Episode 065 「測れるものは、つまらない」
Episode064で触れた内容の他にも、音楽が持つ力を改めて体感できた機会が過去にもう一つあった。それは、㈱電通に勤めていた時の話である。お世話になった先輩方々の一人である(或いは控え目に言っても、最もお世話になった先輩の一人)、サカタさんの披露宴後の二次会での事である。その二次会で、音楽を流す役をやってくれないか、と頼まれたのである。もちろん、DJのターンテーブルがあったわけではなかったので(仮にあったとしてもターンテーブルの操作の仕方は分からない)、当時使っていたiPadを用いた。かれこれ、約10年も前の話である。
その場の雰囲気に合わせ、適切だと思われる選曲を行い、場の空気感などを考慮しながら、その場の空気感(雰囲気)に合わせてプレイリストを作成していった。幸いにも、会場に居た人達(150人以上はいただろうか)はみな、(その場に流れている)音楽(つまり、私が選曲をして流れていた曲)を好んでいる様子だった。踊る者、歌う者、「この曲良い曲ですね、誰の何ていう曲ですか?」と質問してくる者。
因みにこの質問をした人が私に訊いてきた曲は「くるり」というバンドの「ワンダーフォーゲル」という曲であった。4拍子の、ビートが良く効いたダンサブルな曲である。尚、この機会を経験し、感じたのは、「DJって、絶対面白いハズ」である。つまり、この時はiPadを使い、その場でプレイリストを作成し、場の空気、みんなのテンションに合わせ選曲を行っていったのだが、これがDJのターンテーブルを用いる事で、更に様々な曲のマッシュアップをすることが可能になり、面白さは倍増するに違いないと確信した。正直、「何がDJだよ。人の曲を流してるだけじゃないか、何が楽しいの?」と思っていたのだが、自分の選曲により、その場の空気を作り出し、みんなのテンションを上げる、という行為を行うのは正直病み付きになる。
とはいえ、ターンテーブルを購入したわけではないし、DJに本格的になりたいとも思わないが、その行為がもたらす快感については、少し理解できたと感じる。まるで、ずっと、食わず嫌いをして避けていた食べ物を何かのタイミングで口にして、その美味しさに気づいたかの様に。
音楽に目覚めたのは、記憶する限りでは14歳頃(1998年頃)だったと思う。よくある、「初めて買ったCDは?」という問いに対し個人的に憧れる答えとしては、例えば「ビートルズの○○です」や「レッドツェッペリンの○○かなぁ」である。もちろん、私の年齢的観点(1984年生まれ)から考えて、ビートルズやレッドツェッペリンが初めて買ったCD(恐らく12~14歳と仮定して)となる確率は極めて低いのだが、それでも、「ほう、なかなか音楽をわかってるね…」と思われたいという願望から、この様な答え(例:「ビートルズの○○です」や「レッドツェッペリンの○○かなぁ」という様な回答)であれば良かったのだが、あいにく(と、言うとB’zに失礼だが)、実際に一番最初にハマったCDはB’zのベスト盤、Treasureである。二枚セット(銀色がTreasure、金色がPleasure)である。そう、上の姉が日本で購入しアデレードに持って帰ってきていたCDである。
もちろん、B’zはかっこいい曲もたくさんあり、特に嫌いではないのだが、理想としてはやはり、ビートルズやレッドツェッペリン、ビーチボーイズ、マーヴィン・ゲイル、マイルス・デイヴィスなどのアーティスト名は出てこないにせよ、せめて:
「初めてハマった音楽、そうですね、奥田民生のソロのセカンドアルバムの「30」というアルバムですかね。このアルバムに収録されている「コーヒー」と「人の息子」という曲が大好きです」
とか
「ん~・・・、たまたま家にあった井上陽水のアルバムですかね」
とか
「レディオヘッドのアルバムですね。やはりOK computerというアルバムはかっこいいですよね」
とか
「坂本龍一のCDをよく聴いてましたね」
とか
「個人的には「はっぴいえんど」や「YMO」ももちろん好きですが、細野晴臣さんはソロアルバムがやはり好きなので、HOSONO HOUSEというアルバムですかね。特に「恋は桃色」という曲が好きです。2019年に50周年記念でリリースされた新録版、HOCHONO HOUSEと聴き比べてます」
とか
「山下達郎の「ずっと一緒さ」、「いつか晴れた日に」、「僕らの夏の夢」などは好きですね、なので山下達郎のベストアルバムです」
とか
「日本のボブ・ディラン、岡林信康ですかね。でもやっぱり本物のボブ・ディランはかっこいいですね、Like a Rolling Stoneは文句なしにかっこいいですが、他にもThe Times They Are A-Changin’やMr. Tambourine Manや、My back Pagesなどの曲もかっこいいですよね」
とか
「やっぱり、Rockin’ In The Free WorldやHeart of Goldは最高ですよね、なので、ニールヤングですかねぇ」
「やっぱり、フォークですね、吉田拓郎ですね」
とか
