【歌詞和訳】Death Cab for Cutie / 『Marching Bands of Manhattan』 -悲しみに飲み込まれないように抗う、純朴な優しさの行進曲
◆Death Cab for Cutie と 『Marching Bands of Manhattan』
以前に『What Sarah Said』の歌詞を和訳した時にも紹介したが、Death Cab for Cutie はアメリカを代表するインディーロック・バンドであり、彼らの5thアルバムである『PLANS』は、究極のベーシックとも言えるような極上のサウンドと、ポップセンスを備えながらも繊細で抒情的なメロディを味わえる傑作中の傑作だ。そんな名盤の1曲目を飾るのが、本記事で和訳する『Marching Bands of Manhattan』である。
パイプオルガンのような神秘的な音色のイントロと、ベン・ギバートの儚げで優しい歌声により静かに幕を開けるこの曲は、進行とともに音数が増え、リズムもタイトになっていき、切迫感のある歌詞のサビがリフレインしてグッとテンションがかかったところで、水面に落ちて波紋を広げるひと雫のようなピアノの一音で終わる。突然響くピアノの音色によって目を覚まされることで、知らず知らずのうちに世界観に引き込まれていたことに気づく、聴くたびにその圧倒的な展開力に驚かされる一曲だ。
◆歌詞和訳
If I could open my arms
And span the length of the isle of Manhattan
I'd bring it to where you are
Making a lake of the East River and Hudson
もし僕がマンハッタンの端から端まで届くぐらいに
大きく手を広げられたなら
イースト川とハドソン川を繋げて湖を作り
君の元へと届けてあげるのに
If I could open my mouth
Wide enough for a marching band to march out
They would make your name sing
And bend through alleys and bounce off all the buildings
もし僕がマーチングバンドが行進できるくらいに
大きく口を開けられたなら
彼らの演奏に乗って君の名前は歌い出すだろう
その歌声はマンハッタン中の路地を通って広がり
摩天楼の全てに反射して響き渡るはずだ
I wish we could open our eyes
To see in all directions at the same time
Oh what a beautiful view
If you were never aware of what was around you
みんな目を開きさえすれば
全ての方向を同時に見ることができるのならいいのに
もし自分の周りにあるものに全く気付かずにいられたら
世界はなんて素敵に映るだろうね
And it is true what you said
That I live like a hermit in my own head
But when the sun shines again
I'll pull the curtains and blinds to let the light in
僕が自分の頭の中だけで生きる世捨て人みたいだと君は言った
確かにそれは正しいんだろう
だけど太陽がまた輝き出したら
その時にはカーテンもブラインドも開けて光を取り込もうと思っているんだ
Sorrow drips into your heart through a pin hole
Just like a faucet that leaks and there is comfort in the sound
But while you debate half empty and half full
It slowly rises, your love is gonna drown
Your love is gonna drown
壊れて水漏れする蛇口のように
悲しみの雫が小さな穴から染み出して心に落ちる
その水音にはどこか心地良さを覚える
だけど、今がまだ半分は空いている状態なのか
それとも既に半分も満たされてしまった状態なのか
そんなことを議論していたら
そのうちにだんだんと水嵩が増えていき
愛は溺れていってしまうんだ
愛は溺れていってしまうんだ
◆まとめ
人は生きていれば悲しみを避けては通れないものである。それは必ずしも激しく襲ってくるわけではなく、静かに心に垂れ落ちていたひと雫ひと雫が、知らず知らずのうちに足元を浸していたり、さらに放っておけばいつしか息もできない深さになってしまうこともある。そうして誰かの心に溜まっていく悲しみを消してあげることはできないかもしれないが、大切な人がそれに沈んでしまいそうな時に、いっぱいになりつつある器の代わりに湖を作ってあげられたらと思ったり、水音の心地よさに耳を奪われているうちに悲しみに溺れてしまわないよう高らかに名前を歌ってあげられたらと考えたり、どうにかしてその相手を救いたいと願うことはできる。
このアルバムの歌詞世界には「願い」というニュアンスが共通して根底に流れているように感じる。願うだけでは救われないと思う人もいるだろうが、誰かが自分の悲しみが軽くなるよう願ってくれていると知れば救われることもあるだろうし、誰にも伝わらないとしても、強く心に願うことそれ自体が世界に対して何らかの意味を持つと個人的には思う。この曲は、誰しもが何となくでも心に持っている悲しみに光を当て、それにどうにか寄り添おうとする、純朴な優しさを備えた願いの歌だと感じる。
さて、Death Cab for Cutie は、2025年1月4日・5日に初開催される新たな音楽フェス、『rockin’on sonic』に出演することが決定している。この曲を演奏するかどうかはともかく、5年半ぶりの来日となる彼らのパフォーマンスは必見だし、同日には WEEZER や Manic Street Preachers、前日4日にも PULP や Jimmy Eat World などの魅力的なバンドが一堂に会する貴重なイベントであるため、洋楽ファンはもちろん、洋楽に興味はあるもののどこから手を出していいのかわからないリスナーも要チェックだ。