#2(焼き物ギャラリー)

「よかったら、お手に取ってくださいね。触った感じの質感とか、重さとか器によってそれぞれですから。」

私はギャラリーに来ていた。たまの休日、妻も仕事でいないからと、隣の町まで足を運んだ。K市は、焼き物で有名である。毎年5月の連休に行われる陶器の祭典は、市内外からの客でにぎわう。

「ありがとうございます。」

ギャラリーと言っても、カフェみたいなものだ。清潔感あふれる店内に、複数の作家の作品が並んでいる。作家によっても作風が異なるし、器から土鍋、置物、香炉などさまざまだ。見ていて飽きないので休日のギャラリーめぐりはなかなかのお気に入りなのである。

一つ一つ、手に取ってみる。なるほど、重さがものによってかなり違う。白っぽいものは軽く、黒っぽいものは重く感じられるという話をどこかで読んだことがあるが、焼き物にとってはそんなことは関係がない。白っぽいものだって重いものはあるし、逆もまたしかりである。

「贈り物ですか?」

「あ、いえ、そんなものではないです。見るのが好きで。」

「よくこられるんですか?」

「そうですね。たまに。仕事が休みの時に。」

ゆっくりご覧ください、と店員さんはにっこり笑ってまた元の位置に戻っていく。

一つ一つ、手ざわりを確かめる。指の第一関節から先に意識を集中して、焼き物を持ち上げる。ざらざらしたもの、なめらかなもの。見た目と質感、重さ、普段使いするものであれば厚みなどのバランスを見る。この一連の作業がとても心地よい。

「これは珍しいですね。」

「そうですね。これは香炉と言って、下に、ろうそくを置けるようになっているんです。上に香りのするものをおいてたくのですが、茶葉をおくと出来立てのほうじ茶を飲むことができるんですよ。」

ほうじ茶の香りがスン、と鼻から脳を突き抜けた。

「これ、ください。」

「ありがとうございます。」


店員さんが、買ったものを丁寧に紙で包んでくれている間、家で楽しむほうじ茶のことを考えていた。妻が帰ってきたとき、ほうじ茶の香りがしていたらなんていうだろうか。帰りに茶葉を買っていかなくちゃ。ついでにクッキーも買っていこうか…

「お待たせいたしました。気を付けてお持ち帰りください。」

私は珍しく鼻歌を歌っていた。いい休日だった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?