「ブルーハーツのリアルな音楽には正直、心を鷲掴みにされました。ブルーハーツのベストですかね、ハマったCDと言えば」
とか
「Nirvanaはそんなに聴かなかったのですが、Dave Grohlのソロプロジェクトとして始まったFoo Fightersのファーストアルバムですかね」
とか
「Nirvanaが代名詞として出てきがちなグランジですが、Soundgardenももちろん良いですが、なんと言ってもやっぱりPearl Jamですかね、やっぱり。ファーストアルバムの「Ten」も良いですがセカンドアルバムの「Vs」ですかね、やっぱり」
などであればよかったのだが「B’zのベスト盤です」という答えでは、あまりにも格好がつかない。あまりにも音楽の本質が見えていない感が丸出しであり、また音楽に対する知識のなさ、そのミーハー具合は尋常ではない。
ただ、青春時代に考えていることや、やっている事のほとんどが本質なんて見えていないのである、きっと。故に、青春時代とは何が起こるかがわからないのかもしれない。もし、本質なんてものが当時からみ抜けていたら、失敗も最小限に抑えられるが故、面白ハプニングや想像を超える事などといったものはきっと起こる事もなく比較的平凡な日々になってしまうのかもしれない。そんな風に思えてやまない(そう、みうらじゅん風に言うところの「青春をこじらせる」はなんとなく腑に落ちる)。
あのMIT Media Lab(米国マサチューセッツ工科大学 建築・計画スクール内に設置された研究所。主に表現とコミュニケーションに利用されるデジタル技術の教育、研究を専門としている。1985年にニコラス・ネグロポンテ教授と元同大学学長のジェローム・ウィーズナーによって設立された)の創業者ニコラス・ネグロポンテは「測れるものはつまらない」という発言をしたらしいが、これは大いに同感する。つまり、予想範疇で起こることの面白さはたかが知れている、という理解を自分でもしているが、正にその通りだと思う。
青春時代とは、つまり、本質が見えていない時期、故に予想外の事が起こる時期、または、予想外の事が起こってしまう可能性が充分にある時期なのかもしれない。大げさに言うのならば、きっと、そういう事なんだろう。誇らしげに言うならば、きっと、そういう事なんだろう。
兎にも角にも、音楽に関しては、個人的に思うのは、つまり、「自分が、良いと思った音楽を追及する」である。「そんなの当たり前じゃん」という意見を持つ人も多くいると察するが、実は、そうでもないのである、という個人的な考えがある。つまり、こういうことである。やはり、良い悪いは置いておいて、世間の「評判」というものが、我々の判断に影響する力は大きい。例えば、「グラミー賞を受賞したアーティストです」、「ピューリッツァー賞(アメリカ合衆国における新聞、雑誌、オンライン上の報道、文学、作曲の功績に対して授与される賞。新聞出版業で財を成したハンガリー生まれのアメリカ人、ジョーゼフ・ピューリツァーの遺志に基づいて1917年に創設され、現在はニューヨーク市のコロンビア大学により運営されている)を受賞した、作詞家です」、または「Rolling Stone紙で、最も優れた曲に選ばれました」などのバイアスに(必要以上に)影響されて、自分の意思とは関係のないところで好きになってみたり、などなど。
例えば、アメリカの音楽雑誌であるRolling Stone誌の「The 500 Greatest Songs of all Time (ローリング・ストーンの選ぶオールタイム・グレイテスト・ソング500は、2004年11月に出版された雑誌「ローリング・ストーン」特別版に掲載された記事あり、同年のローリング・ストーンの選ぶオールタイム・ベストアルバム500と同様に最も偉大な曲500を選定したもの。選定は総数172人のミュージシャン・評論家や音楽産業に携わる人々の投票で決められた)」にて1位に輝いたBob Dylanの「Like a Rolling Stone」、3位に選出されたJohn Lennon の「Imagine」に関しては、全くもって意義はないが、2位に選出されたThe Rolling Stones(イギリスのバンド)の「(I can’t get no)Stisfaction」に関しては、懐疑的だ、などなど。
この様に、名誉ある賞を受賞している作品を好くのは、至って簡単である。ましてや、既に評価されている、ということもあり、言うならば「間違いがない」からだ。しかし、本当に、それだけで良いのか?本当に、それだけ面白いのか?とも、感じる。
自分だけに刺さるアーティストを探し出し、好きになるのも良いのではないか。別に、なんの賞も受賞していなくても、メジャーレーベルに所属していなくても、ヒットチャートに入らなくても、知名度が低くても、自分が心から、胸をグッと掴まれる様な音楽を奏でるアーティストまたはバンドがあっても良いのではないか、と、そう個人的には感じており、また、そういった音楽の聴き方をしてきたし、この先もしていくと思う。
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