脳卒中患者に対する自主トレーニングのエビデンスと臨床応用 #5【ケーススタディ編】
いよいよ、自主トレーニングのエビデンスを臨床応用します。Evidence Based Practiceの醍醐味ですね。
今回取り上げるケースは「回復期病院入院後、1ヶ月で退院が決まった症例に対する自主トレーニング指導」です。
「自分だったらこの症例にどんな自主トレを提案するか?」と考えながら読んでみてください。
基本情報
年齢:60歳
性別:男性
疾患:3ヶ月前に脳梗塞(中大脳動脈領域)を発症
症状:右片麻痺
HOPE:パソコンのキーボードを打つ時に右手でしっかりキーボードを叩きたい
背景:
Webサイト制作会社経営者の男性。主に社長としてマネジメント業や営業活動に携わるが、自身もエンジニア としてWeb制作の仕事をすることもある。脳梗塞発症後、急性期病院で1ヶ月入院加療。その後、回復期病院に入院したが仕事に戻らねばならなくなり早期に退院することが決定した。70歳までは仕事を続けたい意向があるが、現状は満足に右手を動かせる状態ではなくパソコン動作に支障をきたしている。そのため、仕事のパソコン動作で右手を使えるよう、自主トレーニングを続けたい。回復期の担当療法士であるあなたに自主トレーニング指導を依頼している。
評価
【動作観察】
自身のノートパソコンを開く、電源をいれる、片付ける、等の周辺作業は問題なく実施可能。キーボードを打つ際、右手をノートパソコン上に置いて保持することも可能であるが、右手指の細かい・素早い運動を行えないために右手の担当領域(キーボードの右半分)を打つのに時間がかかってしまう。そのため、している動作レベルでは、右手の担当領域も全て左手で打っている状況。できる動作レベルでは、右手の担当領域全てのキーを押すことは可能。
【タイピング動作評価】
オンラインタイピングゲーム「寿司打」お手軽コース(60秒)にて
・正しく打ったキーの数:55回
・平均キータイプ数:1.0回/秒
・ミスタイプ数:3回
※パソコンで仕事をする療法士の平均成績
・正しく打ったキーの数:230.8回
・平均キータイプ数:3.5回/秒
・ミスタイプ数:13.2回
【主観的なパソコン動作評価】
100点を”仕事に差し支えない状態”とすると、現状20点
【日常生活動作(Activity of Daily Living: ADL)】
Functional Independence Measure(以下、FIM)運動項目:88/91点
【上肢運動パフォーマンス】
Action Research Arm Test(以下、ARAT):41/57点
Motor Activity Log(以下、MAL)-Amount of use:2.1点
MAL-Quality of movement:2.0点
Box and Block Test(以下、BBT):25ブロック
【上肢運動機能】
Fugl-Meyer Assessment Upper Extremity (以下、FMAUE):45/66点
Modified Ashworth Scale(上肢):1
Modified Ashworth Scale(手):1
【Active ROM】
右手指関節(CM関節、MP関節、IP関節)は全て自動伸展10°以上可能
肩関節屈曲:120°
肩関節外旋:30°
肘関節屈曲:100°
肘関節伸展:0°
【Paasive ROM】
右手関節、手指関節にROM制限なし
【筋力】
徒手筋力検査法にて3〜4レベル
【感覚】
表在・深部感覚ともに問題なし
【注意機能】
TMT-A/B、標準注意検査法にて問題なし
行動性無視検査にて半側空間無視の所見なし
【認知機能】
Mini-Mental State Examinaton(以下、MMSE ):30/30点
統合と解釈
仕事でパソコンを使うためにはノートパソコンを開く、電源を入れる、キーボードをうつ、ノートパソコンを片付けるなどの動作が必要であるが、本症例は周辺動作に問題はない。
麻痺側である右手でキーボードを打つ動作に問題があり、できる動作レベルでは右手の担当領域の全てのキーをタイピングできるものの、している動作レベルでは非麻痺側の左手でタイピング動作を代償している。
しているレベルで右手でキーボードを打つためにはタイピングの【速度】【正確性】が必要になる。速度については健常者のタイピング速度が3.5回/秒であるのに対し本症例は1.0回/秒(差異-2.5回/秒)であることから、問題があると考える。
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