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【歌詞和訳】Teenage Fanclub『Sparky's Dream』 -瑞々しい恋心が切なく弾ける、ピュアなメロディと美しいハーモニー

◆Teenage Fanclub

 スコットランド・グラスゴー出身のギター・ポップ・バンド、"Teenage Fanclub"(以下 "TFC" )。1989年の結成から34年が経過した今もその作品の数々は少しだって色褪せていない、言わずと知れたレジェンド・バンドだ。彼らの特徴は、3人のソングライター(うち一人は2018年脱退)が生み出す普遍的でポップなメロディと、それを奏でる美しいハーモニー。サウンド的には、初期のざらついて歪んだノイジーなギターサウンドから、”Songs From Northern Britain" 以降に見られる爽やかなバンド・アンサンブルまで、時代と共に変化しているが、「やっぱりギターってかっこいいな」と思える音作りはどの時代のアルバムを聴いても共通している。

 同年代のUKロックシーンをリードしたバンドと聴き比べると、TFCの音楽はどこか落ち着いていて、穏やかな雰囲気がある。サウンド的に退屈なわけでは決してなく、練りに練られたリズムやハーモニーとしっかりとした音の厚みがある中で、しかしどこか肩肘張らないムードが彼らの音楽の中には流れている。そして、その柔らかな雰囲気で自然と心の扉が開いたところに、どこまでもエヴァーグリーンでピュアなメロディがまっすぐに届いて来る。我ながらこんなシンプルな紹介でいいのかと思いつつ彼らを一言で紹介するならば、やはり「とにかく良い曲を演奏するバンド」ということになる。


◆Sparky's Dream

 今回歌詞を和訳する "Sparky's Dream" は、彼らの4thアルバムである "Grand Prix" に収録されている、TFCらしい甘いメロディと美しいハーモニーが魅力の一曲だ。ベースのジェラルド・ラヴが作曲を手がけており、甘く優しいメロディに青さと煌めきを添えてくれるギター・リフの秀逸さが際立っている。また、サビのコーラスの美しさはTFCの楽曲群の中でも随一だ。
 余談だが、"Grand Prix" は私の生まれる2日前に発売されたアルバムで、この作品を好きになったことに少しばかり運命的な導きを感じるとともに、30年近く経ちながらも鮮やかに彩りを放ち続けるそのエヴァーグリーンさに驚かされる。


◆歌詞和訳

If she lived in space, man
なあ、もし彼女が宇宙に住んでるとしたら
I'd build a plane
俺は飛行機を作るよ
Out of luck so beam me up
もう運も尽きたし、ここからワープさせてくれないか
To hear her talking again
また彼女の話が聞きたいんだ

She painted pictures
彼女は絵を描いた
That never dried
決して乾いてしまうことのない絵を
Always tried to keep the feeling alive
いつもこの気持ちを失くさないようにしている

Need a crystal ball to see her in the morning
水晶玉が必要だって思う、毎朝彼女を見ることができるように
And magic eyes to read between the lines.
それと魔法の目も必要だな、彼女の気持ちを知るために
I take a wrong direction
俺は間違ったほうに進んでしまう
From a shooting star
星が流れていくのとは違う方向に
In the love dimension
愛の次元の中で
Fading fast from taking this too far
流れ星はあっという間に消えてしまうから

That summer feeling is gonna fly
この夏の気持ちも消え去ってしまうんだろう
Always try and keep the feeling inside
いつも心に留めておこうとしているんだけど

Need a crystal ball to see her in the morning
水晶玉が必要だって思う、毎朝彼女を見ることができるように
And magic eyes to read between the lines.
それと魔法の目も必要だな、彼女の気持ちを知るために
I take a wrong direction
俺はいつも間違ったほうに進んでしまう
From a shooting star
星が流れていくのとは違う方向に
In the love dimension
愛の次元の中で
Fading fast from taking this too far
流れ星はあっという間に消えてしまうから

Need a magic ball to see her in the morning
魔法の球が必要なんだ、毎朝彼女を見ることができるように
And crystal eyes to read between the lines
それと水晶の瞳も必要だ、彼女の気持ちを知るために
Need a magic ball to see her in the morning
魔法の球が必要なんだ、毎朝彼女を見ることができるように
And crystal eyes to read between the lines
それと水晶の瞳も必要だ、彼女の気持ちを知るために

◆まとめ

 以上、Teenage Fanclub の "Sparky's Dream" を和訳した。サビに登場する「水晶玉」は、"need a crystal ball" が「先のことは予見できない」という意味で使われるように、占いなどで使用する際の超自然的なアイテムとしての意味合いで歌われている。他にも「魔法の目」や「流れ星」など、曲名の "Dream" から連想されるような単語が多く登場するが、そのファンタジックな歌詞世界が、想い人と離れてしまった「現実」の切なさを逆に強調しているように感じる。遠く離れた好きな人を想いながら「水晶玉があったらなあ」と考える・・・なんと瑞々しくて切ない恋心だろうか。

 サビ後半のフレーズ、特に "taking this too far" の訳出はとても迷った。まず、"Take it too far" で「無理しすぎる」「〇〇をし過ぎる」などといった意味のイディオムになるが、"fade" の主語が何で、"this" が一体何を意味するのかという問題にぶち当たる。まず、後半4フレーズをひとまとまりだと考え、

I take a wrong direction from a shooting star (that is) fading fast from taking this too far in the love dimension.

