🌺グレコ、貫いた「観客が恋人」/仏シャンソンの大御所が涙したインタビュー
【写真】パリ・モンパルナスにて(撮影・飯竹恒一)
今は亡き仏シャンソンの大御所、ジュリエット・グレコさん(Juliette Gréco、1927~2020)のご自宅にお邪魔してインタビューをしたのは2009年のことでした。当時、歌い始めて60年の節目で、82歳。新アルバム「私は全てを覚えている」(Je me souviens de tout)を発表した直後でした。
インタビューに先立って拝見したパリ公演で驚いたのは、20曲を歌い切るのに、のどを潤す水に一度も手を伸ばさなかったことです。お会いしてまず、そのことを尋ねたところ、即座に答えが返ってきました。下記の記事に書いてあります。
一緒に住む3人目の夫は、この新アルバムの作曲の多くを手がけ、ピアノも弾いていました。パリ北方のオワーズ県のご自宅の浴槽が、録音場所だったといいます。
加えてどうしても尋ねたかったのは、多くの男たちが通り過ぎた私生活についてです。もうけた子供は最初の夫との間の娘1人だけだったことや、お母様との関係も含めて質問をするうちに、グレコさんが涙ぐむような表情を見せました。異国から来たジャーナリストによる単刀直入で立ち入った質問は、無礼この上なかったかもしれません。それでも、言葉少なに、しかし誠実に、一つ一つ答えてくれました。
世界的な名声を得ながら、「過去に生きてはいない」と言い切り、新曲を発表し続けていました。新アルバムにも若手のアーティストの才能を取り入れたといいます。
グレコさんは2020年、93歳で亡くなりました。その2年前には、やはり仏シャンソンの大御所だったシャルル・アズナヴールさん(Charles Aznavour)さんが94歳で亡くなっています。アズナヴールさんには、東京公演の際にインタビューする機会を得たのですが、「今朝は築地市場に行ってきた」と満足そうな表情だったので、「それでは、この後、午後はどう過ごされるのでしょうか?」と尋ねたところ、「秋葉原の電気街に行く」とのこと。お許しを得て遠巻きに、写真部のカメラマンと一緒に現地で追いかけました。
アズナヴール、そしてグレコ。巨匠たちが相次いでこの世を去ったいま、数々の音源でその美声に酔いしれることができるのが、残された者たちの救いです。(飯竹恒一)
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