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“期待値を逆転させるPR”で新卒採用応募が10倍になった大企業のリブランディングとは

2018年7月某日、都内の記者会見場には150名以上の報道関係者が集まり、真夏の熱さを上回る異様な熱気にあふれていた。中小型液晶ディスプレイ世界シェアNo.1のジャパンディスプレイ(JDI)が、新規事業の記者発表を行う日だった。

メディアから経営について厳しく批判されてきたJDI。液晶ディスプレイの製造を主たる事業として営んできたが、業績改善の兆しはなく、誰もが「立て直しなんて絶対無理だ」と思っていた。

そんな中、JDIが「これからは技術力を駆使した新たなプロダクトを開発し、自ら販売をする」と高らかに宣言した「JDI Future Trip Project」──。世間の予想を覆すことになるプロジェクトの名が世に知られたのは、新規事業部の立ち上げから、たった3ヶ月後のことだ。

新卒採用応募を10倍に伸ばした発表会の舞台裏

この発表をきっかけにJDIの会社のイメージは大幅に向上。下降の一途を辿っていた株価は1ヶ月で約200億円も上昇し、新卒応募総数は例年の10倍を超えた。記者発表は、2018年に国内で行われたBtoBの発表会の中で、最もメディアが参加したイベントの一つとなったのだ。

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(「JDI Future Trip Project」発表会の会場)

Story Design houseは、JDIの新規事業プロジェクトの立ち上げに、2018年4月〜2019年6月にかけてに携わった。中心となって動いたのは、プロデューサーの曽根圭輔。PR、クリエイティブ、インナーブランディングのチームを組み、立ち上げから事業成長の伴走支援まで幅広く取り組んだ。

プロジェクトのきっかけは、プロ経営者・伊藤嘉明氏(X-TANKコンサルティングCEO)との出会いだった。当時の出来事について、次のように語る。

「たまたま当時MBA取得のために通っていた大学院で伊藤さんの講演を聞く機会がありました。伊藤さんは、Adidas Japan、Sony Pictures Entertainment、Haier Asiaなどあらゆる会社のCxOとして経営を立て直したスーパースターです。常識にとらわれない改革で企業を再生させた話が、めちゃくちゃ面白くて。強烈に印象に残っていたんですね。

その後、アジア全体のマーケティングをするプロジェクトでご一緒できないかと思って、思い切って連絡を取ってみました。直接面識はなかったのですが、伊藤さんの本をバイブルにしていたので『著書のこの部分に感銘を受けて、参考にしています』……という熱い想いを添えて。そうしたら返事をいただけて! お会いすると非常に意気投合して、仲良くさせてもらうようになった経緯があります」

それからしばらくして、JDIのCMOに就任した伊藤氏から、「同社の立て直しを手伝ってほしい」と曽根に直接声がかかったのだ。

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期待値を裏切ることが重要。そのためには、細部にこだわる

JDIのプロジェクトを担当するやることになったとき、同社には厳しい視線が注がれていたにもかかわらず、「悲観的な考えは全く持っていなかった」と、当時を振り返る。

「むしろ、『成果を出しやすいんじゃのではないか』とすら思っていました。なぜなら、コミュニケーション戦略で大事なのは、『期待値をどう裏切るか』だから。クライアントが、『沈みゆく船』とメディアに批判されているなら、なおさらギャップを作りやすいはず。その上、我々には日本一プレゼンテーションが上手い伊藤さんと言う稀代のプレゼンターがおりました。そして、実際にその通りの結果が出たわけです。事業戦略発表会を皮切りに、そこから続く新規事業部の取り組みを内外からクライアントとワンチームになって作っていきながら、戦略的に発信していきました」

本プロジェクトで特に力を入れたのは、以下の3つのポイントだという。

1)トピックスを、ストーリーのあるニュースにする
「事業戦略発表会では、"JDI Future Trip"プロジェクトの第一フェーズとして開発中のプロトタイプを敢えて発表しました。事業部発足から100日間の成果を開発ストーリーとして発信することで、商品開発のスピード感と、アイデアの質の高さを訴求したんです。メディアの方がそれらのプロトタイプを体験し、実際に取り組んで来た成果を感じてもらうための場づくりを意識しました」

2)ギャップを演出し、期待感を醸成
「期待値とのギャップを演出する上で、細部に徹底的こだわりました。事業戦略発表会のプレゼンテーション資料は、まるでアップルのような洗練されたデザインに。会場は、黒と白を基調とするシャープな印象の空間を選定。当日参加する社員の方には、会場のイメージに合わせた服装で参加するようお願いしました。

こうした細かい演出自体が、記事にならないことは百も承知しています。それでもやったのは、細部へのこだわりを演出するかしないかで、人に与えるインプレッションが大きく変わるから。記者に『何か新しいことが始まるぞ』と思ってもらうためには、感情を揺り動かす工夫をしなければなりません。これができるかどうかで、コミュニケーション戦略の成果は大きく変わってくるんです。

また、新しいコンセプトやストーリーに共感してもらうためのクリエイティブのほか、プロジェクトを導く旗印として、新たなビジョンを伝える動画もつくりました。これらは、記者の期待感を醸成することを意識して制作しました」

3)新規事業のパートナー開拓へ

「発表会を単なる『打ち上げ花火』で終わらせず、次の事業成長につなげるための仕掛けにも取り組みました。発表会でJDIの新たな可能性に期待してくれた企業からの問い合わせなどに対応する受け皿となるLPを制作。実際にエアレース・パイロットの室屋義秀氏をはじめ、大手代理店やメーカー等から問い合わせがありました。

