高校野球のためのピリオダイゼーション: 最大筋力期の理解と実践 【番外編】(大学野球・社会人野球のためのトレーニング法)
アイソメトリック法とは?
アイソメトリック(等尺性)トレーニング法と聞いて、一体何のことかと思われる方も多いでしょう。
「アイソメトリック」は「等しい距離」を意味しており、筋肉が動かない状態での力の発揮、つまり静的な収縮でのトレーニングという意味になります。
この手法の歴史は実は古く、1953年のHettingerとMülerの研究で既にその効果が確認されていました。
そして、60年代には多くのアスリートやトレーナーによって実践されるようになりました。
しかし、近年ではその効果や必要性が再評価され、特定のスポーツやシチュエーションでのトレーニングとして再び注目を浴びています。
具体的には、格闘技のように相手を押さえ込む、ウィンドサーフィンで板を制御するといった状況で、筋肉は動かないが強い力を発揮しなければならないことが多いのです。このような状況において、アイソメトリックトレーニングは非常に効果的です。
このトレーニングの具体的な方法としては、2つの主なアプローチがあります。
1つは、筋肉を動かさずに持ち上げられる最大の重量に挑戦すること。
もう1つは、動かない物体、例えば壁や固定されたバーに対して、力を最大限に加えることです。
このトレーニング法の最大の特長は、筋肉に非常に高い張力をもたらすことができる点です。
そのため、短期間で筋肉の最大筋力を増加させることが期待できます。
しかし、この方法だけに頼るのではなく、他の動的なトレーニングと組み合わせることで、総合的な筋力アップが期待できます。
アイソメトリック(等尺性)収縮を行うと、筋肉内の張力がゆっくりと増えてきます。
具体的には、力を加え始めてから2~3秒の間にその張力はピークに達します。そして、そのピーク状態は1~2秒持続した後、張力は徐々に減少していきます。
ここで、とても重要なのが「トレーニングの角度」です。
人間の体は様々な角度で動作します。投球、ジャンプ、ランニング…それぞれの動作によって関節が動く角度が異なります。
このため、トレーニングを行う際にも、それぞれのスポーツや活動に特化した角度で筋収縮を行うことが重要となります。
例を挙げると、もしあるスポーツ動作で関節の動きが180度あるとしましょう。
そして、その中で最も力を必要とする動作が45度と180度の部分であった場合、トレーニングでも特にこれらの角度での筋収縮を重点的に行う必要があります。
また、トレーニングの中で、筋肉を伸ばす動き(エキセントリック)と筋肉を縮める動き(コンセントリック)を組み合わせたエクササイズを行う際にも、等尺性(アイソメトリック)収縮を取り入れることができます。
このような取り入れ方を「ファンクショナルアイソメトリック」と呼びます。これにより、実際のスポーツシーンでのパフォーマンス向上を目指すことができます。
また、筋肉や関節に怪我をしている場合でも、動かない状態で筋肉に刺激を与えることができるため、リハビリテーションの一環としても利用されます。
ただし、心臓や循環器系に問題を持っている方は注意が必要です。なぜなら、筋肉が収縮することで血流が一時的に止まり、血圧が急上昇する可能性があるからです。
アイソメトリック法は、主に上級者アスリートが他の最大筋力法と組み合わせて使用すべきものです。
トレーニングパラメーターについては表 1 を参照してください。
アイソメトリック・トレーニングを効果的に取り入れるためには、アスリートが日常でよく使用する筋肉や動きの角度を考慮してトレーニングを行うことが必要です。これにより、トレーニングの効果が現場でのパフォーマンス向上に直結することでしょう。
アイソメトリック(等尺性)収縮は、実際には筋肉の長さが変わらない状態での力の発揮を指します。
一般的には、我々が物を押す、引く、または持ち上げる動作において、筋肉は伸縮しますが、等尺性のトレーニングでは、筋肉の長さはそのまま保たれるのです。
この理解を深めるには、例えば腕立て伏せを想像してみてください。
一般的な動きとしては、上げ下げを繰り返す運動になりますが、ある特定の角度で止めてその位置を保つ動き、それがアイソメトリック収縮です。
以下に、より詳しく説明していきます:
最適な収縮の状態:トレーニングが最も効果的になるのは、筋力の80%から100%の間で行う時です。これは、筋肉を十分に刺激して成果を上げるためのポイントとなります。
持続時間:1回の収縮を6秒から8秒間保持することで、筋肉に最適な刺激を与えることができます。1つのセッションで、合計30秒から50秒の間、その収縮を繰り返すことで、筋肉への負荷を最大化します。
