高齢者一人暮らし病気療養中の叔母が朝日新聞の購読契約をしていた話<その4> 〜なぜ新聞購読の契約をしたのか〜
高齢者一人暮らし病気療養中の叔母が朝日新聞購読契約を結んでいて、親族が気づいた時にはクーリングオフ期間を過ぎていた。病院に入院するという新聞公正取引協議委員会のガイドラインでいうところの“やむをえない事情”が発生し、消費者センターのお力添えによって新聞購読契約は解約できた。しかしながら、なぜ叔母は新聞を読まないにもかかわらず新聞を契約してしまったのかという疑問が残る。
確かに認知度は見るからに低下していて、薬を飲み忘れたり、病院通院の日を間違えたりするが、認知症と診断されるほどではない。
消費者センターの担当者は、契約の見返りでもらったコシヒカリ5kgを返す際に、宅急便で送り返すことを勧めてくれた。なぜかといえば、消費者センターの人が連絡をとっていた時に、新聞販売所の社長が「お米をもらったってことが何よりの契約の意思表示の証拠なんだからな。喜んでお米をもらったんだぞ」と何度も繰り返したことから、私が直接お米を返しに行けば、やはり契約解除には応じられないと凄んでくることを心配してくれてのことだった。
新聞を読まない叔母が新聞を契約してまでお米が欲しかった理由
私が下駄箱で新聞購読の契約書を見つけて、
「なんで契約したの?」と聞いた時には、叔母は
「だってお米をくれるっていうから」と言った。
とはいえ、叔母は自ら米を研いで炊くことはできず、食事は宅配弁当か、あるいは私やヘルパーさんが買っていくお弁当、もしくはパックご飯だ。
「お米をもらっても食べないじゃない」と私が言った時に
「隣のおじさんにあげればいいんだよ」と叔母は答えた。
“隣のおじさん”とは、叔母宅の隣にある集合住宅のエントランスやゴミ置き場の掃除を管理会社から任されている人のことだ。この男性は貴徳な人で、集合住宅のエントランスの植栽に水をあげるついでに、叔母宅の玄関前に置いてある植物にも水あげてくれたり、叔母宅のゴミ出しを手伝ったりしてくれている。
おそらく叔母はこの“隣のおじさん”にお米をあげたかったのだ。新聞勧誘の人が「新聞を取ってくださいよ、お米をあげるからさ」と言ったときに、新聞を読むか読まないということはどうでもよくて、真っ先に「おじさんにお米をあげよう」と思ったのであろう。
叔母の精一杯の強がり
私が行くのは週末だけ、別の親戚が週の半ばに顔を出していたし、介護ヘルパーや、訪問看護師だって出入りしていたが、叔母は寂しかったし、心細かったに違いない。
入れ替わり立ち替わりでやってくる人よりも、いつも顔を合わせ、何かといえば気にかけて話しかけてくれる隣のおじさんが誰よりも心強い存在であったのだ。
今となっては真相はわからないが、しつこく新聞を勧めてくる勧誘の人もまた、叔母にとっては、話しかけてくれる人という存在であったのかもしれない。
体調を崩して病院に救急搬送された叔母は、その後病院で亡くなった。なぜ叔母の寂しさに寄り添うことができなかったのか。後悔だけが残る。
「入院しても、施設に入っても、亡くなっても契約は契約、必ず6ヶ月新聞はとってもらう」と販売店は啖呵を切ってきたので、消費者センターの助けがなかったら配達はストップできたとしても購読料は支払い続け、今も無人の家で新聞を購読していたことになっていただろう。
生涯独身を貫き、病身でありながら最後の最後まで気を張って親戚や看護師やヘルパーに弱音を吐かなかった叔母。「本当は帰らないでほしい。一人にしないでほしい」と私たちに言いたかったのだと今はわかる。
一連の新聞購読契約に関するできごとは、その叔母の本心を私に知らせてくれた。
おわり
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