【歌詞和訳】The Wannadies『How Does It Feel?』 -理想と現実のギャップに対する葛藤を爽やかに歌い上げる強かさ
◆The Wannadies
The Wannadiesは、スウェーデン出身のギター・ポップバンド。1988年に活動を開始しており、同国の他バンドと比べると、日本でも有名なスウィディッシュ・ポップの代表格であるThe Cardigansの4年先輩、洗練されたサウンドと紅一点ジェニーの美しいボーカルが魅力的なCloudberry Jamの3年先輩、スウェーデン語詞での作詞スタイルを貫く国民的バンドであるkentの2年先輩にあたり、この時代に活躍したスウェーデンのロックバンドの中でも先駆け的な存在である。
The Wannadiesの魅力といえば、爽やかで親しみやすいエヴァーグリーンなメロディに、時に優しく時に激しく歪み奏でる力強いギターサウンド、ややハスキーで温かみのあるボーカル(とても主観的な感想だが、なんだか大型犬を思わせるキュートさがあると思う)、そして明るいメロディからすると意外なほど内省的で涙を誘う歌詞だ(要するに何もかもが良い)。
"Wannadies" というかなり刺激的なバンド名からは想像もつかないほどポップなメロディは、一度聴けば好きにならずにはいられないものばかりで、国境を超えて愛されるのも納得できる。
◆How Does It Feel?
今回歌詞を和訳する "How Does It Feel?" は、1994年にリリースされた彼らの3rdアルバム "Be a Girl" に収録されている。テンポは遅めで、ポップながら何処か涙を誘う普遍的なメロディが魅力的な一曲だ。
サビで繰り返されるコーラスが非常に印象的で、ラスサビの終わり、美しいハイトーンの歌声に歪んだギターがオーバーラップするところは鳥肌ものだ。これだけピュアなメロディを極厚のバウンドサウンドで奏でられると、リスナー側としてはもう白旗を上げるしかない。
歌詞については、報われない愛や望みへの葛藤を歌った内容だと解釈し、下記のように翻訳した。
◆歌詞和訳
So you think there's someone missing
君は誰かのことを恋しく思っているんだろう
Somebody to hug and kiss and then still be friends
ハグをして、キスだってしたのに、それでもまだ友達のままでいる誰かを
So you think there's more than singing
君は歌う以上のことがあるように感じているんだろう
Reading magazines about the scream
「叫び」についての雑誌を読むこと以上のことがあるように
I know what you mean
君の言いたいことはわかるよ
Now you know how it feels
それがどんな気分なのか君は知っているんだろう
Know how it feels
どんな気持ちかわかっているんだろう
And how does it feel?
一体どんな気分なんだ?
Now you know how it feels
それがどんな気分なのか君は知っているんだろう
Know how it feels
どんな気持ちかわかっているんだろう
And how does it feel?
一体どんな気分なんだ?
So you think you're someone special
君は自分が特別な人間だと思っているんだろう
Very glamourous, one of a kind
とても魅惑的で、唯一無二の存在で、
A brilliant mind
才気溢れる人間なんだって
So you find it disappointing
そして君はガッカリするんだろう
Realising what you won't achieve
自分にはできないことを悟って
I know what you mean
君の言いたいことはわかるよ
Now you know how it feels
それがどんな気分なのか君は知っているんだろう
Know how it feels
どんな気持ちかわかっているんだろう
And how does it feel?
一体どんな気分なんだ?
Now you know how it feels
それがどんな気分なのか君は知っているんだろう
Know how it feels
どんな気持ちかわかっているんだろう
And how does it feel?
一体どんな気分なんだ?
So you think there's something missing
君は何かを探しているように感じているんだろう
Something everlasting, somehow kind
永遠に続く、どこか優しくて
It's hard to find
見つけるのが難しい何かを
So you think you really miss her
だから君は彼女をとても恋しく思っているんだろう
The perfect girl to kiss and then, still be friends
キスをして、それでもまだ友達のままでいる、完璧な女の子のことを
Now you know how it feels
それがどんな気分なのか君は知っているんだろう
Know how it feels
どんな気持ちかわかっているんだろう
And how does it feel?
一体どんな気分なんだ?
Now you know how it feels
それがどんな気分なのか君は知っているんだろう
Know how it feels
どんな気持ちかわかっているんだろう
And how does it feel?
一体どんな気分なんだ?
◆まとめ
以上、The Wannadies の "How Does It Feel?" の歌詞を和訳した。曲中のYouは「君」と訳してはいるが、自己の内面とやり取りしているようなニュアンスだと思う。かといって「お前」としてしまうと曲のイメージと合わない気がするので、「君」と訳すことにした。
また、"magazines about the scream" は、定冠詞 "the" であることからも固有名詞なのだろうと思い、ムンクの有名な絵画である「叫び」についてのことだと解釈した。しかし、他にも同名のバンドが存在したり、"Scream" というホラー雑誌があるようで、今の訳し方がしっくりきているわけではないので、何かご存知の方がいればご教示いただけると大変ありがたい。
冒頭と最後に登場する "someone missing" あるいは "the perfect girl" について、主人公にとって既知の恋が叶わないでいる誰かなのか、それともまだ見ぬ完璧な女の子のことについて言っているのかは解釈の分かれるところだと思う。その分かれ目は "still be friends" をポジティブなこととして捉えるかどうかだと考えていて、「キスをしたけれども恋人になれない」と捉えれば前者に、「キスをしてしまっても、それでも友達でいられる」と捉えれば後者になると思うが、私は前者で解釈した。
その理由としては、まだ見ぬ理想の女の子を強く望んでいるというよりは、叶わないでいる恋に葛藤している方が曲全体のテーマに合っていると感じたのもあるし、「好きじゃなかったらキスはしないだろ・・・」という(もしかしたら現代的ではないのかもしれない)価値観を私が持っているからでもある。その彼女のことを、"everlasting" で "somehow kind" で "hard to find" だと感じているのだから相当な愛情だが、心から望む運命の相手ってそういうものではないだろうか。
いずれにしても、望んでいながら手に入らないもの、思い描いた自分でいられないこと、そういった理想と現実のギャップに対して、「今どういう気分なんだよ」とある種自嘲的な自問自答を繰り返すようなニュアンスで翻訳した。
ただ、単なる文章として読むのではなく曲としてこの歌詞を聴いた時、この "How does it feel?" というフレーズは単にネガティブな言葉としては響かない。「どういう気分だよ?」と自分を笑いながらも、それでも前を向くというか、明るく開き直らせてくれるような、あっけらかんとした優しさを私は感じる。
解釈は人それぞれだと思うが、理想と現実のギャップに喘ぐことは誰しもあるだろうし、それに対する葛藤に似た思いを優しいメロディにのせて高らかに歌い上げてくれるこの曲は、きっと多くの人が共感し、救われるものになっていると思う。
収録アルバムの "Be A Girl" は、彼らの代表曲である "You And Me Song" や "Might Be Stars" もラインナップされているので、入門用の一枚としてもオススメだ。どこまでもピュアでポップな泣けるメロディを、とびきりロックなサウンドで奏でる彼らの音楽は、世代や嗜好を問わず受け入れられるものだと思うので、是非一度聴いてみてほしい。