第29話「のびざかりの2年目」
1994年4月、桜が満開に咲く頃になるとカツヒロはスッカリ営業の仕事にも慣れて来た。旅行会社の団体旅行営業マンと言うのは、大きく分けると2種類のタイプに分かれる。
一つ目のタイプは、教育旅行と言うカテゴリーで主な営業先が学校になる。彼らが狙っている獲物はズバリ修学旅行。他にも遠足や研修旅行、運動部の国内外遠征や合宿など学校によって名前や目的は異なるが年間を通して一定額の旅行需要が見込める。
その中でも修学旅行は非常に取扱額が大きくなる。例えば、500名の高校生が一人当たり10万円の旅費で京都に3泊4日の旅行に出かけるとしたら、この一つの団体旅行で取扱額は5,000万円になる。営業マンは一人当たり1.5億から2億程度の取扱額の目標が与えられているから、仮に5,000万円規模の修学旅行案件を3件以上受注出来れば、それだけで予算が達成出来てしまいます。
だけど、取扱金額が大きい案件はそう簡単に受注出来ない。「言ってみれば大間のマグロ漁師の一本釣りのようなモノ」見事に釣り上げた時の利益は大きいが、逃した際は全く何も残らない。だからある面ハイリスク・ハイリターンの世界。ターゲットとなるキーパーソンは私立学校なら理事長や役員などのトップ層、彼らの鶴の一声で受注業者が決まる可能性があるからだ。
一方、公立学校の場合、学年主任や力のある体育の先生等と人脈を作る事が大事になる。公立の場合、旅行業者選定は公平に競争入札になる。それぞれの旅行会社が持ち寄った旅行プランを担当学年の先生方の前で発表し、その後に投票が行われ、一番票を集めた業者が受注となる。
となると、営業マンは日ごろから教務室を訪問して、様々な先生方と仲良くなって顔を売っておく必要がある。いずれ行われる修学旅行の業者選考会で貴重な1票を得るために、手を替え、品を替えアプローチ。お土産やプレゼント攻撃なんて甘いもので、下見旅行だと言って京都や沖縄に先生を連れて行って、そこで夜の女性を手配したりもある。他にもお盆やお正月に田舎に帰省する先生の新幹線のチケットを言われなくてもグリーン席で用意したり、航空券も勝手にクラスをアップグレードしたものを持参する。
私立学校だったら、理事長や役員に裏金や現ナマをつかませて、がっちり関係を作ってしまえば、確実に仕事が取れる。営業マンにしたら、そうまでしても年間数千万円の売り上げを確実に得られるのなら安いものといい事になる。
カツヒロは教育旅行ではなく、もう一方の一般企業や官公庁が発注する団体旅行を売るセールス担当だ。1年目は引継ぎの仕事もないから、自力で仕事を見つけて来なければならず、結構な数の飛び込み営業を行った。千葉支店がある千葉駅から自転車で30分以内に行ける会社だけでも、相当数あるから多い時は1日50件の飛び込み訪問をした。
だけど、門前払いが殆どで、露骨に嫌な顔をされる。当然の結果といえばそうなのだが、呼んでもいないセールスマンがいきなり「旅行を買いませんか?」と言って来られても、迷惑なだけだ。奇跡的に数十件に1,2社が「秋に慰安旅行があるから担当者を紹介するよ」とか、今度、「得意先のオーナーをゴルフ旅行で接待するから見積もりを作って欲しい」と言った当たりを引くことがあった。
一年目はとにかくがむしゃらにセールスを続け、仕事を覚える事に専念した。最初は営業トークもへたくそで、全く仕事が取れなかったけど、ちょっとずつコツを覚えた。その一つが、最初から大物を狙わず、先ずは小物を確実に狙う方法。これは同じ一般旅行課の先輩がやっている方法を教えてもらい、新規顧客開拓用のツールを譲ってもらった。
その先輩のツールは、「JR券、航空券、出張ホテルなどの手配を承ります。ご用の際は裏面の必要事項を記入してファックスを送って下さい。」と言うモノだった。これを企業の総務課や役員秘書などに渡してもらい、オーダーを待つ方法だが、わざわざJRの窓口に並んだり、旅行会社に行かなくても営業マンが送料無しで運んでくれるから便利だと社長や役員の出張手配のオーダーが入るようになる。
すると、少しずつカツヒロに対する信用度が増し、出張旅行の手配以外のオーダーも入るようになる。例えば、「経理部の○○さんが、ハワイにハネムーンに行く予定らしいから、ハワイのパンフレットを持って来てくれ」とか、「人事部から、社員研修用のホテルと大型バスを用意して欲しい」などその会社の別の社員から仕事を受注できるようになる。それが、積もり積もって最終的に会社の慰安旅行や○○周年の記念旅行、海外視察旅行と言った大きな受注につながった。
・・・。
自力で仕事が受注出来ないうちは、先輩社員が取って来た仕事を代わりに添乗で行かせてもらっていたが、慣れて来て自分で仕事がたくさん取れるようになった。そうなると、自分が取った会社の添乗に行くケースも増え、代わりに先輩の仕事で添乗に行ける時間が無くなった。
未だ22歳だから、体力は余っていた。土曜日は隔週出勤だったが、金曜の夜になると同期の牧野、布施、田中の3人とカラオケやコリアンパブに繰り出した。会社のすぐ裏が千葉駅最大の盛り場で、飲食店や娯楽施設が所狭しと並んでいる。
水だと2L飲むのは至難の業だが、水割りのウイスキーなら2Lもアッと言う間だった。毎週コリアンパブで朝まで飲んで、土曜日は出勤だったら半日、事務作業をする。その後、大井競馬場のツインクルレースで馬券を買ったり、3オン3のバスケットをしたり、とにかく体力は有り余っていたから、それでも体を壊すことなく毎日元気に過ごしていた。
2年目は良くも悪くも非常に多忙でエネルギッシュな毎日だったが、それだけ全てが充実していた時期だった。
つづく。
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