第22話「就職強化合宿と内定通知」
1992年5月のゴールデンウィーク中に、2泊3日の就職強化合宿が行われた。
カツヒロ達、トラジャル2年生は、よみうりランド内の研修施設にスーツ姿で集まった。1年生の頃から就職活動を常に意識するようにと、学校では毎週月曜日がスーツディと決まっていた。だから、皆、スーツの着こなしは問題ない。
この特別強化合宿の目的は一言でいえば「意識改革」と言う事だ。専門学校生は自分達の専門分野では評価されやすいが、それでも4年制大学の強者達との厳しい就職戦線を勝ち抜いて行かなくては行けない。
残念だが、一部の旅行会社は4大卒しか採用しない。昨年1月に第一次湾岸戦争が発生したせいで旅行業界は採用を絞りこんで来ている。それに追い打ちをかけるように原油価格高騰とバブル経済の崩壊。1989年12月29日、終値の最高値38,915円87銭を記録した日経225株価平均も、翌年10月には20,000円を割り込んだ。
「いいか、君達、今、日本経済は疲弊し始めている。君達も十分にそれを感じとっていると思うが、甘い気持ちで就職活動をしたら、内定なんて一生取れないぞ。残念だけど、昨年の2年生は就職を出来ずに卒業していった者もいるし、内定が取消になった者もいるんだ。」
就職課の男性部長が集まった一同に向け、スピーチを始めた。
普段、学校で見せる顔とは違い、笑顔が無く、少し焦りや苛立ちを感じ取れる。さっきまで、お喋りに夢中だった学生達もその一言で黙り込んだ。
「この2泊3日は君達の人生を左右すると言っても過言ではない。今後の人生を決める大きなきっかけになるかもしれなんだ。来年の今頃、君達が希望する会社で働けるようになっているのか?それとも、全く異なる人生が待っているのかは、これから過ごす3日間にかかっています。だから、後悔しないよう最後まで真剣に過ごして下さい。」
・・・。
ゴールデンウィークが終わり、2年生は本格的な就職活動に入った。
1年生との違いは、授業より就職活動が優先される事。不景気とは言え、就職課には旅行業界から多くの求人が寄せられる。その中心は旅行会社からだが、ホテルや観光施設、バス会社や鉄道業者、空港施設やお土産屋からもある。就職を期に地元に戻る予定の学生もいる。東京生活は楽しく刺激的だが、親元に戻った方が経済的だから、学校を通さず親や親戚のコネを利用し内定を得た者もいた。
「リーダーは、どこを受けるの?」同じクラスのトミーこと、富永が聞いて来た。
「そうだね、俺は添乗で海外に行きたいから。やっぱり大手に行きたいと思っているよ。給与や福利厚生もしっかりしているから私鉄系の旅行会社かクレジットカード会社の旅行部門に入りたいと思っているんだ。」
カツヒロの本命は、アメリカンエクスプレスカードの旅行部門。外資系だから英語も使える機会がありそうなのと、給与面と待遇が他より魅力的だったかったからだ。
「そうなんですが、僕は農協観光に入りたいと思ってます。実家が農家だから、親が何度か利用したことがあって、その時から入りたいと思っているんです。」
「へえー、そうなんだ。」
「農協観光はJAグーループだから、旅行好きの農家会員が、旅行積立をするんです。毎年、地元の仲間同士で団体旅行に出かけるのを楽しみにしてますからね。最近は海外旅行も流行っているみたいですよ。僕もリーダーと同じで添乗で海外旅行に行きたいと思っています。」
確かにそうだな。農協や信用金庫は預金者向けの積み立て旅行ツアーをやっていて、昨年、父のマモルと隣近所のご夫婦が信金の積み立てツアーでオーストラリア旅行に参加した。その際メルボルンでカツヒロを訪問してくれて、とても感激したのを思い出した。
「そうだ、昨日、就職室の掲示板に学校推薦の案内があったから、あとで一緒に見に行かないか?」
カツヒロは弾んだ声でトミーを誘った。
「うん、行きましょう。学校推薦は人気が高いけど、上手く校内選考を通過出来れば内定がもらえるチャンスが大きいですからね。」
「そうだね。宝くじも買わないと当たらないと言うけど、ダメモトで応募して見ようと思っているよ。」
「おっ、良いのがあるぞ。私鉄大手の東急観光だ。確か旅行会社で東証一部上場企業はここと近畿日本ツーリストだけだよな。」
カツヒロは少し興奮気味にトミーに問いかけた。
「あっ、良いですね。ダメモトで受けて見ましょうか?」
トミーの目が輝いているのが分かる。先日あった就職強化合宿で就職課の部長が言っていた"甘い気持ちで就職活動をしたら、内定なんて一生取れないぞ″と言う言葉を思い出したが、とにかく受験をしなければ始まらない。
「よっし、やって見よう。」
カツヒロは右手のこぶしを握り、自分を励ますように、気合を入れた。
二人は就職室に入り、学校推薦の申し込みをした。3日後に選考面接が実施される。先日、就職強化合宿でさんざん書かされた手書きの履歴書に写真を貼って次の日に持ち込んだ。校内推薦はカツヒロだけ合格した。倍率は4倍強で、10名が最終的に選出された。
「よっしゃー。受かったぞ。」だけど、これは予選みたいなものだから本番はこれからだ。嬉しいけど、まだ先は長い。だめだったトミーの分まで頑張って内定をとるぞ。
カツヒロは、池尻大橋の東急観光本社で2度面接を受けた。1回目は6月初旬に面接官2名に対して受験生が8人。簡単な自己紹介と「入社したらどんな事に力を入れたいのか?」「あなたの長所と短所を教えて下さい。」と聞かれた。面接は全体で20分で終了。カツヒロのグループには他にトラジャル生はおらず、他の旅行系専門学生と短大生が一緒だった。
3日後、学校の就職課経由で一次試験に通過した事が知らされた。
2回目の面接は2週間後だった。今回の面接が最終試験になる。面接官は前回と同じ2名、受験生3名ずつだった。一次面接は全員に対して同じ質問が投げかけられたが、今回は一人一人個別の質問が来た。カツヒロは新聞奨学生の事と留学について尋ねられた。
それから1週間、毎日、ソワソワして落ち着かない。ダメだったら、直ぐに第一志望のアメリカン・エクスプレスを受けるつもりでいたが、あっけなく内定をもらえた。トラジャルからは10名の学校推薦のうち、カツヒロを含めた4名が合格し内定通知を受けた。
つづく。
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