トレーニング負荷:トレーニングの負荷は、収縮時間ではなく、負荷かセット数のどちらかを増やすことで強化します。
休息と呼吸:等尺性のトレーニング中は、通常、呼吸を一時的に止めることが多いです。このため、各セットの間に60秒から90秒の休息をとりながら、リラックスと呼吸法を行うことが重要です。これにより、体内の酸素バランスが整い、次のセットに備えることができます。また、このトレーニングは胸腔内圧を上昇させ、循環を制限し、酸素供給を制限します。
トレーニングの組み合わせ:筋肉の成果を最大化するためには、静的収縮だけでなく、アイソトニック(等張性)収縮も取り入れることが勧められます。
ファンクショナル・アイソメトリック収縮:これは、アイソメトリック(等尺性)エクササイズとアイソトニック(等張性)エクササイズを組み合わせます。つまり、筋肉を特定の角度で一時的に止め、その後、動的な運動を行う方法です。例えば、スクワットを行う際、途中で一時停止して筋肉の収縮を感じ、その後、通常の動きを再開するような感じです。アスリートはある角度まで挙上し、それを3~6秒間保持します。アスリートは、全可動域を動作させながら、スポーツに特化した角度で、スポーツに特化した時間、2~4回停止することがあり、アイソトニックとアイソメトリックのメソッドを組み合わせます。この変形は、特にアイソメトリック動作を繰り返すスポーツにおいて、より優れた生理学的効果をもたらします(これがファンクショナルという用語の由来です)。
エキセントリック法
筋トレの中には、筋肉を収縮させる「コンセントリック」動作と筋肉を伸ばす「エキセントリック」動作が存在します。
多くのフリーウェイトやアイソキネティック器具を使用した筋力トレーニングでは、この両方の動作をバランスよく取り入れています。
特にエキセントリック動作は、筋肉が伸びる際に力を発生させるもので、この動作を重点的に取り入れるトレーニング手法が「エキセントリック法」と呼ばれます。
あなたがジムでよく目にするベンチプレスを例に考えてみましょう。
バーベルを持ち上げる動作が「コンセントリック」、その後ゆっくりと胸に戻す動作が「エキセントリック」となります。
多くの人が感じることですが、バーベルを胸に戻すエキセントリック動作の方が、持ち上げる動作よりも楽に感じられるのはなぜでしょうか。
これは、エキセントリック動作の特性からくるもので、筋肉が伸ばされるときには、より多くの力を持続的に発揮できると言われています。
エキセントリック法の効果
研究によれば、エキセントリック法を用いると筋肉に高い張力がかかるため、筋力の向上が期待できます。
そのため、スポーツ選手やトレーニングを長年続けているアスリートの中には、この手法を取り入れてトレーニングを行っている人も多いのです。
筋肉の太さや大きさを増加させる「肥大」は、筋力トレーニングに取り組む多くの人々の目的の一つです。
しかし、最大筋力の向上、つまり、我々が持ち上げられる最大の重さを増やすためには、実は単に筋肉の大きさを増やすだけでは十分ではないことが、DudleyとFleckという研究者たちの1987年の研究によって明らかにされました。
これは、筋トレの結果として筋肉が大きくなること(肥大反応)よりも、筋肉を動かすための神経活動の変化が、筋力向上の大きな要因であることを示しています。
具体的には、速筋繊維という、急激な動きや高い強度の運動に関与する筋肉の一部が、この神経の変化によってより効果的に動員されるようになるのです。
さらに興味深いのは、この神経の変化によって、筋肉の大きさがそれほど増えなくても筋力が増加することが可能となることです。
これは、運動を制御するための神経の命令、いわゆる「神経コマンド」が修正されることで、筋肉の間での連携や調整が向上することを示唆しています。
つまり、筋力向上には、筋肉の単なる大きさだけでなく、筋肉を動かす神経の活動や連携も非常に重要であると言えます。
これは、筋トレを行う際の方法やアプローチにも影響を与える重要な知識です。
私たちの体が筋肉を動かすとき、中枢神経系(CNS)がその指示を出しています。
筋肉の動きは大まかに、筋肉を収縮させる「コンセントリック収縮」と筋肉を伸ばす「エキセントリック収縮」の2つに分けられます。
これら2つの収縮の種類には、CNSからの神経指令の出し方が異なります。Enoka氏の1996年の研究によれば、筋肉の活動や動きの際に、どの筋肉や筋繊維をどれだけ活性化すべきか、というのはCNSによって決定されているとのことです。
この決定は、行う運動やトレーニングの強度に応じて変わります。
例えば、重いバーベルを持ち上げる際には、多くの筋繊維や速筋繊維が活性化されるでしょう。
