世界遺産〜小笠原諸島 最終編〜
前回は、小笠原諸島の生物を紹介しました。ほんの一部ですが、小笠原諸島独特の生態系や、進化の宝庫である環境を感じ取ることができました。一方で、その生物たちについて、「最近は姿が見られない」や「絶滅危惧種に指定されている」など、悲しい現状も目に入ってきました。
今回は、小笠原諸島の貴重な生態系や生物を持続させるために、人間が取り組んでいることを紹介します。
ノヤギの駆除
食用の家畜として持ち込まれたヤギが野生化してしまった結果、植物がテベつくされてしまったり、土が踏みつけられて地表が剥き出しになってしまったりといった被害が拡大していきました。貴重な固有種も、ヤギにとってはただのご飯。また、植物がなくなった土壌は、海に流れやすくなってしまい、珊瑚礁などにも影響を及ぼします。
本格的に駆除を施行し、現在では父島以外の島ではヤギの根絶が成功。固有植物が回復してきているようです。北海道の鹿問題とも少し被ります。人為的な個体数調整に全面的に賛成なわけではないけれど、この例は貴重な保全の一例だと思います。
野ネコの捕獲
ペットやネズミ対策用に持ち込まれた猫が野生化。貴重な鳥類を食べてしまう事態が続いていました。特に人が住む父島や母島には多くの野ネコが生息していました。
深刻な箇所中心に、捕獲(本土へ返送して飼い主を探す)を進め、侵入防止策の整備なども行った結果、減少していた鳥類が再び繁殖するようになったそうです。
2020年には「小笠原村愛玩動物の適正な飼育及び管理に関する条例」が施行され、ペットの正しい飼育、ネコに対する避妊や去勢、マイクロチップの装着を義務付け、再発を防いでいます。
このような例は、小笠原諸島に限らず、日本のさまざまな場所で見られます。もともとそこにいなかった生物によって、その場所の生態系が壊されてします。回復している現状を見ると、成功なのだとは思いつつ、ここまで来るにはかなりたくさんの人苦労があることが想像できます(捕獲、返還、飼い主探し、規約作り・・・)。一度壊れたものを戻すのは、本当に大変なのだということを忘れてはいけないなと思います。
グリーンアノール
外来種であるグリーンアノール。見るからに強そう・・・この生物が侵入してしまった父島・母島では、昆虫層が壊滅状態にまで陥ってしまったそう。これ以上他の島で侵入が進むと、深刻化が止まらないということで、グリーンアノールに捕食される希少昆虫の保護区を設けるとともに、グリーンアノールの捕獲が進められています。徹底的に侵入防止策を進めているとのこと。
アカギの駆除
薪や木炭の原料とするために持ち込まれたアカギですが、その強い生命力ゆえに、他の樹木の生育地を奪っていきました。
繁殖力も強く、多くの島で存在が確認せれています。弟島と平島での駆除は完了しており、現在では母島での駆除に力を入れています。
「外来種」と聞くと、動物や魚を思い浮かべてしまうのですが、植物だってもちろんそうです。直接的に「捕食する」という行為はなくとも、その繁殖区域や栄養分の競争、日光の競争などで、固有種に影響を与えます。小笠原諸島では。他にもモクマオウ(樹木)の駆除も進めています。
アホウドリの新繁殖地
アホウドリが乱獲された1930年代、かつて繁殖地だった場所からアホウドリが姿を消してしまいました。現在では、乱獲が禁止され、島が保護されるようになり、クロアシアホウドリやアホウドリの繁殖が確認されています。
アホウドリの繁殖地は、世界の中で小笠原諸島と尖閣諸島のみだそうで、この場所の保存が、アホウドリの絶滅に大きく関わっていることが分かります。
どうか、アホウドリが安心して繁殖できる場所が、少しずつでいいから増えてほしい。
他にもさまざまな希少生物を守ために、外来生物の駆除や保護区の設定などを行なっています。これは機械でどうにかできることでもなければ、根本を断ち切ることを完全に管理できるものでもありません。
地道に外来種が持ち込まれるのを防ぎ続ける。外来種が本当にいないのか、探して、ハンターが駆除する。その活動を島民にも観光客にも理解してもらう必要がある。経済的な支援も欠かせないし、人員確保も欠かせない。
世界遺産だからこそ、こういう実態、事実、努力を知らせることが他の場所よりは叶いやすいはず。素晴らしい生態系がそこにあるのは、当たり前のことではないし、それを壊しているのも人間、守ろうとしているのも人間で、自分ならその様子をどう解釈するのか、考える必要があると思います。
小笠原諸島で起きている問題は、日本、世界のいろいろなところで起きている問題です。直接できることは少なくても、関心を持つ人が増えればいいのになと思います。