という文章に並び替えて訳してみることにした。
 この場合、"taking this too far" は、何か(fade の主語)が愛の次元で早く消える条件(taking this too far すると何かが早く消える)になるが、何をし過ぎると何が消えてしまうのか・・・。主語を直前の「愛(の次元)」と捉えるならば、イディオムを原義通りに捉えて「無理をし過ぎると愛が消える」と訳すことができ、これなら意味も通るし、現実の恋愛でも然もありなんといったところだが、「流れ星と違う方向に行ってしまう」という部分とどうもしっくりこない感じがする。愛の次元では愛が消えるというのも、重複していて文章的に少し違和感がある。
 とくれば、主語は "shooting star" だと考えられる。その場合、同じ訳し方をすると「愛の次元では、無理し過ぎると流れ星は早く消える」となるが、無理にイディオム的に訳さず、"taking" はその前の "take a (wrong) direction" にかかっていると捉えた方が自然ではないだろうか。そういうわけで、"taking a direction from a shooting star too far" と捉え、「流れ星は、追いかけようとしたそばから遥か彼方へ消えてしまう」という意味だと解釈した。
 これで意味は通ったものの、なるべく英語詞の区切れ通りの日本語にしたい。この文章において、「流れ星は追いかけようとした側からすぐに消えてしまう」「だからいつも流れ星とは違う方向を選んでしまう」という意味に整理して、本文のような訳詞になった。

 ここで初めて、「流れ星」が何を表しているかという <英語→日本語> ではなく <日本語→日本語> の解釈をすることになる。とはいえ、この言葉は一つの意味にバシッとハマる類のものではなく、複数の意味に解釈できると思っている。
 まず一つには、"direction" という言葉と共に使われていることからも、「(恋愛における)正しい選択」のことだと解釈できる。愛の次元では、それを実らせるに至る正しい道のりを選択するのは難しいものだ。
 また、流れ星とは遠くに離れてしまった彼女自身のことだとも解釈できる。宇宙にいるのならば飛行機を作ってでも会いに行きたい、彼女の話を聞くためにワープさせてほしいと思うような相手なので、違う方向を選んで一瞬のうちに離れてしまった彼女を、それを見たくて夜空を見上げていても凄いスピードで消えてしまう流れ星になぞらえるのも納得できる。
 あるいは、”try to keep the feeling alive” "try and keep the feeling inside" という歌詞と組み合わせて考えて、「自分の恋心」のことを歌っているとも考えられないだろうか。彼女が残してくれた "picture"(これは実際の絵ではなく、心に残してくれた瑞々しいままの感情のことだろうと思う)や "Summer feeling" を必死に心に生き続けさせようとしているのは、人の気持ちというものが刹那的であるとわかっているからこそ、叶わなかった想いでも失ってしまうのが寂しいという気持ちは、一つの切実な愛情として理解できる。流れ星をそうした恋愛感情だと捉えれば、自分の素直な気持ちに従って行動することの難しさと、そうしなかったことへの後悔を歌っているとも解釈できる。
 いずれにしても、流れ星とは願いの象徴だ。上記の解釈のような意味合いを持つだけでなく、水晶玉や魔法の目と同様に、彼女を恋しく思う気持ちをシンボリックに表しているように感じる。

 宇宙船、ワープ("beam me up"、単に「照らしてくれ」という意味かとも思ったが、調べたところ "beam" にそういう用法はなく、SF作品の『スタートレック』から生まれた「転送してくれ」という意味の造語らしい)、水晶玉、魔法の目、流れ星、魔法の球、水晶の瞳と、数多く登場する空想的な言葉は、それらの存在を願ってでも相手を想ってしまう切実な愛情を示している。しかし言葉そのものや響きはキュートで、ピュアなメロディーと美しいハーモニー、どこかノスタルジーを感じさせるギターサウンドと組み合わさると、キラキラとした瑞々しい輝きを放つのが見事だ。
 曲名の "Sparky's Dream" の "Sparky" は、直訳すると「生き生きとした」や「電気屋」という意味になるが、曲全体の意味を考えれば、"spark"、あるいは "sparkle" のような意味だと捉えた方がいいだろう。TFCの奏でるキラキラと青く輝く夢は、それがたとえ閃光のように刹那的なものだとわかっていたとしても、それでも可能な限り長く心に留めたくなるような、切なくも優しい柔らかな光だ。

 収録アルバムの "Grand Prix" には、この曲と同じくジェラルド・ラヴが作曲した素晴らしい作品がたくさんラインナップしているので、気に入った方はぜひ通しで聞いてみてほしい。また、2024年の2〜3月には5年ぶりとなる来日公演が予定されている。7月から受け付けているにもかかわらず意外なことにチケットはまだ各プレイガイドで販売中のよう(2023年10月28日時点)なので、今ハマれば彼らのパフォーマンスを生で観られるチャンスもある。多くの人に自信を持って勧められる良い曲揃いのバンドなので、これを機にTFCの沼にどっぷりと浸かってくれれば嬉しい限りだ。


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