでじっくり聴いてみると、根っこの部分はロックという同じ大地に根ざしていても、その花の咲かせ方は実に多様であることがわかる。例えば、「心ない人」と「ヒーローズをうたって」なんて、同じ人が同じアルバムに書いた曲とは一見して思えないほどテイストが違う。しかし、そのどちらも、ロックな音像とポップなメロディが融合した、ラブサマちゃんがこれまで愛した音楽が「リファレンス」ではなく膨大で骨太な「バックグラウンド」として礎にあることが感じられる、良質な楽曲であることは共通している。
グッドメロディ・グッドサウンドという、音楽を魅力的なものにするための、シンプルながら最も難しいであろう要素を、このアルバムはしっかりと保持している。そんな本作は聴くシーンを選ばない名盤だが、特に「かっこいい音楽を聴きたい」というシンプルな願望を抱いた時に、真っ先に手に取ってみてほしい。気持ちよく鳴るギターの音色は、「やっぱりロックってかっこよくて最高だな」という音楽へのシンプルな愛情を改めて、いや今まで以上に新鮮に感じさせてくれるはずだ。
🟧おまけ:好きな歌詞ランキングBEST10
最後に、苦慮に苦慮を重ねて選定した好きな歌詞ランキングBEST10を発表して本記事の締めとしたい。
第10位
第9位
第8位
第7位
第6位
第5位
第4位
文字数が増えすぎてもよくないので、第4位までは一気に駆け抜けた。ラブリーサマーちゃんの歌詞には、「優しい卑屈さ」というか、周りに期待しすぎていないけど、諦めているわけではなくありのままそこにあるものを認めるような自然な愛情があるように感じられて、私はそれを気に入っている。第4位の歌詞なんてまさしくそれで、自分にも人にもこうありたいなと思うばかりだ。また、第8位の男女をオクターブに重ねて表現した歌詞のように、比喩表現や言葉選びが鮮やかな歌詞も多く、文学的にも美しいなと思わされるものがたくさんある。順位については流動的で、その日の気分とか体調に左右されるくらい好き度が均衡しているが、今日のところはこんなランキングになった。
ではここからは、いよいよBEST3を発表したい。
第3位
第3位には、アルバムのラストを飾る「ヒーローズをうたって」から、音楽への愛や感謝が伝わってくるこのフレーズがランクインした。
第4位までは、言葉選びの美しさや、ラブリーサマーちゃんの物事の見方から気付きをもらって励まされるような内容のものが多くランクインしていたが、この歌詞を好きな理由は単純にめちゃくちゃ共感できるところだ。共感できるとはいえ自発的にこんな強い言葉を思い浮かべたことはなく、改めて言葉にしてもらうことで更に音楽が愛おしいものに思えてきて、自分ではハッキリ言語化していなかった気持ちを形にしてもらった嬉しさ・カタルシスがある。また、人生を導いてくれる名曲を創り出す立場であるアーティスト自身がこれを言い切ってくれるところにもグッとくる。音楽の持つ魅力を力強く再確認させてくれる、美しい歌詞だ。
第2位
第2位には、私の最も好きな曲の一つである「アトレーユ」から、1Aの歌詞が丸ごとランクインした。
この歌詞はとにかく瑞々しさが凄い。好きとか愛とかそういう言葉は全く使われていないが、この歌詞からはまさに「ピクセル細かく」鮮烈なまでの愛情が伝わってくる。このフレーズについては、「この歌詞をこう解釈して、自分はこういうことを思った」ということはなく、いつもただただ表現の瑞々しさに胸を打たれている。確かに誰かや何かを本気で好きになった時ってこうなるよなとは思うが、こんなにもストレートかつ鮮やかに言葉にされると、どんなふうに世界が見えていて、どんな心でその世界を言語化しているのか、その瞳や胸の内を覗いてみたくなる。
第1位
栄光の第1位には、ギターがとにかくかっこいい「豆台風」から、日常生活の中でも思い出すシーンの多いこの歌詞が輝いた。
私はこの歌詞について、音楽をやることや自分の作る楽曲に意義や価値を見いだせなくなったラブリーサマーちゃんが、『副次的な価値を外部に見出せなくても、そこに自分の音楽があるだけで良いんだ。リスナーとの交わりが仮に刹那的なものだったとしても、そこに生まれた「何か」は確かに存在したもので、それでいいんだ』と思えた瞬間を歌ったものだと(かなり勝手に)解釈している。空がこんなにも青く広がっているのには理由はなく、ただ青くそこに在るだけだが、空が意図しないところで私たちはそれを「美しい」と感じている。空は、価値や意義なんてものを創出するために青く輝いているわけでは恐らくないだろうが、そこに価値を見出す人はたくさんいる。ラブリーサマーちゃんの曲もまさにそうで、この「豆台風」もラブサマちゃんが自分の好きな曲を作っただけであり他の誰かのために書いたものではないのだろうが、それでも私の心は勝手に救われているし、これからもずっと大切に聴いていこうと思っている。この歌詞を聴くたびに、人間もそうなのだろうなと思う。無理に自分の存在に何か意義や価値を見出そうとしなくても、自然とそこに生まれる何かがきっとある。何かをする理由や、自分という人間の意義・存在価値に迷ってしまうような時、肩に入った力をスッと解いてくれるような優しさがこの歌詞にはある。
まとめ
"THE THIRD SUMMER OF LOVE" 収録曲の好きな歌詞ランキングBEST10を発表した。この記事内でも何度か言及しているが、ラブリーサマーちゃんの歌詞の特徴として、アーティスト自身の個人的な体験や日常の中で抱いた感情が、リアルな温度をもって伝わってくる点があると思う。歌詞の向こうにパーソナルな部分が見えてくるというか、人間が書いているんだな、という感じがすごくするのだ。この特徴は長所と短所が表裏一体で、パーソナルな部分が表れているということは、もし本人の人柄が良くなければ歌詞としても嫌なものになってしまうのだろうと思うが、ラブリーサマーちゃんの場合は歌詞を通して本人の善性や、優しさゆえの脆さ、物事に真摯に向き合う時の芯の強さみたいなところが伝わってきて魅力的に感じる。
また、自然で取り繕ったところのない歌詞ながら決して言葉選びがシンプルというわけではなく、響きとしても美しく、意味としても「よくこの言葉を選んだなあ」と唸ってしまうものが多いのも特徴だ。文学的にも美しい歌詞だが、それでいて気取った様子はなく、押し付けがましくない優しさで心に寄り添ってくれる、人生で永く隣にいてくれる友人のような歌詞が本作には溢れている。
キリよくBEST10にしたため苦渋の決断で選外になっただけで、他にも紹介したいお気に入りの歌詞が本作にはたくさんある。歌詞カードの装丁もおしゃれで可愛いため、可能であればCDを買って、歌詞カードを見ながら聴くことをおすすめしたい。きっとこのランキングに入っていない歌詞の中にも、あなたの琴線に触れるものがたくさんあるはずだ。
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