第25話「とにかく勝ちたくて」
前期の授業が全て終了した日、通知表が渡された。
結果は12教科中A判定が8つ、Bが3つ。Cが1つでDとEはゼロだった。成績順は445名中12番。一年生の時は150番ぐらいだったから、それに比べれば、はるかに成績順は上がった。だけど、上には上がいるようで、同じクラスでは3番だった。
「へー、リーダーは全体で12番だったの、スゲーじゃん。」
同じクラスの細木が近寄ってきた。
「やっぱり、アヤノは今回も一桁だったみたいだよ。」
通常、専門学校2年生と言えば卒業年次になる。学生達は現金なもので必要な単位が取れるめどがつくと、学校をさぼり出す。学費を負担する親からすれば、きちんと全ての授業を受けて欲しいと思うものだろうが、そんな良心は何処かに消えてしまう。彼らにして見れば単位がギリギリでも卒業さえ出来れば良いわけで、無理してまで学校に来る意味が薄れてしまう。だから9月から始まる後期に入ると学生達はサボり出す。
カツヒロは次なる目標を何にしようか?考え中だった。そして出した結論が成績優秀で授業料が一年間無料となる成績を出す事。
この年間授業料が無料になる制度とは、残念ながら2年生は対象外で、1年生の時に前後期合わせて、24教科中、A判定を15個以上という条件をクリアした学生は、成績優秀特待生と認められ、翌年の年間授業料が無料になる制度となっていた。
なんだ、この制度の事、もっと早く気づいていたら、一年生の時にもっと必死に勉強したのに。俺も授業料が無料だったらいいのにな。
とカツヒロは思っていたが、クラスの男子に一人、この特待生がいる事を知り、勝手に彼をライバルにしてしまった。彼の名前は立花君。昨年、全体で3位の成績。カツヒロとほぼ同じ時期に大手旅行会社から内定をもらっていた。
「立花君は前期、8番だったらしいよ。」仲良しの富永君が教えてくれた。
「へえー、そうなの。彼、頭よさそうだからね。」
「でもね、後期は週2日ぐらいしか、学校来ないって言ってたね。多分、卒業単位ギリギリで卒業するんじゃないかな?」
「立花君もそうなのか?ちょっぴり残念な気もするけど、皆、バイトして卒業旅行のお金を貯めるのかな?」
カツヒロは皆、どうして最後まで授業をしっかり受けないのか不思議だった。受けなかった授業料を返金してもらえるなら、それもアリだと思うけど、サボったらお金と時間を無駄にするだけだから、自分は周りに流されない様にしようと心に誓った。
「そうだね、立花君はどうか分からないけど、就職と卒業単位取得の目途さえ立てば、学校にくるのは興味のある授業だけじゃないかな?いいよな、俺なんか、もう20社ぐらい応募したけど、まだ内定取れないんだからさ。」
富永はそういうと、ため息をついた。
「トミー、大丈夫だよ。よく残り物には福があるっていうから、きっとそのうち、良い会社から内定がもらえるよ。たまには、一緒に飯でもたべようか?」
カツヒロは富永の肩を軽くたたき、ラーメン屋に誘った。
残念ながら、今年、俺がいくら良い成績を取れても立花君のように授業料が無料にならない。だけど、その特待生に成績で勝てたら、それはそれできっと意味があるはずだ。その成績がA判定15個以上で授業料が無料の特待生条件をクリア出来たら、実質的な特待生と一緒だ。
カツヒロはラーメンを食べながら、絶対に立花君に成績で勝ち、A判定15個を取ることを誓った。
1992年9月、後期の授業が始まった。
企業研修でお世話になった渋谷旅行センターのアルバイトは8月末で終わりにした。その代り、ミニストップでのアルバイトを週に3~4日入れてもらう事にした。時々、Tokyo English Centerの住民が買い物に来てくれて、その時に英語でやり取りすると、周りのお客さんやバイト仲間がビックリするので、その顔を見るのが楽しかった。
後期の授業は、前期に比べ授業に出席する学生の数が半分以下に減っていた。予想通り、単位ギリギリで卒業する予定の学生が多かった。そして、特待生の立花君も同様だった。
「よーっし、俺はとにかく、1番を目指そう。」そう決めて、前期の授業以上に後期の授業はまじめに努力した。
カツヒロは2年生になってから、クラスリーダーをやり、更に全体のリーダー、いわゆる生徒会長にも選ばれた。それから、バレーボール部にも入りセンターのレギュラーポジションで活躍した。
バレーボールは1年生の時と比べ、高校時代に神奈川県選抜に選ばれた1年生が加入してくれたおかげで、男女ともスゴク強くなった。東京の専門学校では、男子は1部リーグから4部、女子は1部から3部まである。1年生の時は男子は4部、女子は3部とどちらも最下位リーグで真ん中ぐらいの成績だった。だけど、2年生の春の大会で男女共にリーグ優勝し、男子は3部、女子は2部に昇格出来た。
更に2年生にとって最後の秋の大会でも、それぞれリーグ優勝。男子は2部に、女子は1部リーグに昇格した。そしたら、学校からめちゃくちゃ褒められ、校内新聞のトップ記事になった。ユニホーム姿でトロフィーを掲げるバレーボール部写真とカツヒロが書いた優勝までの足跡の記事が使われた。
それに加えて校長先生からお祝いで金一封を頂いた。そして、そのお金で新宿歌舞伎町でお祝いパーティーを行い、野球選手のようにビールかけをして朝まで飲んだ。
そんなこんなで、楽しく過ごして来たトラジャルでの2年間も、とうとう終わりに近づき、後期の成績が発表されました。結果は12教科中A判定が10個、Bが2つ。C、DとEはゼロだった。成績順は440名中4番。
目標の一つ、前後期でA判定15個以上はクリアできたけど、残念ながら1番は取れなかった。同じクラスのアヤノちゃんと立花君には勝てたけど、やっぱり1番を狙っていたから、1番に成れなかったのが悔しかった。
だけど、成績も良く、生徒会長やバレーボール部でも頑張った事が評価され卒業式で表彰される一人に選ばれた。対象となったのは日本産業技術会特別賞という賞。毎年一人だけ選ばれる大変名誉ある賞で、実質的なNo.2.
成績No.1は、4月から同じ東急観光に入社する広田亜紀さんで、彼女が卒業生代表の謝辞を担当した。彼女は1年生の時も1番で、結局2年間を通してずっと1番だった。彼女に負けた事は悔しかったけど、彼女は2年の後期になっても真面目に全ての授業を受け続けていたので、とてもカッコいいと思った。
・・・。
卒業式の後、新宿西口のヒルトン東京で謝恩会が行われ、それがカツヒロにとって、トラジャルで過ごした最後の一日となった。
つづく。
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