特にエキセントリック収縮の際の神経の指令は独特で、Abbruzzeseらの1994年の研究によれば、筋肉の中のどの部分(運動単位)を動かすべきか、どれだけの強さで筋肉を動かすべきか、いつ筋肉を動かすべきか、そして複数の筋肉を使う動作の際には、どの筋肉がどのように協力するべきか、といった具体的な指示がCNSから出されます。
エキセントリック動作の時、筋肉は疲れにくいためコンセントリックよりも長く維持することができます。
Teschらの1978年の研究によれば、この理由は筋肉の動員順序が変わるからだと考えられています。
さらに興味深いことに、エキセントリックトレーニングでは、通常のコンセントリック動作(筋肉が収縮する動き)時よりもはるかに重い負荷を持つことができるのです。
例えば、普通にバーベルを持ち上げることができる最大の重さを1RM(1回の最大重量)とした場合、エキセントリックトレーニングではその140%までの重さを持つことが可能です。
ただし、このような重い負荷を扱う際には注意が必要です。
非常に上級のアスリートで、1つか2つのエクササイズに限り、限られた時間行うべきです。
特に上級者でないと、その重さを持ち上げることができないため、他の人〈スポッター〉のサポートが必要となります。
このスポッターは、トレーニーが重いバーベルを安全に持ち上げる手助けをする役割を果たします。
しかし、重要なのは、このスポッターがトレーニーを守る役割も持っていること。
間違った方法でバーベルを扱うと怪我のリスクが高まるため、特にバーベルを下ろす際には注意が必要です。
このエキセントリックトレーニングは、一見簡単に見えますが、実際には非常に集中力を要するトレーニングです。
特に最初の数日は筋肉にかかる負荷が強いため、筋肉痛を感じることが多いです。
この筋肉痛は、筋肉に微小なダメージが生じることで発生しますが、トレーニングを続けることで、この痛みは徐々に軽減します。
エキセントリック法の特徴は、筋肉に対してかかる張力が高くなることです。
このため、力-時間の関係が左方向にシフトします。
これは、短時間で筋肉に強い刺激を与えることができることを示しています。
特に速筋運動単位、つまり瞬発力に関与する筋肉部分が活性化されるため、結果として筋力の向上が期待されます。
具体的な例として、スプリントサイクル、つまり短距離走でのダッシュなどにおいて大腿二頭筋が重要な役割を果たします。
この筋群はエキセントリックフェーズ、すなわち足を地面につける瞬間に最大の活性化を迎えます。
このため、エキセントリックトレーニングは大腿二頭筋の強化に特に効果的と言われています。
しかし、このエキセントリックトレーニング、特に超最大負荷のものは、初心者には向いていません。
その理由は、非常に重い負荷を用いるため、筋肉や関節へのダメージリスクが高まるからです。
従って、少なくとも5年間の筋力トレーニングがあり経験と知識を持ったアスリートやトレーニーだけがこの方法を取り入れるべきです。
さらに、このトレーニング法は筋肉や神経に強い負荷をかけるため、過度な使用は避けるべきです。
常に最大の集中力を保つことが求められ、それが心理的なストレスとなりうるからです。
適切なバランスでの取り入れと、アクティブリカバリーを組み合わせることで、筋肉の回復をサポートし、より効果的なトレーニングを行うことができます。
エキセントリック法のトレーニングパラメーターを表2に示します
一つのセットの後の休息は、トレーニングの成果を左右する重要な要素の一つです。
十分な回復時間が確保されない場合、次のセットのパフォーマンスに影響が出る可能性があります。
エキセントリック動作では特に、高い負荷がかかるため、アスリートはその回復の必要性を理解し、自身の体調や状態をしっかりとチェックしながら休息時間を設定する必要があります。
また、このトレーニング方法には、アスリートのメンタル面での取り組みも求められます。
高いモチベーションや集中力が不可欠で、これらが欠けているとトレーニングの質が落ちるだけでなく、ケガのリスクも高まります。
アスリート自身が自分の心の状態を認識しておくことも重要です。
さらに、エキセントリック法は単体でのトレーニングよりも、他の筋力トレーニング法と組み合わせることでその効果を最大化できます。
最大筋力期に実施されますが、マキシマムロード法(MxS-II)との組み合わせが推奨されています。
これにより、筋肉に異なる刺激を与えることで、より効果的な筋肉の成長や強化が期待できます。
マクセクス(Maxex) トレーニング
ここから先は
¥ 200
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?