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【イベントレポート】「やっべえ、面白過ぎたし頭良くなった気がする」となった『怪談と神話』

駆け出し怪談師であり、不可思議な事を追い求めひたすら感想を綴るライターのイソノコウヤです。またまた面白いイベントがありました。


知らないと勿体ない

ここ最近、気になるのになかなか手を出せない分野がありました。それが「神話」。本や映画が大好きで様々な作品を鑑賞していると、神話や日本書紀がベースになっているものがたくさんあります。ただそうであることは大抵、鑑賞後に見る他の方の考察や感想で知るのです。
これってめちゃくちゃ勿体ないと思っています。ベースやモチーフになる神話や日本書紀を知っていれば更にその本や映画などを楽しめたはずなのに、私はその要素を持ち合わせていなかったのです。勿体ない…とても勿体ない…。だけど何となく難しい分野だと感じて深く勉強するには至れていなかったんですね。

怪談を『知』するシリーズ「怪談と神話」

そんな時に行われたイベント「怪談と神話」。ひとくちに怪談と言っても広く様々な表現方法があります。そんな怪談を、普段意識しないアプローチで考えていきたいという「怪談を『知』するシリーズ」。まだまだアーカイブでも視聴可能ですが、面白過ぎた興奮を感想に起こしたくて書かせていただきます。

神話学者の沖田瑞穂さん

今回は最新作「災禍の神話学」を出版された、神話学者の沖田瑞穂さんをゲストに迎え神話を深めていきました。何かについて勉強をしたいけどなかなか手が出せない…という時は好きな分野に絡めて学ぶのが一番だと思っています。今わたしが熱を上げている怪談。この怪談と神話がどう絡み合うのか気になったのです。

先日、沖田瑞穂さんの「怖い家」を読んでおり専門的な観点から見るホラーの中の神話学がこんなにも面白いのかと唸っておりました。また、沖田さんの文章は「やはり学者さんだ…」と思えるような大変冷静なもの。「私はこう考える」という自分を出すものではなく、あくまでも「神話を読ませたい」というそれぞれの話に敬意を払われたような心を感じました。且つ情報の所在を明確にされているため、とても読みやすくゴクゴクと水を飲むように頭に入っていくのです。取り入れた水分が身体のあちこちを潤わすようにその情報と考察、また神話学への想いが染みわたります。
こちらの本を読んだ時点でさらに神話への興味が深まりました。

「怖い家」沖田 瑞穂(著)

神話とは何か

「怪談と神話」イベント風景

私がその文章から感じたような沖田さんの想いが冒頭で話されます。
この日進行を務める住倉カオスさんより「そもそも、神話とは何ですか?」という質問がされました。ビギナーを置いて行かないイベントの作り方が本当にありがたいです…。
これに対する沖田さんの回答がこちら。
神話とは、聖なる物語。聖性があるかないかで、神話であるのかが決まります。神話学は出来損ないの学問なんです。まだ確立されていない。ある学者が一説を唱えてそれが一世風靡しても、その学者が逝去すればその説も萎んでしまう。それを繰り返しており学問として成立していない」
「だから、神話を系統立てて伝わるものとして広められるようにしていきたい
こういった真心が著書に表れているのだと感じました。

「聖なる話である神話が現代では少なくなっているように思えるが、実は怪談にそういった話が豊富にある。だから怪談を調べていきたい」
と怪談についても言及されます。これは神話を知らなければ怪談においても勿体ないことが私の中で起きているかもしれない!となおの事感じたのでした。

怪談作家の蛙坂須美さんから「実話怪談と呼ばれるもの全てに‘聖性さ‘はあるものなのか?」という問いもされました。
そこで話題に出たのが、同じく怪談作家であり語り手としてもご活躍されている若本衣織さんの‘山怪談‘。そのひとつのお話が現代の神話であると沖田さんは仰られたのです。

また、神話が生まれる瞬間とは「人間が自身の力でどうしようもない事があった時」なのではないかという話が上がりました。

現代神話が生まれた瞬間

住倉カオスさん

それはカオスさんの実体験でした。
過去にカメラマンとして活動されており、東日本大震災の際にも現地の状況を収めるべく写真を撮っていたとのこと。しかし、東北の地は津波により本当に何もない状態。いくら写真をとっても‘‘無‘‘を映すだけで何かを伝えられるには及ばないと打ちひしがれたそう。そんな時に撮った「東北の空」の写真。そこには龍のように見える雲が映っていると話題に。気付けば「復興の象徴」として写真だけがひとり歩きしていた…。
この話に対して沖田さんは「まさに神話が生まれた瞬間」とコメントされたのです。

神話になる条件として「作者が不明」「制作年代が分からない」という点があるとお話されました。その条件の根底には、容赦なく残酷な描写も出せたり話の内容に責任を負う必要がないという事が詰まっているのです。

あの時たくさんの人がどうにか希望を見出そうとし救いを求めた時に現れたカオスさんの写真が、まるで神獣の出現のように扱われたのですね。写真の出どころが分かった上で聞くお話のため現実味を感じますが、神話が生まれた瞬間と捉えた時に鳥肌が立ちました。神話がなんたるかが心に入っていることで、話の捉え方がまた変わるのです。
うう~~~、これは面白いいいい!知識が話しの面白さを深め、より多面的に魅せてくれるんですよね。こういった発見に繋がる瞬間ってたまらない快感だなと感じます。

幽霊には女性が多い

そこからも有名な怪談話である「口裂け女」と「イザナミ」の関係性などについて盛り上がりました。
話題になったのが「幽霊は女性の姿をしたものが多い」という内容。同じくイベントを視聴されていた怪談師のはおまりこさんもこの事について疑問を挙げていました。

