【グッドプラン・フロム・イメージスペース】Episode.5「今から数年後・・・」第10章 : 後編 Part.10 (No.0130)


後編 Part.10のつづき



 本はこの世のものや人々が思考した事などがすでにまとめられているものですが、その種になるものは「この世」に無限というほど存在しています。

新しい教師たちは子供達が自分で、どんなに幼い頃であろうと関係なく一人ひとりが「本」を書くことが出来ることを目指していました。

それはこの世を文字にすることですから、まず幼い頃には特にですが、文字を読むのではなく世界を読むことを望みました。


また、今の時代にも過去の時代から引き継がれた本が無数にあり、このあたりに関してはまだ新しい政府も手を加えていないために害になるような悪しき本なども普通に存在し販売もされておりました。ですから子供達にはなおのこと本ではなく世の中を読んでもらい、それを自分で言葉にする力を付けるために色々教えてあげました。


世の中という本は様々な言語で語られており、また作られています。それを読むには同様に多数の言語に精通する必要がありました。全てを理解する必要は無いでしょうし、どのみちそこまで考えるのは杞憂でしょうがやはり出来る限りは読めるようにしてあげたいと考えていました。


新しい教師たちが子供達に強く力をつけてほしいと考え、一生懸命に教え続けている「読む力」は、本当に一生の時間をかけても決して完成することはないのです。それほどに深い深い人生の根幹をなすほどの力ですが、過去の時代はこの力を全く育てずにいました。


調べるほどに、その理由は怠慢というよりも意図的であるとしか思えないものでした。

やはり彼ら過去の政府やそれに付き従うものたちは子供達に賢くなってもらいたくなかったという意思がはっきりとあったのです。

どこまでも「自分達に」都合が良い人間に仕立て上げることを学校という教育機関だけでなく、二人三脚でやっていたマスコミたちや様々な部門で悪しき者たちが手を取り合い協力しあって実現させてきたのです。


新しい教師たちはその事実を調べ上げるたびに情報の共有を行い、新しい政府にも伝えました。

新しい政府もこうして上がってくる研究結果を、教育機関以外の様々な部門にも通達し今後のより良い社会の実現のために活用しました。



嬉しいことに新しい教師たちが日夜、子供達に読む力を丁寧に教えていることで、その子たちの親までが時折新しい教師たちの元を訪れ教えを乞いに来ることがありました。

意外にもその親たちには老若男女の違いも、また学歴や社会的立場の違いもなかったのです。

ある教師がそうして訪れた親に理由を聞いてみたことがあります。

どうやら自分達の子供が日を追うごとにみるみる賢くなり清くなっていき、自分達親に色々と話をするように変わっていったことがとても気になったからだそうでした。


その親は、過去の政府の頃から学校でも社会でも随分と苦労をした人だったようです。

学歴もなくまた勉強も大の苦手であったようで、決してやりたくもなかった肉体労働に従事し何とか今まで生計を立ててきたのだそうです。

そうして子宝にも恵まれ、貧しいながらも大事に育てたいと望んでいたものの、本人である親自身が勉強ができずに来たために子供に何をどう教えていいかもわからず結局学校に任せっきりにしていたのだそうです。

その子は幸いなことに心がねじれることなく、そつなく育っていたのですが、それがこうして政府が変わり学校が変わったことで、みるみるとその子の言動もはっきりと美しく変化していったのを感じたのだそうです。


決して親バカではなく瞳が輝きを増し、言葉が力を持ち、行動の前にしっかりと建設的に考えを巡らし、微細なことをも取り逃がすことなく記憶するようになったというのです。

そしてその子の親は、やがて「羨ましい」と感じるようになり、恥を忍んで子供を通じてこうして教師に教えを乞いに伺ったのだと言いました。


新しい教師はその不器用ながらも誠実な親の言葉を、穏やかな笑顔で全て受け止めました。

そして少し話の腰を折るように教師は一度離席しました。

教室に残された親は少し居心地悪げに教師の帰りを待ちましたが、その間にこの教師は別室で魂を震わせるように泣き崩れていたのでした。



Part.11につづく

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