【偏愛アーティスト紹介】ラブリーサマーちゃん -可愛くてかっこいいピチピチロックギャルの魅力紹介&厳選曲レビュー
2023年9月8日、東京・鶯谷にて、ラブリーサマーちゃん単独ライブ 「ラブリーサマーソニック2023@東京キネマ倶楽部」 が開催された。
大阪の味園ユニバースと同様、元キャバレーの会場で行われた同ライブは、ラブリーサマーちゃんとバンドメンバーの魂震えるパフォーマンス、スタッフの皆さんのアツいサポート、そしてファンの皆さんの熱量により最高の盛り上がりを見せた。
同ライブの感想については既にとある形で文章にしたのだが(とは言えまたTumblrとかにも書くかもしれない)、一週間経ってもまだ興奮が冷めやらないため、ラブリーサマーちゃんについてその魅力を紹介するとともに、バラエティ溢れる楽曲群の中から今回はロックチューン4曲を厳選し、レビューを行う。
🟧ラブリーサマーちゃん
ラブリーサマーちゃんについて、公式サイトの文言を引用して一言で説明すると、「可愛くてかっこいいピチピチロックギャル」 である。一般的な肩書きで言えばシンガーソングライターと呼称するのが普通ではあるだろうが、ラブリーサマーちゃんは
と語っており、それが端的に伝わるキャッチコピーが「ピチピチロックギャル」だ。実際、その活動や生み出される音楽を聴いていると、これ以上にしっくりくる言葉はないように感じる。
その音楽性については、ラブサマちゃん本人が幅広い音楽に造詣が深いこともあり、ロックギャルと言いつつもそれに限らない様々な曲調の作品があるが、やはりラブリーサマーちゃんの作品群の中で筆者が最も好きなのはUKからの影響が色濃く見られる骨太なロックミュージックだ。ただし、ラブリーサマーちゃんの作るどのジャンルの曲にも共通する特徴として、多くのリスナーの耳に届きやすいポップさとキャッチーさがあることが挙げられる。どのジャンルでも親しみやすく、それでいて何度も聴いて深い味わいを感じる曲を作ることができるメロディセンスは、卓越したものがある。ラブリーサマーちゃんの曲はそのジャンルを掘り始めるきっかけにもなるし、堀って掘って帰ってきた時にやっぱりこの曲は良いと思えるような、わかりやすい魅力と深いところにある魅力を両立した音楽が魅力的だ。
🟧ラブリーサマーちゃんの好きなところ
本項では、筆者が思うラブリーサマーちゃんの好きなところについて、数ある中から3つ厳選して紹介する。
①ボーカリストとしての魅力
筆者の好きなラブリーサマーちゃんの要素の一つ目は、なんといってもボーカリストとしての魅力だ。先述の通り様々なジャンルの曲を作るラブリーサマーちゃんだが、どの曲でもぴったりハマる魅力的な声と表現力が素晴らしい。「ラブリーサマーちゃんのボーカルにおける好きな三要素」について、後ほど「LSC2000」という曲のレビューで詳しく触れるのでここでは割愛するが、小見出しで語るにはちょっと手に余るほどの魅力がある。
ソングライティングも当然非常に素晴らしいが、カバーソングもオリジナル以上に聴かせるのは、このボーカリストとしての魅力があってこそだと思う。
②歌えるギターソロを作るセンス
二つ目は作曲能力についてだが、その中でも「歌えるギターソロ」を作るセンスが凄い。ソロに限ったことではないのだが、ラブリーサマーちゃんの曲には、とにかく歌いたくなるギターフレーズが頻出する。ライブに行ってもカラオケに行っても、ラブリーサマーちゃん以上にギターまで全部歌いたくなるアーティストは存在しないと思う。今回のレビューでは紹介しないが、筆者は「アトレーユ」という曲のギターが特に大好きで、中でもアウトロのツインリードは音源でもライブでも圧巻のかっこよさなので、ぜひ聴いてみてほしい。
③人柄の見えてくる歌詞
