人権と自然の南風その1〜パラグアイ〜

ヒッチハイクしたトラックのドライバーは長距離バスの停留所で降ろしてくれた。そこでパラグアイの中心アスンシに向かうバスを探して乗り込むと、ヨーロッパ系の男が隣に座ってきて、「日本人か?」と話しかけて来た。「そうだ」と答えると握手を求めてきた。握手に応じると彼は自分のことを話し始めた。どうやら彼は日本人の女の子と最近別れたのだが、未練が残り諦めきれずに彼女が住むアスンシオンに行って、彼女と偶然すれ会うためにそこで待ち続けるのだと言う。お金がもったいないから安い宿をシェアしようと言って来たのでOKした。

よく見るとというか見慣れてくると、彼はロバートデニーロ主演の映画「ミッション」にイエズス会宣教師役で出て来る、助演のジュレミーアイアンズに似ていた。彼からいろいろ彼女とのことを聞きながらアスンシオンのバスターミナルに着いた。バスターミナルと言っても巨大市場の隣の一大拠点だ。バスを降りると彼と適当な宿を探して、二人でシェアすることにした。
荷物を置いて辺りを散歩した。パラグアイはちょうど南米大陸のヘソのような所で、ブラジル、ボリビア、チリ、アルゼンチンなど、南米の主要な4カ国と国境を接している。アスンシオンは多様な人がすれ違う場所で、ちょうど南米のスクランブル交差点といったところだ。

パラグアイ周辺は、歴史的にはポルトガル領になるかスパイン領になるか、奴隷性を認めるポルトガルと、認めないスペインで争った場所である。ロバートデニーロの主演映画「ミッション」の舞台になったグアラニー族の地域で、パラナ川のイグアスの滝を登った上に位置するのがパラグアイで、イグアスの滝の下に位置するのがプラジルのパラナ州である。ブラジルのパラナ州から始まった今回の旅も一周しようとしていた。ブラジルのパラナ州でも先住民の娘がいたが、目がクリクリして黒目がキョロキョロして可愛いかったのを覚えている。パラグアイでもそんな目がクリクリして黒目がキョロキョロしている女の子を時々見かけた。アスンシオンの港の近くにYOKOHAMAという雑貨屋があって、そこを切り盛りする女性も先住民の様相だった。ルームメートと散歩のついでによくそこに立ち寄った。雑貨屋でビールとつまみを買って、その女性ともおしゃべりしながら時間を潰して過ごした。
映画「ミッション」でもあるようにグアラニー族は可愛らしい様相で、自然と共存した暮らしを営み、音楽を愛し、平和を愛している。当時、ちょうど日本にも宣教師がやって来て活躍していた頃、南米ではポルトガル領ブラジル側の奴隷商人がグアラニー族をさらって奴隷にし労働力として使っていたので、それを食い止めるためにイエズス会はグアラニー族の地域に宣教師を送り込んだのだ。映画でもあるように先住民は宣教師を受け入れ、歌を歌い楽器も奏でるようになり、楽器の生産に携わった。映画でも途中先住民が人間かどうかで裁判で争うシーンが出てくるが、これは史実でイエズス会宣教師のラスカサスが先住民の人権のために戦い、人間として認めさせて行ったことをモチーフにしている。グアラニー族は侵攻してくる奴隷商人の私兵達とも戦い勝利をおさめていた。しかし、これも映画の題材になったことであるが、スペインとポルトガルとの国同士の交渉による協定でスペインのイエズス会宣教師はその地域を出ざるを得ず、部隊は弱体化した。最後に残って戦ったイエズス会宣教師がいたので、結局イエズス会士はヨーロッパから追い出されることになった。それをかくまったのがロシア皇帝とのことだが、実際には情報がロシアに伝わるまで時間がかかったらしい。その間にイエズス会はロシアで一大勢力になっていたのだ。

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