第68話「B767-200,300の乗務資格」
EPトレーニングの5日目。いよいよB767のSafty & Emergency Procedures 試験が実施された。問題数は全部で20問。はじめの10問は、3択問題だから読み間違えをしなければ、それ程難しくない。
1.What checks are required to ensure your door is closed and locked? (非常ドアがきちんと閉められ、ロックがかかっているかを確認する手順は?)
解答:• Check nothing stuck in door frame. (ドアのフレームに何も挟まっていないかを確認)• Push down and check Door handle is fully locked.(ドアハンドルを押し、完全にしまっているかを確認) • Door locked indicator is in view.(ドアロックの印が見えるかを確認)
2.If difficulty is experienced when arming a door, what is the required procedure? (ドアモードをアームドにする際に、問題が発生した場合の適切な手順は?)
解答:• FA1 must be informed during the door challenge.(ドアチャレンジ/ドアモードの変更時にFA1に情報を伝える事) • Responsible FA must guard the door until corrective action is taken.(担当FAは適切な処置が行われるまで、ドアをガードする事)
※FA(Flight Attendant)、FA1はフライトアテンダントのチーフの略
3.What indication is there that oxygen is flowing to a fixed oxygen system passenger mask? (乗客用の酸素マスクから酸素が供給されている事を確認する方法は?)
解答:•Check green oxgyen indicator becomes visible.(緑の酸素供給印が見れれるかを確認)
カツヒロのシャーペンシルを握る右手は緊張から軽く汗をかいていた。
「どれも基本的な問題だから、落ち着いて答えれば大丈夫。」自分にそう言い聞かせ、“どれか一問でも間違えたら、不合格になる”と言ったネガティブな感情は一切考えず、冷静に一問一問を解いて行く。どうにか最初の10問は何とか全て自信を持って答える事が出来た。
ヨッシャー!半分終わったぞ!カツヒロは心の中で、そう叫んでいた。
次に緊急脱出の手順のテスト。
これがエマージェンシー・ドリルと呼ばれるものだが、客室乗務員は担当するドア、又は取り外し式の出口によって、異なる手順や脱出時に持ち出す非常道具が細かく決まっている。当然だがこれを丸々暗記しておかなければならない。
B767の場合前方と後方に左右2か所のドアがあり、更にオーバーウイング(羽根の部分)に取り外し式の出口が左右2か所ずつ。この取り外し式のドアは18KG程の重さがあって、実際に写真ような方法で取り外す練習もする。
ドリルのパターンは大きく分けると地上着陸と水上着陸脱出の2つのパターンがあり、水上着陸の場合はライフジャケットの着用と脱出用滑り台は機体と切り離し、スライドラフト、又はライフラフトとして使用する。
※カンタス航空さんのスライドラフト訓練の様子
B767-200と300型機で合計12パターンのドリルを一文字一句間違える来なく暗記しなければならない。本番のテストではこの12通りの脱出手順の中から、ランダムに2問が選ばれる。
例えば、「B767-300のFA3のポジションで地上着陸の場合の手順を記入しなさい。」と言ったもの。
新人FA達は、この手順を一文字一句間違えないように、慎重に答案用紙に記入して行く。この時間がカツヒロにとっても、他の同期達においても5週間のトレーニングの中で最も緊張した瞬間だった。
ドリルの記入が終わると、最後にEmergency Equipment(緊急時に使う道具)の配置問題。
実際の乗務でCAは、出発前に担当ドア付近の用具を確認するようになるから、そうなれば、どこに何が何個配置されているかを自然に覚える事が可能だが、フライトした事ことの無い、新人クルーにとっては残念だがその機会は未だ与えられていない。
だから、ひたすらマニュアルを見て暗記するしかない。
※A330のEmergency Equipment locations(消火器、スモークフッド、懐中電灯、ライフジャケット、ファーストエイドキット、ビーコン、拡声器など)
それでも、慣れてくると配置のパターンが分かってくるので、消化器はギャレーの側にあるとか、その近くにもれなくスモークフッドも用意されている。
ビーコンと呼ばれる EMERGENCY LOCATOR(航空機が遭難した際に、遭難信号を発信し救難隊に避難場所を知らせる)は対角線上に配置と具合で効率良く配置を暗記した。
カツヒロは全体の5番目に試験を終了して、休憩室に向かった。
すると先に試験を終えていた、ケイトが「大丈夫だった?」と聞いてきた。
「うん、ありがとう。何とかね。」
「そう、カツヒロはスゴイよね。だって英語が母国語じゃないから、大変だったでしょう」
「うん、大変だよ。でも、キャビン・クルーに成りたい気持ちは皆と同じくらい強いから頑張ったよ。」
「偉いね。私も日本語頑張って勉強しようかな?」
・・・。
試験の採点はその日のうちに行われ、美紀子が合格点が取れなかったと知らされた。それ以外の12人は無事にパスした。
美紀子は結局、トレーナーと人事部の判断で、767のトレーニングを再度やり直すことになり、一週後のグループに合流する事になりました。
カツヒロは美紀子に、何か声をかけるべきか悩んだ。だけど、美紀子の性格を考えると、今、つまらない励まし等で取り繕うより、そっとしておくべきと判断した。
美紀子も必死に努力して試験に臨んだはずだし、乗客の命を預かるCAの仕事の厳しさを十分理解している。多分、誰もいないところで、悔し涙を流したことだろうけど、この悔しさをバネにより一層の飛躍をして欲しいと思った。
12人はB767の200と300型機のに関して12ヶ月間の乗務資格を得ることになった。
だけど、次週待っているB747のトレーニングと試験の事が気になり、まだ、誰も両手を上げて喜ぶと言う段階では内容だった。
つづく。
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