三つ目は歌詞の素晴らしさについて。曲の向こうにラブリーサマーちゃんという 「人」 がとてもよく見えてくる歌詞になっているところが、筆者は特に素晴らしいと思っている。たとえば、現行最新アルバムである “THE THIRD SUMMER OF LOVE” でいえば、本人のイギリス旅行から着想を得た "I Told You A Lie” のような、いわば「ハーフフィクション・エッセイ」とでも言うべき個人的な体験が色濃く反映された曲から、昨今のSNSでの誹謗中傷やそれによりいがみ合ってしまっている世の中への想いがシニカルな歌詞の中に垣間見える ”More Light” のように、社会や他者への洞察が感じられる曲まで様々だが、どれも記号的な歌詞ではなく 「ラブリーサマーちゃんという個人」 が世界をどういうふうに見ているのかが感じられる歌詞になっている。それが、ラブリーサマーちゃんの音楽を単に聴覚情報として魅力的であるだけでなく、心によく響く音楽にさせている大きな理由の一つではないかと思っている。
🟧厳選曲レビュー
ここからは、そんなラブリーサマーちゃんの楽曲群から、原点とも言えるカッコいいロックチューン4曲を厳選し、筆者の偏愛ポイントを紹介していきたい。
🔸僕らなら
まず一曲目は、メジャーデビューアルバムである 「LSC」 に収録の 「僕らなら」 について紹介する。ボーナストラックを除けばアルバムの最後の曲にあたり、それに相応しい王道にして至高のロックバラードに仕上がっている。
コードストロークから始まるイントロは、既にこの時点でこれから始まるグッドメロディの予感をひしひしと感じさせるものであり、ライブでもこのギターが鳴ると会場がグッと引き締まると同時に期待感と高揚感で満ちるのが感じられる。ラブリーサマーちゃんの 「ヒーローズをうたって」 という楽曲の中に
という歌詞が登場し、これはラブサマちゃんが音楽を自分の人生における特別な存在であると確信した原体験について書いたフレーズだが、この 「僕らなら」 のイントロは、まさに誰かにとって音楽が素晴らしいものだと感じる原体験になるような、非常にかっこいいサウンドである。
(「ヒーローズをうたって」のエピソードについて、詳しくはアルバム 「THE THIRD SUMMER OF LOVE」 初回限定版特典のセルフライナーノーツを参照。購入者特典をオープンソースで話すのは良くないと思うので、これ以上の言及は差し控える。初回限定版CDにはコード譜、歌詞カード、セルフライナーノーツ、収録曲 「I Told You A Lie」 の下敷きにもなったUK旅行記 「Lovely In The U.K.」 が同梱されており、パッケージも非常にオシャレでグーなので購入を勧めたい。元々セルフライナーノーツってかなり好きなのだが、旅行記が単純に読み物として面白くてとても良かった)
歌詞の内容については、当初はメジャーデビューについてポジティブな印象を持っていなかったものの、当時のレーベルの担当ディレクターさんとの出会いを経て、
と思えるようになったラブリーサマーちゃんの、いわば決意表明のような曲である。
という歌詞からは、一人ではなく信頼できる人がいたからこそ抱けた強い決意を感じ、新しく一歩踏み出そうとする人が勇気を貰えるだけでなく、上記インタビューでも言われているように結婚ソングとしても素敵な曲になっている。中でも筆者が特に気に入っている歌詞は、
というフレーズである(絞れなくて2番のAB丸々引用してしまった)。この人となら必ず上手くいくという確信を持っているわけではなく、駄目になる可能性もある中で、それでも今ある日常から一歩踏み出すという決意が感じられる、非常に尊い輝きを放つ歌詞だと思う。
曲調は、最初にも書いた通りアルバムの最後に相応しいミドルテンポの壮大なメロディで、ライブでも終盤のここぞという時(例えばアンコール前ラストなど)に演奏されることが多く、それがぴったりハマるような泣けるド名曲だ。
