第28話「2週間のヨーロッパ添乗」
東急観光㈱に入社して半年が過ぎた頃、カツヒロにヨーロッパ添乗の仕事が舞い込んだ。この半年間、新入社員として10本近く添乗の仕事を体験してきたが、本日、副支店長の北島より正式にヨーロッパ12泊14日の添乗員に行くように指示された。
カツヒロは仕事帰りの電車の中で、本当に自分が添乗で良いのか少し悩んでいた。
「どうして担当の安田さんでなくて、俺なんだろう?」「ヨーロッパに行けることは嬉しいけど、まだ一度も行った事ない場所だから、上手く添乗できるかな~?」
それと言うのは、北島から添乗に行くように指定されたヨーロッパ旅行は、本来カツヒロの上司で、同じ一般旅行セールス課の安田が行くはずだったからだ。安田は入社3年目で香取郡町村会のヨーロッパ視察旅行のセールス担当。カツヒロは千葉支店に配属されて3か月間は安田に同行して営業活動を覚えた。
その日、JR千葉駅を21時10分に出発する電車で、内房線の君津駅を目指していた。JR君津駅はカツヒロの実家の最寄り駅だが、駅から車で更に20分かかる。会社から家が遠い事もあり、毎日、君津駅発7:21分の電車で通勤している。実家を出るのは6時50分。駅前に月7,000円で借りている駐車場に車を停め、速足で階段を駆け上ると7:15分には電車に乗る事が出来た。
JR内房線7時21分発千葉行きの普通電車は君津駅が始発だったので、早めに電車に乗っていつもの席を確保する。そこから51分かけて千葉駅まで通勤するのだが、いつも電車の中で40分以上寝ていた。
会社の始業は午前9時。毎日8:50分から朝礼が行われる。カツヒロと同期の入社の牧野、田中、布施の4人は8:30に集合して、先輩たちの机をぞうきんで拭き、同時に灰皿にたまったタバコの吸い殻を集め、汚れた灰皿を洗った。そして、最後にゴミ籠を一か所に集め、指定されたポリ袋に入れてゴミ捨て場に持って行く。
カツヒロは帰宅電車の中で、外を眺めながらこれまで半年間の事を考えていた。
最初の添乗で伊豆北川温泉1泊2日旅行を任された時は、かなり緊張したっけ?確か4月20日ぐらいで、新入社員研修が終わって1週間ちょっとだったと思う。先輩の鱸(すずき)から、これめちゃくちゃ簡単なツアーだから、新人の武藤でも大丈夫だろうと言われて、わけが分からないまま一人で40名程の社員旅行を添乗した。
確かに今になって思えば、鱸の言った通りで観光施設の案内はバスガイドさんがしっかりやってくれる。土木関係の会社の慰安旅行で、バスの中では皆、お酒を飲んで、カラオケをやってどんちゃん騒ぎ。伊豆バナナワニ園と箱根の大涌谷を観光する以外は、温泉にゆっくり浸かる事と夜の宴会を行う事が一番の目的だ。
そうなると添乗員の役割と言えば、お客様の人数確認や公衆電話から食事施設やホテルに電話して到着時刻と最終の人数報告など限られている。夜の宴会に誘われて、カラオケの司会を任されたが、皆、酔っ払っていたから、適当に「スゴク良かったです」とか「本当に気持ちよく歌われましたね。」みたいなありきたりのコメントを挟み、曲目と歌い手の名前を間違えない様に注意すれば事が足りた。
・・・。
その後、布施や田中達のいる学生旅行課(修学旅行などを担当)から応援要員として女子高の3泊4日の東北旅行に添乗した。東京の小岩にあるマンモス校で1学年1,000人が全て女子。一回に1,000人を動かすのは大変だから、500人ずつ2グループに分けて毎年旅行する。ここの修学旅行はJR上野駅から東北新幹線で仙台まで行き、そこから大型バス11台に乗り松尾芭蕉の奥の細道にちなんだ場所を周るツアー。
有名な日本三景の一つ"松島”や"中尊寺”、"山寺”、"立石寺”などを観光し、帰りは新潟から上越新幹線で東京駅に戻って来る。添乗員は専門の派遣会社から2名の応援要員を入れて全部で5名。夜、来年以降も仕事が受注できるようにと先生方を接待しなくてはならないから、布団に着けたのは朝の2時。
だけど、若かったから、その後、ガラガラの大浴場に行き同期の田中とゆっくり温泉に浸かった。女子高の添乗はそれ1回だけだったが、高校生は未だ男性を良く知らないのか?若いカツヒロと田中はめちゃくちゃモテた。ツアー中もたくさんツーショットの写真をせがまれ悪い気はしなかったが、旅行が終わってからも支店に手紙が届き、デートの誘いも10件近く受けた。
電車は木更津駅まで到着し、次が目的地の君津駅だった。21時50分を周っていたが、車内は残業帰りのサラリーマンやOLで半分ぐらい埋まっていた。
「皆おそく遅くまで大変だな。」まあ、俺も人の事は言えないけど。
カツヒロは小さな声で、独り言を言った後
「よっし、ごちゃごちゃ悩んでも仕方ない。ヨーロッパ添乗、思いっきり楽しんで来よう。」と決心を固めた。
君津駅に到着し、車を運転し始める頃には「自分で大丈夫か?」と言う不安より「なんたって、タダでドイツ、オランダ、フランス、イギリスの4か国を旅行させてもらえるチャンスなんだから、もっと喜ばないとね。」との期待の方が圧倒的に大きくなっていた。
つづく。
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