【2つめのPOV】シリーズ 第3回 「仕切り」Part.2(No.0161)

パターンA〈ユスタシュの鏡〉

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Part.1のつづき


彼らの親達による暴力的な抗議を受け、登校禁止に賛成していた人達も徐々に減っていき、声をあげることが少なくなっていった。
また、不良の親達が下校途中の生徒達を捕まえ、誰が賛成しているのかを聞き出す悪質な行為までやっていた。
こんなことが繰り返されたのだから、及び腰になるのも無理はなかった。
先生の味方になる人達は、教師の間でもほぼ皆無となり、生徒たちの中には居ることはいたが、大きな声を上げるものはいなかった。


それでも、その生徒の父母達含め僅かだが先生の味方はいた。
そして何よりも、先生自身は全く屈していなかったのだ。
これはとても勇気になった。
だが、残念ながら登校禁止の処分は早々に打ち切られ、またしてもかつての状況になってしまった。
それどころかもう罰を受けないということをまるで勝利宣言のように受け取った連中は、今まで以上に悪質さを増して校内で、クラス内で好き勝手に暴れまわった。


当然未だに屈せず、教育委員会や校長や不良の親たちに対して直接的に抗議を続けている先生の前ではそれなりに静かにしているので、先生自身が彼らの悪質行為を見ることは出来なかった。直接現場を押さえられれば説得力も増すのだが、小狡い彼らは尻尾を掴ませる事無く、校内でのイジメや嫌がらせに精を出していた。


私に対するイジメの類いも担任の目に入らないところでされた。元々陰口や物の紛失などの嫌がらせは現場を押さえようも無いものだったから、やっぱり被害状況は前と変わることは無かった。


だが、先生を支持する生徒や父母達の中に私が居ることがバレたときから、このイジメや嫌がらせは加速した。


校内では常に安心できず、睨みつけられ監視され、わざとぶつかってきたりすれ違いざまに肘で脇腹を強く突いてきたり、机をひっくり返され中の物を全部出されたり、かばんを廊下に持ち出され中身を全部出されたり、あらゆる事をされた。
そして、私と仲が良かったり近くにいる人達までがイジメや嫌がらせに遭うようにもなった。
結果、私は校内で完全に孤立してしまった。


しかし私は隠すこと無く、この事は親に伝えた。親は先生の明確な支持者だったので全部きちんと聞いてくれたし助けてくれた。
この内容もすぐに学校と先生に伝えてくれたのだ。
先生は私の親の倍の怒りを持って各所へ抗議をしてくれた。
そして不良達の家にも直接出向き抗議を行った。
それが原因で警察も呼ばれてしまった。


こうして益々先生や私、その他の僅かな支持者たちは学校で孤立をしていったのだ。


ある日、支持者の父母達が話し合いの場をつくった。
支持者の父母と生徒、先生で集まったのだ。


理由としては、支持者の父母達が日々自分の子供が学校でイジメや嫌がらせを受け続けている事にもう耐えられないということで、何か今後の指針や意見を統一して状況の変化を得たかったからだった。


集まった場所は、学校内の会議室だった。時刻は夜で生徒たちはとっくに下校しているので誰とも会うことは無かった。


両手に満たない程度の人数の父母が集まり、同じ人数の生徒たちも会議に参加した。
重苦しい室内で、訥々と誰かが愚痴のような意見をぼやく程度で活気は無かった。
静まった校内の静寂を、窓から入る西日がより強く演出した。


その中、女生徒の一人がつぶやいた。


「まるで私達が隔離されているみたい」


その言葉は室内に更なる沈黙を作ったが、同時に感銘を与えた。
本当にそうだったからだ。


悪人を追い出して善良な人達でまとめようとしたのに、今では悪人によって真っ当な人達が隔離されてしまったのだ。


この子の言葉は、彼らに現状をきちんと理解させるのに充分なものだった。


そしてこの後、別の生徒が、


「だったら、私達がこの教室に登校してくればいいじゃん」


と言った。


この言葉に他の生徒たちがワッと湧いた。
自分達だけの教室があって、安心して登校出来るならこれは嬉しかった。
この会議室は校舎の別棟にあり、生徒達はまず入ってこなかったし、現在のクラスからはとても離れていたのだ。


この勢いに父母達も乗り、意見はどんどんと膨れ上がり現実化していった。
かの教師もその案に賛成した。


後日、この意見を父母と先生が共同で校長と教育委員会に提出した。
教育委員会は相変わらず校長に責任を押し付けるように逃げていった。


そして校長はこの提案を受理したのだ。
ただしきちんとテストは受けることや必要なカリキュラムはこなすことなど、如何にもな事務的な条件だけは付けてきた。


こうして、私達は夏休み前からここの会議室に毎日通っている。
ここは会議室だけあって冷房も効いていてとても良い感じだ。
人数も少ないから静かだし、みんな仲が良くなった。


それに先生もとっても元気だ。
先生はこのクラスだけの担当となり、他の授業は副担任たちが持ち回りでやることになったようだ。


そのせいで色々とクラスの中も担当授業もトラブルが続き、それまで日和見で不良達に従っていた大多数の生徒達とその父母達も憤りを募らせ始めたらしく、不良達とその親達は肩身の狭い状態に陥っているようだった。


たしかに悪人が今までのクラスに普通に登校できて、私達が別に隔離されるのは何だか納得いかない話だと思う。
でも、そのお陰で今までに無いほど充実した学校生活を送れている。勉強が嫌いだった私も、今は好きになったほどだ。
校長が条件として出してきた事は、先生は全て無視した。


来年の受験に向けて、それぞれの生徒に対して個別で必要なことだけを教えたり、それを解っている生徒には内容も時間も完全に自由にして好きにやらせてあげていた。


私はというと、高校に行く気が無かったので受験に伴った勉強は一切しなかった。
それでも先生は全力で応援してくれた。嬉しかった。


こんなに良い学校があるだろうか?


だってドイツ語とスペイン語と英語を勉強して、更にコンピュータ・ネットワークとプログラムの勉強を自由にやってても怒られず、協力してくれる中学校なんて他に無いだろ?


私は夏休みも毎日ここに通うつもりだ。


パターンA〈ユスタシュの鏡〉


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おわり


Part.3につづく

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