がっぷり四つといった感じでドッシリと構えるリズム隊の上で左右のギターが叙情的に響き、これでもかと涙腺を刺激するサウンドに仕上がっている。1Aではシンプルでかっこいいコード弾きだったのが、2Aでは切なげなアルペジオに変化し、新しい道へと踏み出す際のエモーショナルさが曲の進行とともに加速していく点や、2サビ後に訪れるラブリーサマーちゃんの本領発揮ともいえる 「歌いたくなるギターソロ」 など、触れたいところは多くあるが、筆者の激推しポイントはBメロのギターだ。絶妙なタイミングでボーカルに寄り添うように鳴るギターが、歌詞も相まって、覚悟を持って一歩ずつ踏み出す自分と、その隣で一緒に進んでくれる人の足音のように聴こえて素晴らしい。
サビの上下するリフも根源的な感情を煽ってくるような切迫感のあるフレーズで、力強く進んでいく覚悟の強さが伝わってくる。
また、アウトロでギターの奥村大さんが魅せるギターソロは、ライブでのハイライトシーンの一つとも言えるほどカッコよく、これは是非会場に足を運んで生で体験して欲しい。鳥肌がおさまらなくなること請け合いだ。
グッドメロディをいい演奏に乗せて歌ってくれるのが1番まっすぐ心に届くんだなと、当たり前のようで忘れがちなことを再確認させてくれる、「誰が聴いてもカッコいいだろ?」 と真顔でオススメできる名曲である。
🔸ファミリア
続いて紹介するのは、EP 「人間の土地」 に収録されている 「ファミリア」 だ。
このファミリアは筆者が今1番ハマっている曲(1番好きな曲を選べと言われると物凄く悩むけど、その時々で1番よく聴く曲ってあるよね)で、ストライクゾーンど真ん中に火の玉ストレートでカッコいいものを投げ込んでくるような、「いや〜そんな球投げられたら降参ですよ」 といった感じの、これまたド名曲である。
「僕らなら」 で文字数を使いすぎたのでサクサク進行していきたいが、どうしても触れざるを得ないほどイントロがかっこいい。一音目からいきなり心臓を鷲掴みにするような始まり方で、Twitterでファンの方が 「シャッフルでファミリア流れ始めてイントロ聴いた瞬間に伝説始まったのかと思った」 と呟いていたが、全くその通りですねという想いを込めて爆速でいいねしてしまった。
先述の 「僕らなら」 と比べ、こちらはアップテンポで疾走感のあるナンバーになっているが、グッドメロディ・グッドサウンドという王道のかっこよさは共通している。ローファイでカッコいいアレンジがメロディの良さを引き立て、筆者が1番の魅力だと思っているラブリーサマーちゃんの 「声」 が真っ直ぐ届く、ライブ映えする楽曲だ。
構成としては、イントロ→1A→サビ→2A→ソロ→C→サビ→アウトロとテンポよく進んでいくところも筆者の好みにハマるポイントだ。1Aからサビに入る前のギターの音がめちゃくちゃに気持ちいい。「人間の土地」 のEP全体に言えることだが、「今いる場所からの逃避」 が歌われている中で、曲調としてはアッパーで爽快感があるアンバランスさがとても好きだ。その流れで最後に収録されているHigh and Dry(Radioheadのカバー)が良いアクセントになっており、4曲でたまらないカタルシスを味わえるEPになっている。
サビは2段構成になっており、前半は音の密度が高いテンションのかかるサウンドで、後半は少し落としたところにイントロのリフが飛び込んでくる。サビの中でもメリハリが効いており、非常に引き込まれる。
一曲通してカッコいいが、特に秀逸なのが2Aからの流れ。叙情的なギターが華を添える中、1Aの半分の尺で切ない歌詞を歌い終えるとギターソロへ。とにかくこの歌うようなギターソロがかっこいいので聴いてみてほしい。ソロが終わるとCメロに入るが、ここのリズムコントロールが最高だ。Cも2段構成だが、前半はギターソロから一度テンポを落としてゆっくり大きく縦に揺れるようなリズムで引き込み、「蜘蛛の糸であるような」 からテンポアップして没入感はそのままにテンションが上がっていく。最高潮になったところでラスサビの頭で一気に音を落とし、美しいボーカルが暗闇の舞台上でスポットライトを浴びているように響く。グッと引き込まれたところで再び演奏もフルボルテージに。この曲後半の一連の流れはまさに鳥肌ものだ。