確かに怪談やホラーにおいて女性像の幽霊は多い!そこに「何でだろう」という疑問を持てること自体も面白さが増すポイントであり、そう考える方は魅力的だなあなんてはおさんを見ていて思います。
ちなみに私も「女性は家庭内で家を守っている事がこれまでの社会で一般的とされていて、そういった観点から怨念強い対象として役割を置かれている....みたいな考察を読んだ事があります!」とこのポストに返信させていただきました。

そして沖田さんからの見解もきっちりイベント内で聞けます。しかもやっぱりこれは神話が理由になっているんです。またまた私は唸りました。こうも神話が様々な話に通ずるのかと!気になる方は是非アーカイブより沖田先生の言葉を直接聞いていただければと思います。

若本衣織さん

また、若本さんのお話の中であった「女人禁制の山」があるというもの。山は女の神様がいると言われていることが多いとも仰られていました。
狩猟もされているという、大変フィールドワークの場が広い若本さん。まだ配信でしか怪談を聞いたことがないのですが‘オーケストラを引き連れているような語り‘だと、初めて拝見した時から思っていました。今回のようなトーク主体の場でもそれは発揮されています。あくまでも優しく頭の奥深くまで鳴り響くような荘厳さ。若本さんが山の女神なんでは?とさえ思わされます。
そんな若本さんの山の話で思い出したのが福岡にある沖ノ島。地元が福岡であるため「女人禁制」と聞いて思い浮かんだ場所でした。神が宿ると言われている沖ノ島が、何故女人禁制なのか明確な理由は明かされていません。ただ、祀られている「田心姫神」は女性の神様であり女性に対して嫉妬心を抱くから禁じているなんて説を聞いたことがあります。また、「血を穢れ」としていることから月経がある女性を禁じている…など。これらの話も私の中では「そう聞いたから」という理由でここまでの解釈となっているのですが、神話などの知識があればまた深堀できるのでは…とも考えます。
「女人禁制」と言われると余計に気になってしまうので、私は沖ノ島を対岸からよく見つめていました。「田心姫神」はそんな私のことをどう思っていたでしょうか。


そこから「海はどうなんだろう」という話になっていくのですが、カオスさんがハワイで体験された海でのある出来事に会場も私も爆笑しました。
「怪談と神話」というテーマや、この感想文で難しかったり固い雰囲気に思われる方もいるかもしれません。しかしこういった笑いの場面があったりビギナーにも易しい基礎的な説明があったりと本当にありがたいイベントです。

怪談を神話で紐解く

蛙坂須美さん

そして後半は聞き手3名がそれぞれ怪談を披露し、沖田さんが神話の観点から紐解くというかなり贅沢な内容へと進みました。
カオスさんは「上野にあった蛇屋さん」の話をされ、若本さんは「山の日に山に入ってはいけない」という話。そして蛙坂さんは「裏山で見た蛇の神様」の話をされます。動いて喋る蛙坂さんを拝見するのは初めてでした。先日読んだ蛙坂さんの著書「怪談六道 ねむり地獄」から感じ取った‘‘弾むようなポップさ‘‘さえも孕んだような軽快な文章の雰囲気に合う、スマートな方だなと思いました。でもきっとその奥にねむり地獄から滲み出ていた変態さを備えてるんだろうな、と更に蛙坂さんという人物への興味が湧きます。
そんな蛙坂さんの話に対して「それは間違いなく○○です」と沖田さんが返され、この日何度目か分からない唸り声を私は出していました。こんなにスパっと回答をくださりスッキリしていくイベントってそう無いのではないでしょうか。
またイベント内では沖田さんも、ご自身が体験された怪談を語られています。恐らくこれを聞けるのはめちゃくちゃ貴重!

そしてそのご自身の体験談が怪談に対しての価値観を作っていると話されています。
「あくまでも自分の立場をわきまえ、研究者としての目線を持って怪談と接している。しかし、純粋に‘恐い‘と思う感情を大切にしたい。恐さを感じるのは特別な瞬間であり、それがまた探している神話の聖性に繋がる」
この沖田さんの想いが強くこもっていると感じる今回のイベントから、まだ未読である最新作「災禍の神話学」も是非読むべきものだと思いました。


私自身、まだまだ未熟ながらこの夏から怪談語りを始めました。その中で感じるのが「怪談の面白さを作り上げることの重要さ」です。この作り上げるというのは、ただ聞かせて頂いた話をそのまま語るのではなく提供してもらったお話を磨いて組み立て広げるということ。
そのために今回学べた神話や日本書紀など古来からの物語の土台を知る事はやはり欠かせないと思ったのです。それは、ただ怪談という物語に知識を補填するだけではありません。たくさんの知識や情報は自身の視点を増やし価値観も広げられるのです。何においても他人と分かり合う事、ひとつの事を完全体で共有することはできません。それでも自分の受け皿を大きく深くすることがお話を提供してくださる方の思いや感情を鮮度よく彩り豊かなまま継ぐ事に繋がるのではないかと考えます。

今回のイベントが非常に濃く充実していたのは、まさに沖田さんを始め出演者全員の方が知性に溢れているからでした。そしてこの難しそうな「怪談と神話」というテーマをビギナーの私にもこれ程まで伝えてくださる力量と技量。ちょっと私の持っている言葉では伝えきれないのですが本当にこの2時間のイベントを見ただけで「わたし頭良くなった!」と思えるんです。これは若本さんが最後にコメントされていました。笑

この充実度と満足度高いイベント、ぜひ体感して神話の沼に浸かりましょう!


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