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みすゞの魂に寄せる憧憬
金子みすゞの詩による三つの童謡 (2004)
2004年初春、金子みすゞの数ある詩作の中から、特に心に触れたものを3作選んで、あまり捻らず、素直な感興を平易なカダンスに乗せたメロディで付曲した。
とかく重量級の作品が歓迎される現代音楽の世界では〝正統なる歌曲〟の扱いを受ける事はないのだろうが、こういう作品があっても良いと思う。
第1曲〈花のたましひ〉-浄土に花綻ぶ詩人の魂
この詩で歌われる〝花〟の、ただただ周りに幸福感を与え続ける姿に、古の聖人たちの生きざまを見る事ができるだろうか。
音楽は遠くに山田耕筰のエコーを聞きつつ、詩人の素朴な信仰心を詠う。
第2曲〈砂の王國〉-砂上楼閣のオルゴール
この詩については、他の多くの作曲家が〝王国〟のイメージを強く色づける傾向のある中、あえて〝砂〟の儚さに焦点を当てた。王国の〝砂上楼閣〟は、オルゴールの奏でる中で淡い幻想として築かれ、ゼンマイの回転が止まる(最終小節の空虚五度+増四度)と同時に霧消し現実に還る。
メロディラインは〝語るように parlando〟かつ〝夢見るように sognando〟歌われる。
第3曲〈さみしい王女〉-帰らぬ夢の日々への惜別
魔法が解けて現実世界に引き戻された王女は、華やかな宴と華麗な庭園の中で、小鳥となって空を飛んでいた〝夢の時代〟を懐かしむ。
ピアノ伴奏はクラヴサン(チェンバロ)風を想定しているが、聴きようによっては琴の音のようにも思える。和洋折衷の、竹久夢二や中原淳一の描く挿絵の世界が心象風景として存在する事も付記しておこう。
上記3曲のうち〈さみしい王女〉は、平成25年度奏楽堂日本歌曲コンクール「第20回作曲部門・中田喜直賞の部」に入選。同コンクール本選会にて初演された。作曲から10年近くを経ての実演ということになる。
他の2曲は、残念ながらまだ実演の機会を得ていない(ご興味をお持ちの方は、筆者までご一報いただければ幸甚の至り)。
音源サンプルにはいずれもボーカロイド(初音ミク)を用いた。
楽譜はAmazon Kindle にて公開されている。