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【経理】会社の決算書は "通信簿" ではなく、"会社の説明書"。
こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。
3月決算法人では、そろそろ年度決算準備が進んでいる頃でしょうか。
今日は「自社の "決算数値" とどう向き合うべきか」ということについて書きます。
「通信簿」ではなく、「説明書」かも。
よく「決算書を税理士さんに作ってもらう」「決算書は、1年の結果を示す通信簿」という表現を聞くことがあります。この表現を聞くと、自分はどうもしっくりきません。
月次決算であれ、年次決算であれ、決算数値は「通信簿(=自分以外の誰かが評価するもの)」という受け身のものではなく、積極的に自分で作る「会社の説明書」だと思います。
以前は「決算書は『作ってもらうもの』ではなく、『作るもの』」という説明をしていたのですが、うまく意図が伝わらずに「決算書はいくらでも "(恣意的に)自社で調整できるもの" 」と曲解されてしまうことがありました。結果、今はこの「会社の説明書」という表現に落ち着きました。
「会社の説明書」なので、自社で作るのは自然な流れです。これを「完全に他人に任せた上、その内容を理解していない」という状態は望ましくないでしょう。例えば期末の売掛金残・未払金の残高が適正かどうか、その内訳はどのようになっているか、本来は残ってはいけないものはないかなど、明確に整理しておくべきです。
もちろん、年度決算時に作成する「決算書」は開示方法を決めた法令に沿わなくてはいけないので、ルールは調べたり、覚えたり、わからなければ人に聞くことが必要でしょう。
ただ、それは単なるラベリングの問題です。外部に提出する必要のない内部資料であれば、例えば「未払金」だろうが、「未払費用」だろうが、「引当金」だろうが、「預り金」だろうが、どんな表示でも構わないと自分は思っています。大事なのは、その「内容を理解し、整理しきること」です。(もちろん、複数の人が関わる以上、混乱を招かないように必要以上に紛らわしい表示は避けた方が良いでしょう。)
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その決算数値、詳細を説明できますか?
社外に提出するものと社内で利用する資料は全く別なので、社内で利用する試算表上の勘定科目などは、社内で利用しやすい表示が望ましいと思います。決算書を作成するときは、そのときに表示を変更すれば良いだけの話です。
実際に、簿記や開示ルールに合わせた表示にこだわりすぎるあまり、社内で役に立たない月次試算表を見ることがあります。勘定科目明細を別途作成していれば良いですが、勘定明細を作成していない場合、中身が何で構成されているかわかりません。
中小企業の経理さんからよく頂く質問に、「この勘定科目は何にすれば良いですか?」というものがあります。以前にもこの件については書いたのですが、開示のルールとしての勘定科目のルールはありますが、社内で利用する試算表上の勘定科目のルールはありません。(もちろん、資産・負債・純資産、収入・費用の違いなどは区別が必要です。)月次試算表上の勘定科目の使い方は、顧問税理士に聞くことではなく、自社で徹底的に考えた方が良いことでしょう。「税理士さんから聞いた」科目を社内で利用し、さらにわかりにくい試算表になっていることも、よくあります。
また、決算書の数字の明細を「勘定明細」のような形で定期的に残しておくことが必要です。「この残高の内訳を教えてもらえますか?」と誰かに聞かれてすぐに説明できる状態でなければなりません。
割と多いのですが、記帳代行を会計事務所に依頼し、何年も不明残高が残ってしまっているケースがあります。税務顧問を引き継ぐことになり、前会計事務所と会社さんにお話を聞いても、誰も内容を知らない状態です。たとえ記帳代行や税務申告書の作成を会計事務所・税理士に依頼していても、決算書の内容(特にBS残高)は明確に会社で理解しておく必要があるでしょう。
会社側で理解を進めていくと、「実は税理士が理解している取引と、会社の実際の取引が違っていた」ことが判明することもよくあります。この場合、会計処理の変更が必要になるケースもあります。会社の実態を正しく処理し、自社の状態をより正しく把握するためにも、決算数値の理解は必要でしょう。
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IPOを視野に入れているのなら、決算数値は今から厳密に。
最も大変なのは、今までずっと "税務会計" と呼ばれるような、税金計算には問題がないレベルの決算数値だけで作ってきたものの、IPOを目指す方針にしたことにより、急に厳密な決算数値に変えなくてはいけないときです。
これは、後になって過去の配当制限違反などが判明することもありますので、少しでもIPOを視野に入れているのなら、今すぐ決算数値の作り方を見直しましょう。
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決算数値に、真正面から向き合う。
先日、異業種の方(パーソナルトレーナーさん)に「『決算内容に細かく質問してくるお客様』と、『決算内容に対する質問がないお客様』と、どちらがやりやすいですか?」という質問を受けました。その質問に自分は「決算内容に細かく質問を頂くお客様の方が、安心します」と即答したのですが、その理由を考えました。
おそらく「決算内容を理解する姿勢」が一番の理由だと思います。もちろん、決算内容に対する質問がないお客様の中にも「普段から内容を理解しているので、年度決算時に特に確認する必要がない」という方も多くいらっしゃいます。
ただ、もし、「決算内容を常に他社に任せている」「自社では決算数値の内容を詳しく把握していない」という会社さんがいらっしゃいましたら、今後は「自社の説明書」として受け止め、より深く理解に努めてみてはいかがでしょうか。
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。
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