歌詞については、進んだ場所でやりきれない思いを抱え、帰りたいけど戻る場所はない と、今いる場所から脱したい気持ちについて歌った内容になっている。
というフレーズから始まるこの曲は、どこか 「僕らなら」 の続きであるようにも思えてくる。「上手く暮らせても 駄目になっても 受け入れるつもり」 だったものの、それでもやはり待ち受けていた現実の厳しさに心折れそうになる、というようなストーリーを感じる。
しかし、2A後のギターソロが終わると、歌詞の雰囲気が変わる。ピックアップして歌詞を引用しようとすると結局選びきれずに全歌詞載せることになる予感がするので割愛するが、このギターソロ以降は、逃避を望んでいるのは変わらないものの、その奥に同時にある 「逃げたくない」 という思いも感じられる歌詞になっている。「マシにする術も分かんなくて」という中でも「告げない告げたい愛情を 今もここに宿してるけど」と歌い、光が何処かわからない中でも、往生際の悪さという天からの糸を、愛という祈りで以て掴んで離すまいとする、切実な葛藤に胸を打たれる。このファミリアは、現状から逃げ出したい思いを抱えた人、そしてそんな中でも逃げずに留まり続ける人を、励ますのではなく寄り添うことで勇気づけてくれるような、そんな優しい曲だと思う。
(長年のファンの方から聞いた話だが、実際に「人間の土地」 のリリース後にラブリーサマーちゃんは一度ステージから離れているそうだ)
音楽を作ることを生業として行うのは、ビジネスである以上リスナーからは窺い知れないたくさんの柵があるだろうし、そうした中で自分の納得できる楽曲制作を行うというのがかなり大変なことであることは想像に難くない。本来大好きなものである音楽に対してそうした葛藤を抱くこと自体が負担になるという面もあるかもしれない。そうした中で、今こうしてラブリーサマーちゃんの音楽を聴くことができていること、そして他にも沢山のミュージシャンが音楽を生み出してくれていること。生活の中に当たり前のように存在してくれている音楽は、実は全然当たり前じゃないのだということを、いつも忘れないでいたいと思う。
この 「人間の土地」 から3年後、現行最新アルバムである 「THE THIRD SUMMER OF LOVE」 がリリースされた。各種SNSやライブなどでの発言によれば、今もニューアルバムのリリースに向け、レコーディング等をおこなっているとのこと。ライブ、そしてTwitterやInstagramで時折アップされるデモなどで幾つかの新曲を聴いているが、どれもめちゃくちゃ良い曲で、新譜への期待は高まるばかりだ。くれぐれも無理のないペースで制作してもらい、いつか音源を手に取れるその時を楽しみに待ちたい。
🔸LSC2000
続いて、「THIRD SUMMER OF LOVE」 収録の 「LSC2000」 を紹介する。書き始める前は、本楽曲がシングルとしてリリースされた時の同時収録曲である 「サンタクロースにお願い」 について書こうと思っていたのだが、この流れで書くならこっちかな〜ということで急遽変更してお送りする。
「LSC2000」 はライブでの大トリを飾ることが多いド名曲(全部にド名曲と言っている気がするが、決して安売りはしていない)で、まさにラブリーサマーちゃんのアンセムの一つと言っていいだろう。ライブに対する心情とそこでのファンとの心の交流について歌った曲であり、いつどこで聴いてもグッとくるが、やはりライブで聴いたときの感動はちょっと筆舌に尽くしがたいものがある。余談だが、「ミレニアム/今は少年のままの君」 のリリース直前くらいにラブリーサマーちゃんを知った筆者は、同シングルからファンになり、既リリースの楽曲群の良さに驚きながらラブリーサマーちゃんに入門したが、この曲の衝撃で 「こりゃ一生ついて行きますわ」 となったのを覚えている。
