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天地を盗んだ富豪

昔々、斉に国氏という富豪と、宋に向氏という貧者がいた。向氏は斉へ行き、国氏に裕福になる方法を尋ねた。何と国氏は、その財産を盗みによって手に入れたという。

向氏はそれを聞いて喜び、他人の家で盗みを働いて罰せられた。向氏はだまされたと思って、国氏に恨み言を言った。国氏は向氏のやったことを聞くと、こう言った。

「全く道を失ったやり方だ。私は天の時と地の利を盗み、農業と狩猟を行った。そもそも、収穫というものは天が生んだもので、私のものではない。しかし、天から盗んだのだから災いにはならない。財産というものは人が集めたものであり、天が与えたものではない。それを盗んだために、人から罰せられるのは当然だ」


「所有はリスク」という考えがあるが、この『列子』天瑞篇の説話は、その古い例と言えるだろう。『老子』9章にも、「部屋に宝物が満ちていると、守ることは出来ない」とある。自分の持っているものが、誰かから譲られたものだと思えば、自ずと謙虚になれるものだ。

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