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「視点をずらす」の誤解——クリエイティブディレクターは“視点を合わせる”仕事

「クリエイティブディレクターって、斬新な視点を持っているんでしょ?」
そんなふうに言われることがよくある。実際、広告やデザインの世界では「視点をずらせ」「常識を疑え」という言葉が飛び交う。確かに、視点をずらすことで新しい価値を生み出すということもとても大切だ。しかし、それだけがクリエイティブディレクターの仕事ではない。むしろ、僕が大事にしているのは「視点をずらすこと」ではなく、「視点を合わせること」だ。

「え、クリエイティブなのに合わせちゃうの?」
と思ったあなた、少しだけ話を聞いてほしい。


クリエイティブの“誤解”——ずらせばいいわけじゃない

クリエイティブな仕事と聞くと、「他と違うことをする」とか「目立つアイデアを出す」と思われがちだ。でも、それって本当に“本質”を見ているだろうか?

例えば、広告の仕事で考えてみよう。クライアントには伝えたいメッセージがある。ターゲットには受け取りやすい形がある。これを無視して斬新さだけを狙ったら、単なる“自己満足のアート”になってしまう。

ここで必要なのは、「誰と誰の視点をどう重ねるか」を考えること。クライアントの意図とターゲットの心を繋ぐ“橋”をデザインする。それがクリエイティブディレクターの仕事だ。

視点を“ずらす”のではなく、視点を“合わせる”。
だからまず必要なのは、あらゆるバイアスを排除して、ファクトを正確に捉えること。


バイアスを取り除き、共通の視界をつくる

人はみんな自分のフィルターを通して物事を見ている。好き嫌い、経験、立場……それがバイアスを生み出す。そして、そのバイアスは無意識に判断を歪める。

クリエイティブの現場でも同じ。クライアントの「これが売れるはずだ」という思い込み、デザイナーの「この色がカッコいい」という好み、ユーザーの「広告はうざいもの」という偏見……いろんなバイアスが混ざってくる。

ここで大事なのは、一度それらを全部横に置いて、ファクトに立ち返ること。

  • ユーザーは本当に何を求めているのか?

  • クライアントが届けたい「本質的な価値」は何か?

  • 今、この社会で何が共感を生むのか?

これを見つけるために、リサーチをして、問いを立てて、何度も議論を重ねる。結果として、「視点をずらす」のではなく、みんなが同じものを見て、同じ目的に向かえる状態をつくる。それが、良いクリエイティブの土台になる。


「ずらし」ではなく「重ねる」ことで生まれるクリエイティブ

もちろん、視点をずらすことが無意味だと言いたいわけじゃない。ただ、「ずらし」は手法の一つでしかない。むしろ、一番強いクリエイティブは、「みんなの視点が重なった場所」に生まれると思う。

その重なりを見つけたとき、企画は驚くほどシンプルになる。
「これだよね」とチーム全員が自然にうなずける瞬間が来る。
そこにこそ、伝わる力が宿る。


だから、クリエイティブディレクターは「問いをデザインする」

結局、クリエイティブディレクターの仕事は、アイデアを出すことじゃない。
「問いをデザインすること」だと思う。

  • このプロジェクトで、一番大事なことは何か?

  • ユーザーの心に届くポイントはどこか?

  • クライアントの本当の目的は何か?

正しい問いを立てれば、チームの視点は自然と揃う。逆に言えば、問いがズレていると、どんなにアイデアを出しても空回りする。

だから僕は、まず問いを深掘りする。そして、プロジェクトの中でみんなの視点が同じ方向に向くように調整していく。それが、クリエイティブディレクターの本当の仕事なんじゃないかな、と思っている。


「ずらす」より「合わせる」方が、実はずっとクリエイティブ

目立つことや、奇抜なアイデアは確かに目を引く。だけど、それだけでは人の心には届かない。

本当に強いクリエイティブは、「違う視点を持つ人たちの目線が交わる場所」から生まれる。
そこに立つには、バイアスを取り除き、ファクトを見つめ、共通の問いをデザインすることが必要だ。

クリエイティブディレクターは「視点をずらす人」じゃない。
「視点を合わせる人」だ。

そして、その先に生まれるのが、誰かの心を本気で動かすクリエイティブなんだと思う。

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