また、当社とつながりのある企業とのコラボレーションにも取り組み、商品開発アイディアソンの開催や、プロダクト開発におけるアライアンス締結などにも貢献しました」

- Producer&Account:曽根圭輔
- Project Management:森祥子
- PR、Media Relations:新井逹斗司
- Creative Director:横山ふみ

こうした取り組みは、社外からのJDIへの期待値を高めるだけでなく、JDI社内にも良い影響を及ぼした。社員のモチベーションが高まり、プロジェクトを推進していく力となっていった。その後SDhは、JDIのインナーブランディングを継続するためのチームづくりなどに携わり、PRの内製化へ向けた支援も行なった。

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(発表会時の写真。左から伊藤さん、SDh曽根)

広告は「足し算」、PRは「掛け算」

広告代理店で約10年近くのキャリアがある曽根は、その経験に照らしても、PRで大切なのは戦略づくりだと強調する。

「広告は、一言で言うと『型のあるビジネス』です。いくら予算を使えばどのくらいの効果が発生するのか、計算式が成り立ちます。しかも、テレビや新聞の広告枠を持っている会社が強者なので、広告効果は会社の規模に準じる。つまり、『誰がやるか』よりも『どの会社がやるか』のほうが大事だったりします。

一方、PRの仕事に型はありません。リリースを書いてメディアに送るというフレームワークはありますが、そこにどんなネタを仕込むのか、どんな企画を用意するのかは、PRパーソンの経験や感性に拠るところが大きい。担当する『人』や『チーム』によってアウトプットが大きく変わるのは、PRの醍醐味。だからこそ、面白い。簡単にできるように見えて、緻密に計算された世界なんです。

PRにもいろんな仕掛けを作るための予算はかかりますが、広告のような予算の積み上げではなく、掛け算で可能性をつくることができます。そのため、予算規模では叶わない会社でも、それ以上の成果をつくることができるし、どんな企業であっても表舞台に立つことができる。

ただし、夢のような施策ではない、ということは伝えておきたいです。PRだからテレビを呼べるよね、とか、バズを起こしたい、とか多くの企業の方がPRを魔法のように捉えていることがあるんですが、決してそうではない。掛け算で成果が10倍になるかもしれないが、かける数字が0であれば、0のまま。だからこそ、始めの一歩(設計、戦略作り)を間違わないことが大事です」

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PR戦略をつくるための基礎体力

PRに主軸を置きながらも、「PRだけにこだわらない企画の提案・実行」を強みとしている。それができるのは、マーケティングやブランディングの業務経験や、MBAでのファイナンス、アカウンティング、経営戦略などの学びが、戦略を考える上での基礎体力となっているからだ。

B2C、B2B、企業の規模を問わず、多くのクライアント企業様に関わってきたからこそ、総合格闘技のようなPRの提案を得意としている。

では、その「戦略」はどうやって立てていくべきなのだろうか?

「戦略の立て方に悩む企業からは『PRの戦略を立てられない』『その場しのぎのPRになってしまっている』といった声をよく聞きます。戦略づくりで大切なのは『いつまでに、どういう目標に向かうのか』を、まず最初に明らかにすること。そもそもPRとは、目標を実現するための取り組みを社内外に広げていくことだからです。戦略を作り、それを実現してくれるだろう仲間を見つける、そうやって一歩ずつ形作っていきます」

曽根圭輔/Story Design house株式会社 General Manager
スポーツマーケティングや広告代理店、デジタル動画メディアなどで幅広いマーケティング領域に携わる。新規事業開発における戦略立案・実行のスペシャリスト。日本の伝統文化を世界に広げるXPJPプロデューサーも務める。

キャリアの原点は「スポーツマーケティング」
「社会人になって最初に勤めたのは、スポーツマーケティングの会社。ちょうどサッカーワールドカップが開催された年だったこともあり、スポーツが非常に盛り上がっていて。勢いのある業界で働きたいと思ったのが理由です。その会社では、レアル・マドリードというスペインのサッカーチームを日本に連れてきて、試合を開催したりしました。マーケティングというよりは、コンテンツビジネスに近い領域の仕事でしたね。留学中に学んだスペイン語や英語も活かせていて、楽しかったです。

ただ、当時のスポーツマーケティング業界は、まだ成熟しているとは言えない状態だったこともあり、そこから、大手代理店へ転職し、様々なマーケティングの仕事に携わってきました」

MBAで学んだ、経営視点からビジネスに携わること

「業務経験を重ねるうちに、マーケティングやブランディング、PRについてはある程度わかってきたものの、ファイナンスやアカウンティング、HRといった経営周りの知識はなかったので、それも身につけておきたいなと。代理店の仕事をする上で、そうした知識を持っているのといないのとでは、アウトプットが大きく変わってくるんじゃないか、と考えたんです。

MBAの取得過程で得た学びは、今の僕の『考え方の基礎』になっています。クライアントを深く理解できるので、もらった相談に対して仮説を立てて考えられる。より本質をついた提案につなげられていると思います」

自分だからこそできる仕事に取り組みたい

「これまで外資系の有名ラグジュアリーブランドからテクノロジー企業まで幅広い業界とクライアントを担当して来ました。多くの経験を積ませていただきましたが、今感じるのは、企業名やブランド名でできてしまう仕事ではなく、逆境にあるクライアントなど、『誰がやるか』が重要になってくる仕事に取り組んでいきたいと思っています」

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Story Design houseでは現在、PR戦略コンサルタント、および、メディアプランナーとして活躍できる人材を募集しております。以下バナーより採用ページをぜひご覧ください

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