第62話「CA同期の婚約と結婚」
トレーニング5日目。
予告通り、B747-400型機のレイアウトテストが行われた。
※A380の機内レイアウト(B747-400も同じ2階建ての機材です。)
「うわ~、今日もテストか、嫌だなー。」
カツヒロは、昨日も自宅で3時間復習をした。B747の方がB767と比べて収容人数も多いし、それだけ搭乗するクルーの人数、脱出用のドアも増えるから覚える事が多くなる。
「カツヒロ、昨日は何時に寝たの?」
スーザンが声をかけて来た。大学時代にチアリーディングをやっていただけあって、いつも元気で声が大きい。
「俺は11時30頃だよ。朝は5時起きだから睡眠時間は5時間ちょっと。やっぱり眠いよ。」
「そうなんだ。私も遅くまで勉強していたから12時近くまで起きていたわ。本当に毎日、覚える事が多くて大変だよね。」
「うん。ほんと。大変だね。だけど、やるしかないからね。がんばろう。」
「うん。CAになるためには、避けて通れない道だから、がんばろう。」
時々、こうやって声をかけてくれる同期の仲間は本当にありがたい。CAの仕事で一番大切なのはチームワークだから、毎日のコミュニケーションを大事にしよう。
・・・。
今回の747-400レイアウト+@テストは全員が満点でパスをした。2日のテストで赤点を取ったジャスティンとカツヒロもこの事で自信がついてきた。
「皆、今度の土曜は私の家でバーベキューパーティを行うから、暇な人は参加して。パートナーも同伴でOKよ。」
インストラクターのミッシェルの表情は何時も以上に楽しそうだった。それから、彼女は住所と電話番号を黒板に書いた。
「場所はミッションベイのスターバックスから3つ目の角を左に曲がって、4つ目の白い3階建ての家だから、分からない人はスターバックスに到着したら電話して。」
「やったー。嬉しいなー。皆、行くでしょ?」
と真っ先にケイトが言いだした。
すると、仲良しのスーザンが「ケイト、フィアンセを連れておいでよ。」と肘で軽く小突きました。
「ダメなの、彼は土曜日仕事だから、今回はちょっと残念ね。」
「あら、そう、残念ね。でもさー、このトレーニングが終了したら、式を挙げるんでしょう。」
「うん、そうなの。ちょっと準備が大変だけど、フライトが始まると、中々、スケジュールを立てづらいでしょ。」
二人の会話が終わると、殆ど同時にキャシーとアンディが「おめでとう、ケイト」と祝福した。
ケイトは「ありがとう。」言ってほほ笑むと。
「実はね、スーザンも先日、彼にプロポーズされたんだって。」と皆に暴露して、舌をを出した。
「えー、ケイトだけでなく、スーザンも。二人とも良いな。うらやましい。」
教室内が一気にあったまった。
※同期の結婚式の写真(トレーニング終了の3日後に実施)
「ミッシェル、服装はカジュアルで大丈夫ですか?」とレイチェルが少し、申し訳なさそうに、尋ねた。
「もちろん、いいわよ。バーベキューだから、多少汚れても良い格好で来てね。」
「一人1本はワインを持参した方がいいかな?」
「それなら、俺がまとめて買ってゆくから、皆で割り勘しよう。」
皆、試験が終わって気持ちがハイになっていたようで、とにかく全てが楽しい時間でした。
・・・。
午後は税関職員による特別授業。
現役の税関職員の女性がやって来て、30分ほどのビデオを見せられた。その後、持参したアタッシュケースを開いた。すると中から本物のコカイン(ガラスの標本に入っている)取り出し、
「これが本物のコカインだから、よく見て覚えておいてちょうだい。」
※実物のコカインの写真(インターネットより引用)
「残念だけど、世界中で貴方達のような客室乗務員やパイロットが毎年数人、コカインの密輸で逮捕されているんですよ。世間一般よりも、たくさんの給与や特権が与えられているのに。」
と少し強い口調で警告するような雰囲気だったが、皆、真剣に講義を聞いた。
「会社から言われていると思いますが、機内で不審な動きをしている乗客がいた場合は、遠慮なく通報して下さい。」
「例えば、ずっと食事を口にしない、飲み物を飲まない。そういう人は要注意です。機内をしっかり見張っていて下さいね。」
客室乗務員の仕事は本当に幅が広いとカツヒロは思った。
今まで知識としては何となく分かっていたけど、麻薬の密輸やパスポートの偽造入国、ハイジャックやテロリスト犯を未然に防ぐ事も自分たちに課せられた大事な任務だと、自覚した。
税関の職員が去った後、ミッシェルが犯罪者や強制送還者を運ぶ際のマニュアルと検疫検査に関する授業を行いその日のトレーニングが終了した。
つづく。
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