【経理】部門別会計の導入を検討する。
こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。
今日は「部門別会計を導入する前に、考えた方が良いと思うこと」について書きます。
いちどは考える、「部門別会計」の導入。
企業が事業ごとの損益を把握し、今後の経営方針・改善に利用したいと思うのは、普通のことだと思います。特に、月次決算を実施している企業では「毎月の全体の損益が出たところで、事業ごとの損益がわからなければ意味がない」と考えるのも、至極当然でしょう。
この場合、部門ごと・事業ごとの損益を把握する「部門別会計」の導入を検討することになります。ところが、中小企業においては、導入を断念してしまう例が非常に多いです。
導入を断念してしまう理由。
「部門別会計」の導入を断念してしまう理由は、事前の枠組みづくりに問題があるケースが非常に多いです。
①部門別収入・費用の区分をする際の作業手順の検討が不足している。
部門別会計を実施するにあたり、「会計記帳で区分すれば良い」というのが普通の考え方です。
ところが、「作業を変更するのは『経理だけ』で、他の部署のスタッフは、何も作業を変える必要がない」という手順にしてしまうと、導入後に歪んだ実務が進むことになります。
経理部で部門ごとの収入・費用を区分記帳するには、「すべての収入・費用が受注・発注時点から(より厳密に考えるならば、『予算』の時点から)区分されているべき」です。例えば、今まで区分せずに記帳していた請求書を、経理部で急に「A事業とB事業に区分せよ」と指示を受けたところで、区分できません。
この話を事前にご説明すると、他部署の方や経営陣の中に「事業の内容がわかっていれば、区分するのなんて簡単」とおっしゃる方が出てきます。そのような場合、「そんなの簡単だ」と思う方ご自身が、区分の方法やルールの枠組み考えて、事前に提示すべきでしょう。入社1年目の人材が、迷うことなく区分できる手順が必須です。
この「区分する」という作業が、部門別会計の肝であり、安易な作業手順の決定が後々のトラブルにつながります。この区分を誤ると「本当は利益の出ているはずの事業部で損失が出ているように見えたり、本当は損失が出ているはずの事業部で利益が出ているように見えてしまったりすることがある」からです。
②共通経費の配賦方法に、納得感がない。
部門の区分方法にもよりますが、例えば「事業プロジェクト」を部門と考えたときに、人件費や家賃、広告費など、個別の事業プロジェクトに区分しにくい共通経費がどの企業にもあります。
部門会計を実施するには、区分しにくいものも含め、何らかの基準で共通経費を各部門に配賦しなければなりません。
例えば家賃を各部門に配賦しようとするとき、人員数・利用面積だけで配賦したり、実際工数で配賦したりする例があります。ただ、実際に会社さんに伺うと「このB部門の方は、ほとんど在宅勤務 or 外出している」ような状況であったりすることもあり、「これでも家賃を人員や工数で配賦するのか?」という疑問が出てきます。そしてこのとき「B部門に家賃を配賦しなかったら、その分の差額費用をどうするのか(他の部門で配賦してしまうのもおかしいのでは)?」という疑問もわいてきます。
この共通経費の金額は、会社の経費の非常に大きな割合を占めることが多いものですので、この基準如何によっては、簡単に各部門損益が揺らぎます。"一部の経営陣が思い入れのある部門" に得になるような配賦基準にしてしまったり、明らかに実情と異なる配賦基準は、必ず不満の元になりますし、部門会計を実施する意味もなくなります。
各企業における事情は様々なので、「普通は~という配賦基準は採用しない」「一般的には人員数・面積で配賦する」というような意見は必要ありません。単なる社内の部門会計であれば開示などでの法的要請はありませんので、実情に沿った、かつ、各企業において納得感がある配賦基準にすべきだと思います。
③区分する前の会計処理そのものが、適切でない。
これは部門会計以前の問題ですが、そもそも、部門会計を実施する前の会計処理の在り方が充分に検討されていないケースがあります。
例えば、減価償却費のような見積計算においても、税務基準のみによって判定した異常に長すぎる期間で減価償却していたりします。
また、数か月にわたって配賦すべき費用を、一時に費用処理してしまい、月次決算自体が歪んだ数値になっていたりすることもあります。
まずは「月次決算」、その後に「部門会計」の導入検討とするべきでしょう。
"どうにでも調整できる" 会計?
部門別会計の導入をお客様に提案すると、お客様ご自身の過去の失敗の経験などに基づき、強い反発を受けることもあります。
残念なことではありますが、そもそ部門別会計の導入は、非常に手数がかかる変更です。頑張ったのにうまくいかなかった、という過去の失敗の経験は、再チャレンジを拒むのに充分な重さかもしれません。
「共通経費の配賦方法次第で、各部門の損益が大きく変わるのだから、こんなのやっても意味ない」
「こんなの、”胸三寸でどうにでも調整できる数字” だ」
「自分の頭の中の方が、より実態を正しく捉えている」
確かに、共通経費の配賦基準に納得感がないケースにおいて、部門会計は不満の温床になりやすいものです。ただ、具体的に配賦基準を検討し直す作業だけでも、自社事業の在り方や改善点を見直すきっかけになります。例えば「家賃の配賦基準がおかしい」と始まった議論の中で、「実際はこんなに広いオフィスは要らなかった」ということがわかり、全体のコストカットにつながったこともありました。
自社ならではの「部門会計」を。
なかなか完璧な部門会計は難しいでしょうし、「とりあえずやってみるか」というレベルで始めてしまうと、大怪我につながるものでもあります。
それでも「経営をより深く分析していきたい」というときに部門会計が必要であれば、事前に充分に検討して、導入を進めてみてはいかがでしょうか。
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。
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