この曲もイントロからガッと掴むタイプで、ライブでこのドラムを叩く時の吉澤さんが最高にカッコいい。今イントロを聴きながら書いているが、文章を作るのにかなり苦労するくらいエモーショナルな状態になっている。骨太なバンドサウンドにストリングスが効いたアレンジは壮大で、イギリスの巨大な野外ステージで全員大号泣しながらシンガロングしている光景が目に浮かぶよう。あと20年ほどリリースが早ければ国家になっていたであろう名曲中の名曲である(君が代が法的に国歌として定められたのは1999年)。
ベースがかなりカッコいいので、可能な限り低音を聴きやすい環境で爆音で聴いてほしい。2Aのゴキゲンさと、サビ終わりの踊るようなフレーズの高揚感が最高だ。
そして(全曲そうではあるが)ボーカルも素晴らしい。筆者はラブリーサマーちゃんのボーカルで好きな三要素があり、声質(もうこれはただただ好きなので説明は難しい)、タ行の発音(息が多めなのか?カッコよくて大人っぽく、時に可愛らしい魅力的な声になっている)、特定の語尾あるいはフレーズ中の最高音における発声(独特の余韻があり、より世界観に引き込まれる。特に語尾がフォール気味のフレーズに心奪われる)が魅力的だと思っている(もっとたくさんあるし、勿論曲によって表現が違うけど、あえて今3つ選ぶならこれらを挙げる)が、「LSC2000」 はこのいずれもフルで楽しめる。
ライブから生まれ、ライブで最も盛り上がる曲の一つだけあって、各パートのかっこよさが半端じゃなく、「バンド」としてのラブリーサマーちゃんの魅力がこれでもかと溢れた一曲になっているのだ。
その上でやはり特筆すべきはバンドサウンドとストリングスの融合が最高の形で成されているところ。筆者はスピッツの 「正夢」 やoasisの “whatever” など、ストリングスがピッタリ調和した ロックが大好物だが、LSC2000はその最高峰だ。音楽に上とか下とか無いし比べるものではないと思うが、初めて聴いた時 「whatever超えたわ…」 と思い、呆然としたまますぐ音楽好きの兄に紹介のLINEを送った。knebworthで聴きたいな〜〜本当に。
歌詞については先ほども触れた通りライブでのことを歌っているが、内容だけでなくメロディとの組み合わせで気に入っているのが、2A後半から2サビ頭にかけての
というフレーズだ。これは、意味のまとまりで区切ると
「今更顔上げたら まだ君が立ってた」
「すすり泣きも 拍手の音も 聞こえたよ余さずに」
となるが、メロディのまとまりで区切ると
「今更顔上げたら」
「まだ君が立ってた すすり泣きも」⭐︎
「拍手の音も」
「聞こえたよ余さずに」✴︎
と分けられる。一般的にはメロディの区切りに合わせて歌詞の意味も切れるような形がオーソドックスだが、ここではまとまったフレーズの中で意味が切れていたり(⭐︎)、一つの文章がAメロとサビをまたがって繋がっていたりする(✴︎、「拍手の音も」まではAメロ、「聞こえたよ」からサビ)。この「意味のまとまり」と「メロディのまとまり」のズレが心地の良い違和感を生み出しており、曲中盤での効果的なフックになっている。これは、両方のまとまりが一致している1Aを聴いた後だからこそ最大化されている魅力であり、恐らくずっとズレがあるフレーズだと聴きにくさを感じてしまうはずなので、ソングライティングの技巧・センスが光っている部分だと思う。個人的な感覚かもしれないが、筆者はこの曲の2番を聴いていると、フレージングがこれ以上自然でもこれ以上不自然でも感じないであろう、絶妙なグルーヴを感じるのだ。
(スピッツのロビンソンも、同じように1Aと2Aでフレーズのまとまりに変化がついている。2Aの「どこか似ている/抱き上げて」「薄汚れてる/ギリギリの」の箇所で、同じメロディのまとまりの中で意味のまとまりが切れるが、これも同じ理由で筆者の偏愛ポイントになっている)
また、ラストの
というフレーズが非常に印象的だ。この前のライブでも、ラブリーサマーちゃんはMCで
「メンバーだけでやるならスタジオ練と変わらない。ライブをライブたらしめているのはお客さんで、一緒に作るもの。だから、楽しんでいってください じゃなくて、一緒に良いライブにして、楽しみましょう!」
