第18話「未来の移住国、ニュージーランド」
1991年から92年の年越しは、西オーストラリアの首都、パースで過ごした。たった2日間しか滞在は出来なかったけど、美しく洗礼されたその街の姿はカツヒロにとってもの凄く引き付ける何かがあった。
それは、言語化するのは難しく、Do not think it, feel itとブルースリーが映画燃えよドラゴン(Enter the Dragon)の中で言ったセリフのように、考えるのでなく感じるモノなんだと・・・。美し海、澄んだ空、美味しい空気、人口が100万人規模の都市であっても、そういう原始的な魅力にあふれる街なんだとカツヒロは思った。
「この後、メルボルンまでフライトしたら、オーストラリア周遊旅行は終了だ。ちょっと寂しいな。でも仕方ないか、十分オーストラリアを楽しんだもんな。」
オープンチケットで買ったマレーシア航空の帰国便は1月11日発で予約が確定した。メルボルンには1月2日の午後に到着、その日は空港の近くのホテルに泊まった。明日、午前便でシドニーまで行き、そこから更にニュージーランドのクライストチャーチまでフライトする事になっている。
金銭面で旅行に行くかどうか、とても悩んだけど「行ける時に行かないと後で悔やむ気がして」両親にはすまないが、明日から6泊7日のニュージーランド南島旅行へ出かけてから日本に帰国する事にした。
「よく若い子には旅をさせろ」と言うが、旅と言うのは非日常の連続だから思い通りに行かない事もある。誰かが予め作ってくれたパッケージツアーなら、ホテルを探す心配も食事や交通機関も準備されているから大して苦労はない。だけど、それを自分一人の力で行う場合はその人の人間力が鍛えられる。
カツヒロはケアンズで、初めてヒッチハイクに成功した。空港から街の中心までの移動だから、そんなに長い距離ではなかったけど、その事でとても自信が着いた。ホテルはガイドブックにも載っていたけど、電話なんかせずに直接出向いて予約交渉し値段を下げてもらったらもした。そういう積み重ねが一人の若者の成長を助け将来、海外でも自立して行ける力の源泉になった。
・・・。
翌日、カツヒロはアンセットオーストラリア航空でメルボルン~シドニー間を移動し、シドニー空港から更にキウイエアラインでクライストチャーチへ向かった。このキウイエアラインが、8年後にカツヒロの勤務先になるとは、この時、全く微塵にも思っていなかった。
今回の旅の予定はトラムや大聖堂で有名なクライストチャーチを起点に、大学生の街ダニーデンまで電車で下る。そこからバスで女王の街クイーンズタウン~世界遺産で南島観光のハイライトミルフォードサウンド~美しい湖が広がるワナカ~善き羊飼いの教会(The Church of The Good Shepherd)があるテカポ~そして再びクライストチャーチと周る行程を組んだ。
海外旅行専攻科で旅行地理が得意だったカツヒロは、留学にする前オセアニアの地理をしっかり予習していた。学校の図書館に世界中のガイドブックやビデオテープ、旅行会社のパンフレットがあったから、それをツアーの参考に旅程を組んだ。
そうえいば「ニュージーランドは日本から遠いからめったに添乗では行けないよ。もし、行く機会があれば、ミルフォードサウンドとクイーンズタウンには行っておいた方が良いよ。」と言うのが、池田先生のアドバイスだったから、その二つは必ず行きたいと思っていた。
ニュージーランドって、ヒツジがいっぱいいるって聞いていたけど、旅の途中、2回ヒツジの大移動で道路が占領されてしまった。実際に現地に行くまではオーストラリアと似ているのかと思っていたけど、そうとも言えないと思った。
一言でいえば、ニュージーランドの方が、より田舎で素朴な感じ。ニュージーランドの南島は雪も積もるし結構寒いけど、オーストラリアはそんなに寒くない。どちらの国民も陽気で人懐っこい性格は案外似ているかもしれないけどな。
それがカツヒロの感想だ。
ニュージーランド南島旅行は、ほぼ計画通りにスムーズに進んで行く。ダニーデンのホテルではニュージーランド人のお父さんと10歳ぐらいの男の子が一緒にビリヤードをやろうと誘ってくれた。クイーンズタウンのスカイゴンドラで一緒になった夫婦がカツヒロの事を気にってくれて、頂上でランチをごちそうしてくれた。ミルフォードサウンドは良く雨が降るそうだが、カツヒロが訪れた時は雲一つない快晴で最高のコンディションだった。
ワナカもテカポも湖が本当に美しく、その姿を眺めているだけでも心が躍った。ニュージーランドは手つかずの自然美が魅力と言われているが、本当だと心から感じ取れた旅だった。住んでいる人も優しく親切だ。本当になんて良い国なんだろう。
また何時かこの国をゆっくりと旅行して見たいと思いつつ、カツヒロはニュージーランドを去った。
つづく。
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