浮遊石
反転した意識に浮かび上がったイメージが、昔に見た夢の記憶を蘇らせた。
空を飛んでいる… という感覚だけが身体を通して伝わってくる...
この今を通して生起してくるイメージの連鎖が、昔の夢とシンクロしながら細胞の増殖のように進行してゆく...
石に宿された刻印が葉脈のように賦活され、まるで蛹の中に充填された命のように鼓動している...その脈動とともに命を吹き返した夢は、イメージのなかに転生して今を生きている...硬い石の殻のなかに極めて柔らかな液体で満たされた私がいる… という不思議な感覚とともに私は空を飛んでいた...
そのとき石は言った… その夢はわたしが見た夢なのだと...ともに夢を見てくれる人を探していたのだと...
私がこの石と出会うずっと前から、この石は私のなかに生きていたのかもしれない...私は石のなかに生き… 石は私の夢のなかに生きている...
脈動が誘う音楽のなかに時間も空間も溶け合い、記憶の粒子が踊りだす夢のなかで、私の意識だけが液体となって石のなかに満たされたような感触とともに、封印された石の記憶がさざなみのように伝わってくる...
風の冷たさと、石のいのちの温かさを同時に感じたとき、私はこの石が泣いているのかもしれない… と思った...なぜそんなことを感じたのかという疑問すら風に溶けて流れていった...
石のなかに抱かれていながら風をさざなみとして生きている… という不思議な感覚のなかで、この石は風を呼吸し、泣きながら身を溶かしていることに気づいた...風を受け石は微細な粒子となって私のなかに沈殿し、私は石の中に浸透して葉脈のなかを廻っている...さざなみの振動によって溶け出す石の記憶と、増殖してゆく細胞とが互いに繰り広げる時間の舞踏を演じながら石は言った...この時を待っていたのだ… と...
封印を解かれた記憶の粒子に導かれながら、私はこの石が辿ってきた時間の記憶によって映された虹を観ていた...それは目に映る光景ではなく、虹そのものの音楽と言ってもいい世界だった...
それはどこか遠い懐かしさを想い起こさせ、この石が宿す温かさの源で在ることを歌っていた...そして私は想い出した… 私も嘗ておなじ歌を聴いていたことを...
そのとき彼は言った…「友よ」と...
そこにはもう言葉は必要なかった。
遠い記憶が映し出す再会...そして約束...
共に旅立った意識の海を越えてえにしの絃は響き合い、その鼓動は新たな記憶として刻まれてゆく...それは未来へと歌われてゆく証として、空に架かる虹の譜面に記されていった...
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