という旨の発言をしていたり、度々お客さんへの感謝を口にしていた。普段の発言からもファンへの愛情は感じられるが、やはり1番届くのはライブであり、生でこの歌詞を聴くと、届いてますよー!とこちらもどうにか伝えたくなる。ただし、この 「真摯さ」 はそういったファンとのコミュニケーションだけでなく、ストイックで完璧主義なラブサマちゃんの、楽曲・演奏へのこだわりにも強く感じられる。「一緒に良いライブを作る」 というのは本心だろうが、その前提として自分達がまず良い曲を良い演奏で届けようという意志が節々から見て取れる。東京キネマ倶楽部の公演では特にそれが感じられるシーンがあり、胸が熱くならずにはいられなかった。
また、先ほど紹介した2番の歌詞について、音としてだけでなく、内容の面でも触れておきたいことがある。
これはライブでのパフォーマンス後にファンの存在と熱量を感じた場面を瑞々しく描写したとても鮮やかな歌詞だ。ファンとしてステージ上のアーティストを見る時の感情や熱量は自身の体験としてよく理解しているが、逆は意外とというか当然というか、普通には知り得ない景色である。心理描写から視覚・聴覚情報までを盛り込んでアーティストの見ている世界をリスナーに垣間見せてくれるこの歌詞は、ライブにおけるアーティストとファンのコミュニケーションの双方向性、両者の間に確かな温度を持った繋がりがあるのだと感じることができ、その後の展開に向けてしっかりとリスナーの感情を曲の世界に引き込んでくれる素晴らしいフレーズである。
このように曲単体の中の一節としても素晴らしいが、「僕らなら」 と 「ファミリア」 について書いた後でこの歌詞を読むと、「曲を作るモチベーションはあくまで自浄作用だけど、リスナーからの言動に励まされている」 と色々なインタビューで語っているラブリーサマーちゃんが、ライブが終わり顔を上げた時に 「まだそこに立ってた」 ファンの姿に励まされたことが、様々な苦しい期間があった中でも今こうして活動を続けてくれている一助になったのかなという思いが浮かんでくる。だとすれば、ラブリーサマーちゃんの活動をミレニアム以降からしか知らない自分としては、今こうして曲を聴いたりライブに行けていることについて、もちろん何を置いても1番は活動を続けてくれているラブリーサマーちゃんに対してだが、自分が知るもっと前から長く応援し続けているファンの人たちにも感謝をしたいなあという気持ちになる。
これからも、「ここにある真摯さ」を受け取るだけでなく、ラブリーサマーちゃんにリスナー側の真摯さも伝わるよう、主体的にライブを楽しみたいと思う(筆者は基本的にめちゃくちゃ表情に出ているタイプらしいので、特に意識しなくてもめちゃくちゃ楽しんでいるのはわかりやすいとは思うが)。
🔸普請中
最後に紹介するのは、アルバム未収録の新曲、「普請中」 だ。この曲は、Instagramでデモの冒頭のみ聴くことができる。
(ライブで聞いた感想であり、音源を聴き込んでのものでないため、誤りが多くある可能性について予めご承知おきの上読んでいただけるとありがたい)
全曲についてイントロがカッコいいとレビューしてしまっているので、「初っ端から最高な曲縛り」 みたいになっているが、この曲は世界一入り方がカッコいい曲と言っても過言ではない。ファミリアも世界一だけど、これも世界一です(?)。ラブサマソニ2023東京でこの曲のイントロが始まった時、「聴きたいな〜と思っていたから嬉しかった」+「一音目からのあまりのかっこよさ」に、雑魚キャラ感溢れる超絶ダサいリアクションで仰け反ってしまった。
曲全体の展開としては、力強い一音目と印象的なギターフレーズで一気に耳と心を掴むイントロから始まり、続く1Aでは一転して良い意味で力の抜けたレイジーな雰囲気が漂う。そこからBで再び音圧が上がるが、ここの盛り上げ方がかなりカッコいい。このメリハリの効いた展開により、1サビの時点でこれはラスサビなのではないかと錯覚させられるほどのパワーがある。
また、イントロ、間奏、アウトロでのギターとベースの掛け合いが、聴いた回数はだいぶ限られているのにも関わらず耳から離れずつい口ずさんでしまうほど馴染みが良く、やはりラブリーサマーちゃんの歌えるギターフレーズを生み出すセンスはヤバいと毎度のことながら思い知らされる。そんなカッコいいアウトロが、フェードアウトしていくのではなく鬼のギターソロでテンション最高潮のままキレ良く終わるのが最高にカッコいい。曲中の展開だけでなく、始まりと終わりも0⇔100といったようなメリハリの効いた形になっており、終わった瞬間に心からの拍手がついつい湧き出てしまう曲ランキング堂々の第一位である。
歌詞については聞き間違っている可能性もあるのであまり具体的には触れないが、どんな人にも覚えがあるであろう 「なんだかちょっと動けない時間」 を、「また歩き出すための必要な準備期間」として肯定してくれるような、優しい内容になっている。個人的な体験ながら誰しもが共感できるであろう瞬間を切り取り曲にする着眼点もさることながら、この期間を 「普請中」 という新鮮かつ的確な言葉で表現しているのが本当に秀逸だと思う。普請中という言葉のリファレンスは森鴎外の短編小説 「普請中」 であるとのことで、実際に読んでみたところ、確かに主人公の渡辺は、成長前の日本や登場するレストランについて、「今はあくまで準備段階で、これから良くなるのだ」というような、ある種弁護的なニュアンスで普請中という言葉を使っている。気になるのは、こういう内容の曲を作ろうとテーマが決まった後で普請中という言葉を選んだのか、森鴎外の普請中から着想を得て曲作りが始まったのか、果たしてどちらなのかということだ。前者であれば、曲の内容にピッタリの言葉を選ぶセンスに感動するし、後者であればモチーフを日常の普遍的なテーマに落とし込む力に感動する。あるいは、日頃からこういう状態を 「普請中」 であるとして捉えているのならば、その瑞々しく素敵な感性に思わず握手を求めてしまいそうだ。「休んでもいいんだよ」 とか 「ちょっと休んだら頑張ろうね!」 みたいな押し付けがましさはなく、「いや〜だっていま普請中なんですよね」 というように肩肘張らず自然に現状を肯定させてくれる歌詞には、(例によってリスナーへのメッセージではなくあくまで自浄作用としての創作活動ではあろうものの)たくさんの人が救われるのではないだろうか。繰り返すが、歌詞を聞き間違っている可能性は全然あるので、正しくは新譜のリリース後にご自分で購入して確かめて欲しい。
(2023/10/04追記 下記引用ツイートによると、元々森鴎外の普請中が好きで、それをモチーフにした曲を作ったという順序のようだ。つまりモチーフを日常の普遍的なテーマに落とし込む力に感動します)
🟧まとめ
以上、ラブリーサマーちゃんの魅力の一部を簡単に紹介し、その作品群から4曲を厳選して紹介した。レビューしたのはいずれもロック色の強い曲となっているが、それに限らずジャンルレスに様々なカラーの楽曲を生み出しているのもラブリーサマーちゃんというアーティストの魅力の一つだ。そして、遊び心溢れる打ち込みサウンドからアーバンヒップホップ、ゴリゴリのロックチューンまで、多様性あふれるサウンドのどれにも共通して、親しみやすいポップさ・キャッチーさが根底に流れている。このポップセンスと魅力あふれるボーカルが、ラブリーサマーちゃんの音楽は誰が聴いても愛することができるだろうと自信を持って激レコメンドできる、大きな理由になっている。
そんな多様な形でグッドミュージックを生み出しているラブリーサマーちゃんの魅力を存分に味わえるよう、様々なタイプの作品をどうにかこうにか1時間程度に厳選したプレイリスト(最後に本記事で紹介した3曲も追加してトータル1時間18分)を作成したので、未試聴の方は是非一度聴いてみて欲しい。好みにハマる曲がきっとあるはずだ。